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第8話 異世界美人賢者が 現代に降臨する

専任税理士、と呼ぶとかっこいいが。

会社のご縁でなぜか担当になることになった社長令嬢の田辺美香、彼女が今日は新しい事務所の打ち合わせの件でやってくるのである。


打ち合わせというか具体的な金額について話してくれるので、それを元にネコマサと事務所建築について検討しようということになっているので、まずは先立つものが決まらないと話が進まない。

ネコマサに新しい事務所設計させたら、軽く億はかかりそうな豪邸の図面を出してきたので却下したところだった。

賢者の時代の感覚で家を設計するので、すぐ城とか砦、神殿レベルの大きさで作ろうとしてくるのだ。よくわからない「謁見の間」とか「奴隷女中の部屋」「厩番」とか普通にねじ込んでくる。

現実的なところでやってくれと、そういう話をするにも先立つものがわからないと具体的なことができないので。


その日は朝から、資料を集めたり家を片付けたり掃除したり、ネコマサのご飯を作ったり洗濯物を干したりとバタバタとしていたが。

いつもなら朝のご飯を食べる時間でもネコマサが居間に現れてこない。


以前も起きてこないことはあったが、その場合は事前にアプリに連絡がある。

ゲーム制作でノリノリの状態の時は途中で止めたくない、ということで食事時間がズレることはちょいちょいあるのだ。

ちょっと喉を鳴らせばスマート首輪から光正のスマホにメールが送れるのだから、作業中でもすぐできるはずなのだが。


このように連絡が一切無いのは珍しい。


そのまま機材に埋まってたり、倒れてるんじゃ無いだろうな。

それとも、いきなり異世界に戻ったとか、そういうことはないだろうか。


などと心配してしまう。


異世界に戻る術ができたらすぐ帰っていきそうだもんな〜、弟と会えるとかなったらすっ飛んでいきそうだし。

作りかけのゲームほっぽり出されても自分には続きが作れんから、楽しみにしてる人ががっかりするだろうな、とか考えつつ


部屋の前に行き声をかけてみるが、中からはキーボードを叩く音が聞こえるので何かしてるのは確かだが。

キーボード?

今更物理キーボード叩くかな?


猫の手なので、物理キーボードは使いにくいため、普段はスマート首輪からの指令で視線誘導式の仮想キーボードを動かして入力しているので音は聞こえないのだが。


部屋前で色々と考えたところで話は進まない。そして、よくみると扉の鍵は空いて少し隙間が開いているようだった。

普段はガッチリ鍵閉めてるのに、今日はいろいろ気が回らないくらい忙しいのかな。


ということは、中で閉じ込められているわけではないことに少し安心して


「おーい、午後から客来るから、早く朝飯を食ってくれないと困る・・・


と言いながら中に入って、


いつものネコマサがいるところを見て停止してしまった。


目の前には、薄暗い部屋の中で、PCの前に座った全裸の青色髪の美女が何かに取り憑かれたように必死にキーボードを叩いている姿があったのだ。


光正が入ってきたのにも気づいてないくらい。

画面を凝視し、何か変な薬でもキメているのか何かをぶつぶつ言いながらキーボードをすごい勢いで叩いている。

それも全裸で。


誰?

なぜ裸?

