第19話 異世界の賢者 戦争を終わらせる
翌日の朝がきた。
朝日と共に陽光を鎧に跳ね返しながら精鋭の部隊と勇者たちが前線へと移動する。
一人の勇者を除いては。
その勇者はナーム=シュエザック、賢者ガッハッスナの弟である。
今回の作戦で、最も重要な役割を与えられていた。
それは、異世界からの理力の受信側になってもらうことだ。
賢者ガッハッスナは慎重に鎧に魔法陣を、理力と繋げる式を書き込んでいく。
「私は、異世界の姉様から援助を受けるのですか」
「そうね、どうやら、異世界にいる私の分体から理力を通じて援助を受けているみたいだから。前回の戦いでもそうだったのよ」
そう言いながら、銀の兜に赤い式を書き込んでいく。見た目には赤い模様が刻まれていくように見えるが、それらはすべて賢者の血を使い作られた、特殊な塗料であった。
賢者の分体、別世界、異世界のものとはいえ賢者の理力を使うことになるので、それがつながりやすくなるのは肉体の一部がそこにあること。
最も簡単に肉体の一部を外に出すには血液が便利なのでそれを使っているが、指でも足でも肉体の破片一部であればなんでも代用にはなるらしい。
そして、自身の青い髪の毛を編んで作った首飾りを弟の首へとかけていく。これは全ての勇者に送られていた。
別世界の理力を受け取り、力を得るために。
頭を垂れて姉からそれを受け取り。
勇者は胸の前に剣を構え。
「では、最前線にて魔物を退け、蝕の影響を打ち払ってきます」
と言い、姉に笑いかけた
「そう心配しなくても大丈夫です。姉様の立てた作戦なら間違いはないでしょう」
「死なないようにだけ、気をつけて」
「わかりました」
そう言って、勇者は外套を翻し、控えていた騎士達と妖精の道を通り最前線へと向かっていった。
そして賢者は王族の部屋へと向かい、国の安定の祈りを捧げてもらうようにし。
本人は、他の国々から集まってきた賢者たちの集まっている教会へと移動する。
教会、この世界の教義を教える施設で、ここで理力や半非物質世界、外部記憶領域の使い方などを教えられる。
それらの才能があるものは、さまざまな支配階層に選ばれていき。
才能がないものは、一般市民として労働力を提供する側になっていく。
大体は血により、遺伝により能力は決まっていたので、伝統的に支配階層だけを生み出している家は貴族となっていく傾向にあった。
その選別を行うところでもあるので、この世界の人間は生まれてから一定の年齢になると必ず通うのが教会であった。
そのように、理力を扱うには適した空間が作られているので、そこで複数の賢者が、異世界とつながる儀式を行うことになっている。
ガッハッスナが中心となり、異世界の理力から情報を、力を受け取り。
最前線にいる弟、シュエザックへとそれを伝える。
そこから最前線の他の勇者や精鋭たちへとさらに伝わっていき、全員に蝕に対抗する力が行き渡る予定だ。
前線とは妖精たちの道からの連絡により繋がっている。
本来は妖精と契約している勇者しか使えない道だが、妖精と契約できる人間は勇者以外にもいないわけではない。
自然を愛し、自然と共に暮らす生き方をしている人と妖精は稀に契約することがある。土地を大事にするので妖精に好かれたわけだ。
平和な時期であれば、本来は山や自然と共に生きていくはずであった彼らを集め、まとめて伝令として活動してもらっている。
元々自然と共に生きる人々なので狩人のように気配を察知させずに隠れるのも得意な人々が多く隠密仕事に向いているのもある。そして妖精の道を駆け抜けてくるので一瞬で情報のやり取りが可能となり時差がなく確実な作戦遂行が可能となるのだ。
妖精の道を使って伝令が頻繁に出入りするようになり、次々と情報が伝えられ、地図上に木製の駒がならべられ、移動させられていく。
狙い通り、順調に蝕の動きが固定されていった。
もう少し、このまま押し込んでいくとうまくいく
賢者たちは理力を解放する時期をガッハッスナの一声を、待っていた。
もう少しだ。と来るべき時期を見計らっていたその時、伝令が
「神が降臨した」
と伝えてきた。
「神とはなんだ?」
「そのままの意味です。蝕の存在を受け入れるものが現れました」
すぐに伝令が持ち帰った外部記憶領域の情報を読む。
そこには、蝕に覆われた大地の上に、巨大な光の輪が現れ、蝕の状態を「そのまま安定させよう」とする力が動き始めていた。
つまり、蝕の状態がこの世に許可されようとしているのだ。
別世界の神、というのは時々現れる。
この世界の外から世界の存在許可を与え、気まぐれに世界を変えていくものたちだ。基本的には存在しているものにさらなる存在意義を与えていくことが多く、森だったところが人間にとって価値のある作物がみのる地域に変化したり。
あるいは湖が一夜にして畑になったり、どちらかというと人間の存在をより確定させるために入ってくる外部の力、人を助ける力としてくる場合が多かった。
しかし、今回は、人類を壊滅させる方の、蝕を優位に動かすものがやってきたという。
これは想定外だった。
賢者たちにも動揺が走る。外部の外なる神の介入は、むしろ自分たちを助けてくれる方に働くと思っていたからだ。
そうなると、外なる神からの「認識」を否定し、蝕と切り離す必要がある。
このまま認識され続けると、蝕の存在がより安定し、こちら側の人類の方が不安定になり、結果蝕に蝕まれてしまう。
賢者は決断した。
すぐに勇者に理力を繋げ、その力を持ってして外なる神の影響を切り離してもらうように。
王族にはこのことは伝えず、国土を安定させる方にだけ意識を使ってもらう。
外なる神の介入など、動揺を呼ぶだけで何も役に立たない。
ガッハッスナは儀式を行うことを宣言し、伝令にはそのことを最前線に伝えてもらうようにした。
賢者たちが教会の中で祈りを捧げ、杖を捧げ、魔法陣を描き始める。
それらはガッハッスナへと集まり、一つの巨大な魔法陣が出来上がる。
それをまとめ、そして自分の異世界の分体たちからやってくる流れを固定させる。
理力は他の賢者たちから借りて、自分で不足している部分を補っていく。
そして、解放する。
それは光の線となって最前線にいる弟、ナーム=シュエザックへと届く。
鎧に描かれた赤い文字がが光り輝き、首飾りも光を持ち始める。
他の勇者たちの首飾りも共鳴し始め、ナーム=シュエザックを中心に勇者たちへと理力が、力が繋がっていった。
それは、膨大な戦いの記憶、情報、パターンであり、次元の異なる世界で繰り広げられたいくつもの勝利の動きが記憶されていた。
その情報を勇者たちは受け取り、自分の技に乗せて蝕と魔物たちを切り伏せていく。
勇者ナーム=シュエザックは、最も優れた技術と技が体に刻まれていく。異世界の人間が作り上げた、最高の戦いの記憶が身体中に共鳴していく。
理力が、力が集まり。
そして目の前に現れた異世界の神へと剣をふるった。
その後の戦いは一方的だった。
力を得た勇者たちは一気に蝕を、魔物を払い。
そしてナーム=シュエザックの放った剣は異世界の神の、甘い認識を切り伏せた。
覚悟のない認識など、追い込まれた人間の認識には負けるのだ。
外なる神が姿を消し、そしてその場の蝕が一掃される。
これまで暗い霧で覆われた世界が晴れ、青空が見えるようになっていった。
一気に蝕に侵略された地域が後退しミヒェルス国から蝕は一掃された。




