第20話 結末は夢の中で <第一部 最終話>
「という夢を見た」
人型になっているネコマサが納豆を混ぜながら、そんなことを言う。
「夢オチとか最・・・」
いいかけて光正は口をつぐんだ。ネコマサの見たものは夢とは限らないからだ。
ゲーム発売から2ヶ月がたち、売れ行きも好調、そして異世界のネコマサの世界に影響を与えていく目的は達成されている状況で、ネコマサは自分の世界がどのように改変されたのかを、外部記憶領域に情報を集めて確認する作業を行なっていた。
そして、夢、というものには「肉体の反応が夢になるもの」と「外部記憶領域を整理するときに見える夢」というものがあるとネコマサは言っている。
この外部記憶領域は光正たちにもあるのだが、気づいてないのだとか。
その外部記憶領域の情報を、今回は夢として捉えたのだという話をした後に、この壮大なストーリーを語ってくれたのであった。
今日は休日なので、朝ごはんは納豆ご飯と目玉焼き。
納豆にはとろろ昆布やネギ、うずらの卵などトッピングをして味わいを楽しめるように工夫がされていた。
そんな夢の話をしながら、光正の目の前にはジャージ姿の青髪の美人賢者が、納豆と格闘している姿あるが。
「それ、実際の自分が体験した戦争の時の記憶じゃないのか?」
と言われ、ネコマサは納豆を白いご飯に乗せながら首を傾げる
「いや、私がいた世界では、ここでミヒェルス国は外なる神の認識を得て蝕に飲み込まれ、そこから一気に蝕が力を持って世界を埋め尽くしていく流れになっていたのだが」
「つまりは、ゲームのおかげで、その戦争に勝った世界線が生まれたというわけか」
「そうなる。しかし、よく考えると救ったのは別の世界線の自分であって、今の自分は救われてないのだよ」
少し寂しそうに語って、納豆ご飯を啜り始める。
最近は箸の使い方も慣れてきたな、とそんな様子を見つつ光正は
「いいじゃないか、別の世界を救ったら、そっちの世界から自分の世界を救う力を送ってもらえるかもしれないんだろう?」
「本来は、異世界転生したのは私のいた世界を救うためだったのだが。なんだか話が変わってきてる気がしてな。
どうもナーム=ヒーローで改変した世界は私のいた世界ではなかったようで。
このまま別の世界を救い続けるだけで、あの時私を逃がしてくれた、弟たちは助けられないのではないかと不安になってきた」
そう言いながらもさらにとろろ昆布とネギを加えた納豆ご飯をガツガツ食べていく。最後にうずらの卵をトッピングするのを忘れていなかった。
不安と食欲はまた別らしい。
「とりあえず、そうなる予定だった世界を救えたのは確かなんだからさ。全く無駄ではないし、世界を変えられることは確実なのだから。
色々やっていくと、いずれ自分の世界の改変に行き着くのでは?」
光正の声を聞いてネコマサは茶碗を下ろした。
口の周りがベッタベタになっている。自分の髪の毛もくっついてるし。
「今回のナーム=ヒーローの影響を、異世界を見る目を使っていろいろ情報を集めて、今回の件を検討してみたが、どうも異世界と我々の世界というのは単純に一本で繋がってる感じではないようだ。
我々の世界には複数の世界線があって、この世界からすべての世界線に繋がっているのかもしれない」
「世界線って、アニメでそういうの見たな。α世界線がどうのこうのとか」
そう言いながら、口の周りをベッタベタにしたネコマサの顔を濡ティッシュで拭いてあげながら光正は
「まぁここまで付き合ったし、お前のやりたいように自由にやってみな」
と話しかけると、コクっと頷いてネコマサは立ち上がり
「よし、とりあえず次は蝕戦争で滅んだ国々を助ける物語をゲームで作っていって、あの世界線を蝕のない世界にしてやる」
「ナーム=ヒーローシリーズはまだまだ続くわけか」
「うむ、一つの世界線を蝕から解放したら、また別のやり方も見えてくるかもしれない」
「じゃあ、本格的に、事務所作る計画を立てないとなー」
「私の図面通りに作れるか?」
「奴隷女中部屋とか謁見室とか無駄なものが多すぎる。
あれの 1/10サイズくらいしか無理だが」
「そうか、奴隷女中は無理か」
「そっちじゃない、土地が足らん。隣の畑にそんな広い家作れんやろ」