と思ったが、ネコマサの姿がないことに気づく。


「おい、ネコマサ?」


部屋を見渡して声をかけてみると、その女はゆっくりと首を回らしてこちらを見て首を傾げて。

そしてまた画面に向き直る


その顔に見覚えがあった。

先日完成したネコマサの賢者時代の姿だ。

髪色も、顔形もそのまま。むしろこちらの方が肌の色が白く陶器のようで、美しさがマシマシに見える。

薄暗い部屋の中、画面の光を反射した裸体が少し艶かしく見えてしまう。


もしや


「おい、ネコマサ!」


とその美女に声をかけると、


「なんだい、今いいところなんだから食事は後でって連絡したろう」


と言いながらこちらをくるっと椅子ごと向いてくるのでつい顔を逸らし


「連絡は来てない、そもそもその姿はなんだ」


「その姿?」


美女はゆっくりと自分の体を見下ろし。

そして光正を見て。


「スケベ!出ていけ!」


と手元にあったクッションを投げつけてきた

急いで外に出てから、


「なんて理不尽な。お前が全裸になってんじゃないか」


と文句を言うと


「うるさい。淑女の部屋にノックもなしで入ってくるのが悪い!」


と言いつつ、中で何かゴソゴソとしてる音が聞こえてくる。

そして毛布を身に纏った姿でネコマサ、いや賢者様がのっそりと出てきた。


「すまないな、日が変わったくらいからこの姿になってしまったんだ」


と、急に明るいところに出てきたモグラのように、しょぼしょぼした目つきで話しかけてくるが、元々が綺麗なので変な色気が出ているところが成人男性にはよろしくない。

身長は150センチくらいの小柄ではあるが、出るとこでて引っ込んでるとこ引っ込んでるので毛布の隙間から覗く手足がエロく見えてしまう。


「それに、スマート首輪が千切れ飛んでいたの忘れてた。自分ではいつものつもりでアプリに連絡したと思ってしまってて、悪かったよ」


そう言いながら、毛布を被ったまま居間へと歩いていく。光正より頭一つ分以上低いがのっそりと歩いているので軽快さはない。


居間にはネコマサのザリガニ模様の器に入ったネコ用ご飯が置かれていた。


「これ、食べる?」


光正が聞くと、ふるふると首を横に振り


「人間が食べるものが食べたい」


と言って座布団の上にどかっと座り込んだ。

いやしかし、このまま毛布一枚で過ごしてもらうのも困ったものだが。

動くたびに隙間からチラチラと色々膨らんだり凹んだところが見えてくるし。

自分のTシャツとかシャツを貸した場合の姿を想像をしてしまうと、

どう考えてもいやらしさが爆上がりしてしまうだけで精神衛生上よろしくない。

完全に見た目が同棲彼女になってしまう。

あとは寝巻きかジャージか。しかし女ものの下着がないからなー


そこで頭をフル回転させて、下着がなくて、女性のラインが出にくくて、いやらしくならない服を考えていたところ、浴衣を持っていたことを思い出した。

あれは本来下着なしで着るものだしちょうどいいのでは?

偏った漫画やSNSの知識で女性は浴衣下に下着を身につけないのが正式なのだ、と思い込んでいる35歳だが、男だってパンツ履いてるように、女性だって普通は下着は身につけているものである。

だが、この時光正は最高の答えを導き出したと思い込み、自分の部屋から浴衣を引っ張り出してきてネコマサ(賢者)に渡す。


「ほら、これあっちの脱衣所で着てこいよ。着方わかる?」


賢者はそれを広げてから、仕組みをざっと見て


「ああ、このタイプなら私の世界でも、夜着として使うものと似ている。大丈夫だ」


衣類は異世界でも基本的に同じようなものがあるんだな、と思いつつ。

まぁ人間の形してたら似たようなものに行き着くか。



脱衣所に行って着替えてもらう間に朝ごはんを光正と同じメニューに作り直していく。

物産館で買ってきた放し飼い地鶏の卵焼きと、猪肉のソーセージ。試作品でもらっていたものがあったのでそれを焼いて。

あとは近所の手作りパンと、猫にコーヒーは大丈夫だったかなー

と思いつつ、さっき人間になってたのを思い出してコーヒーも豆から砕いてネルドリップで淹れていく。


近くの喫茶店で焙煎した豆が売っているので、たまにそれを購入して。休日や時間ある時はその豆からコーヒーを入れているのだった。

たまに少量の生の豆を自分で炒ってから淹れるときもあるくらい、独身の男らしくコーヒーにこだわりを持っていたりする。

せっかく初めてネコマサが人間の姿になってきたので、美味しいものを食べさせてあげたいが、と飼い主目線で考えてたりするのだが。


そして居間のちゃぶ台にそれらを並べ終わったらネコマサが脱衣所から浴衣姿でやってきた。顔を洗って少し髪の毛もブラシを入れたのかさっきまでのボサぼさした寝起き感はだいぶ無くなっていた。


改めてみると、薄青い髪色に紫色のグラデーションというのは、いきなりコスプレイヤーが我が家に出てきて撮影会でもしてたかのような感じがある。

顔つきも象牙を水晶の彫刻刀で削ったかのようなシャープで滑らかで美しい

ただ、眠いのかアイスブルーの目がしょぼしょぼしてるのがちょっと。


浴衣は大体様になっているが、袖と裾が長いので子供が大人の浴衣を着たように少しブカブカになっているところが、コスプレ撮影会の合間っぽくておもろいな。

とか思ってしまう。これで目のやり場に困らないので光正は安心した。


ちょっと可愛いし。


賢者ネコマサは品のいい座り方で、横座りに近い形で座布団に腰掛け、手を組んで祈りを捧げ始めた。


「何してるの?」


「いつもやっている祈りをしている」


「いつもやってたっけ?」


「気づいてなかったのか」


「にゃむにゃむ言いながら上見てるな、と思ったことはあったけど。猫はそういう習性なのかと思ってた」


「それが、私が毎日食事を与えてくれた神々に祈りをささげ、ガッハッスナ神の加護を祈っていたのだ」


「ザリガニの加護か。ちなみに、エビとかカニとかザリガニとか食べても問題ない?」


「その辺のザリガニとガッハッスナ神を同じに扱うな、問題などない」


「それでは、とりあえず飯を食ってから詳しい話を聞こうか」


「うむ、しかし人間の姿で飯を食うのは数年ぶりだな、食べ方がわからなくなりそうだ」


「箸使う?」


「フォークとナイフをもらおう」


「ところで、フォークとかナイフとか異世界にあるん?」


「似たようなものはあるが、二股の串2本でフォークとナイフを兼用してあって、こちらでスプーンと呼ばれているものと同じのがある。それらで食事をしていた」


「箸はないのか」


「箸のようなものもあるにはあるが、特殊な宗教階層のものが使うイメージで我々は使わなかったな」


などと飯を食いながら、異世界トークをしているが。

会話していると、いつものネコマサとスマホ越しで話してる感じになるので、光正もいつも通りに話しかけてしまっているが。

目の前には絶世の美女が憂いを持った表情で佇んでいる。


久々に食器を使っているので、ひっくり返さないように慎重にソーセージを切り刻んでいるので伏し目がちになっているだけなのだが。


そして、食後のコーヒーと地元物産館で売られていた濃厚プリンまで平らげてから。


「人間の味覚で食べるご飯は美味しいな。甘いものもとても美味い。猫の姿でもネコなりに美味いとは思っていたが、それ以上だ」


光正は、ネコマサにはネコ用に薄味でご飯を出していたことは語らずに、


「そうかい、それはよかった」


と答えてから


「で、その姿はずーっとそうなるのか?」


と聞くと、手を少し光にかざすようにしつつ


「多分明日には猫に戻ってしまうだろう。一時的なものだ」


「理由は?」


「そうだなぁ、私の姿をゲームに出したのが原因ではある」


「ゲームに出したらこの次元に人間の姿がプリントアウトされたみたいな感じなのか?」


「いや、認識の話は前にしただろう。私の世界は存在の認識を否定していく蝕というものに消されている状態だと。

我々の世界では、認識されるということで存在が確定されていくのだ」


「つまりこんな美女がいますよ、と多くの人に見せておくと多くの人が「美女」の存在を認識してしまうと、それが有ることになてしまう世界ってことか。

でもそれはそっちの世界でこっちの世界とは違うのではないか?」


「こちらも同じだよ。不確定要素を認識させ、集合無意識で共有しているから君らはここに存在し物を認識しているのだから」


「ちょっと難しい言い回しだな。もっと猫でもわかるように」


「光正がここにいる、と二人以上が認識したら、三人目がきても光正がいると認識するだろう。

まず認識する人間が二人の場合。

一人が光正がいる、と認識しても、

もう一人が来た時に光正がトイレに行ってたら、そのもう一人は光正がそこにいたことを先の人から聞いたとしても確認してないから確率が1/2になるだろう。

その状態だと、光正がそこに存在した状態を確定されたとは言わないのだ。

認識する人間が三人の場合。

同様に光正がトイレに行ってる時に後から一人の人間が来た時。二人の先に来ていた人間が、ここに光正という人間がいたことを認識してて、彼はトイレに行っている。と話をしてくると二人の人間がそういうならいるのだろう、と後からきた人間は思うだろう」


「そうかな?」


「思え、集合無意識が認識するというのは「他の人が認識してるなら私もそれがあることを信じるわ」という汚れを知らぬ乙女の如き思想を持って世界を見ている人間たちのようなところがある。

光正もその影響を受けているから、この目の前にあるものをテーブルと認識し椅子と考えて座る事はないだろうに。

それにこれ、我らの国にはない食事用のフォークとナイフだが、私はこれを食器として認識し、今使っている。これもこの世界の集合無意識がこれを食器と認識しているから私も素直に使えているのだ」


「言われてみればそうだな。机は机、椅子は椅子ってなんとなくわかるもんな」


「その認識力はこの世界にもある。私の世界ほど露骨ではないがな。

そして、多くのユーザーが私の姿を試供品で見かけたことで、私の存在が集合無意識の一部に強く居座るようになった。

そして、私は理力を使うので、この世界のエネルギーの根源から情報をもらうことができる。

理力は人の集合無意識も、地球や生命の無意識にもつながっている。

そこで、人類の集合無意識に作られた私の姿が、私が使っている理力の力によりこちらに引っ張られてきて形になったのが今の私だ」


よくわからんが。


「なんか賢者っぽいこと言ってるな」


「賢者だからな」


「でも1日限定なんだ」


「理力を使ってしまうと維持するエネルギーがなくなる。

私は今日は、人間の姿になって、人間の頭脳が使えるのでめちゃくちゃ仕事が捗っている。それだけ理力も使うので持って1日、早ければ午後には猫に戻ってしまうやもしれぬな。夜中から一睡もせずにゲームを作っておったし」


「不健康なことしてるな。で、これからまたゲームを作ると」


「うむ、だがその前に、人間の姿になってしまったことで、いや、女としてお前に大事なことを聞いておきたいのだ」


「大事なこと」


「うむ、ちょっと恥ずかしいのだが・・・」


なんだ、恥ずかしいってなんだ?

エッチなお誘いとかされても、飼い猫とはちょっとそんな気分にはなれないから、断る理由を考えるべきか。

いや、でもこんな29歳な美人でナイスバディな人に誘われたら俺の下半身の理性が持つのか?


などとエロいことが一瞬脳裏をよぎっていたが、


背伸びして、そっと体を近づけて耳元で囁かれたのは

人間用のトイレの使い方がわからない、ということであった。


夜中、人間用のトイレに行こうとしたが、使い方がわからず猫の方で済ませたとかそういう話を聞いてしまい、さっきまでのエロい気分が一気に萎えたり。


今日のトイレ掃除すんの微妙な気分だなーと思ったりしてしまう。


詳しい人間用のトイレの使い方を教えていくと、シャワートイレの仕組みにえらく感動していた。

猫の姿でも水洗トイレが使えるという話をして猫がトイレ使ってる動画を見せてやると


「なるほど、猫でも人間用のトイレ使ってもいいのだな。これからはそれも検討しよう」


などと言ってくれたので、今後猫トイレ掃除が楽になるかもしれない。

しかし猫でもシャワートイレで尻洗うのかね?ビッチャビチャになりそうなのでその前に注意しておこう。



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