「土地も買えば良いではないか」
「土地を取得すると、また色々と税金が発生したりして面倒なんだよ」
「この世界は税が重たいな」
「だから、とりあえず今の環境でできることやってもらって、来年の春くらいには新しい事務所作れれば良いなと思ってるよ」
「そうか、ならば異世界についてもまだはっきり方向が定まらないし。少し分析の時間を作ってから新しいゲームの制作を考えていくかな」
「それがいい。ここのところずっとゲーム作りっぱなしだったしな。
しかし、いつまで人間の姿で過ごすつもりなんだ?先週からずーっとその姿でおるじゃないか」
「ゲームが売れて、私の姿が多くに認識されて、動画サイトやSNSでも少し話題になったから存在がより強く認識されるようになってしまって。
最近ゲームの方もそこまで力入れてないから理力があまっているのだ」
「理力ってなんか発電とかに使えないのか?」
「精神の力、意識の力みたいなものだからな。
光正の外部記憶領域を拡張したり、そこに情報を入れたり出したりすると理力も消費できるが」
「勝手に外部記憶領域とかいじられて、害はないのか?」
「光正たちがいう、オーラとか霊とか、そういう部分をいじることになるから多少は影響あるかもな」
「霊体をいじるとか、死んだら成仏できなくなりそうでやめてほしいがな」
「そもそも、私たちの世界と外部記憶領域の規格が違うので、いじるには中間に変換用の魔法術式を噛ませないといけない。
こちらの人間の記憶領域とかいじったりして遊べないおかげで、人の姿にでもなって無駄に理力を使っていくしかないのだ」
「規格が違って良かったよ。同じだったらお前勝手に人の記憶見放題だったってことだもんな。で、人の姿で多く理力を使うのはどういう場合なんだ?」
「こないだの東京のように、人が多いところにいくと私は精神的に疲れるので消耗が激しくなる。私たちは無意識に人の記憶領域に線を繋ぐ癖があるもので、見かけた者たち全てに、一方的に通信かけてしまうようなことをしてしまう。
あとは知らない土地に移動すると、そこの土地の記憶領域に私の存在を認識させないといけないので、そこでまた理力を使う。土地の記憶領域は、私の世界と規格は同じなのが不思議なところなのだが。
我々は精霊や土地の神とのつながりを得るのだが、こちらもそれに近いことを光正たちもやってるように、土地を移動すると理力のつながり先が広がるからそっちに流すことができるようになる」
「簡単に考えると、旅行するといいわけか」
「そうだ、だから、東京で言ってた近場の、うまい魚が食えるところに私を連れていくのだ。ゲーム完成と、私の目的達成記念ということで」
「だったら、次の休みは豪華な晩飯と朝飯のついた海沿いの旅館とかに行くか」
「宿泊か、それは楽しみだな!」
ジャージ姿のネコマサは早速、自分のSIM契約してないスマホ片手に、居間でゴロゴロしてネットで旅先を調べ始める。
そんな感じで、自分の世界を救うための次なる課題を考えながらも、この世界のうまいものの探究をまだまだ続けていくつもりの猫賢者であった。
光正としては、早く猫の姿に戻ってくれないかなーという気持ちを持っているが、人間の姿のネコマサも、最初は整いすぎている美貌に少し引いていたところがあったが、動きを見ているとほぼネコと変わらないので、可愛いやつめ、と思えるくらいには慣れてきていたのだった。
そんな休日の朝に、ガラガラと玄関を開けてくる音が聞こえてくる。
「おはようございますー専任税理士が来ましたよー」
と田辺美香もやってきて。
賑やかになってきた日曜の朝であった。
・・・・・・
「・・・神の降臨を邪魔したものがいる」
抑えた老婆の声が響く、薄暗い巨大な神殿の中で一人の少女が跪いていた。
神殿の壁には13の石像が立っており、それぞれが異なる異形の姿をしていた。
闇中にうっすらと浮かび上がるその姿は、人間という概念が存在しない世界の生き物のようで、左右も上下すらもわからないような姿でそこに存在していた。
立像なので上下になるように置かれているのだが、どう見ても上下ではなさそうな姿の像もある。
異形の存在に見守られた少女と、いつの間に現れたのか、その前には一人の年を重ねた高位の神官が立っていた。
白い髪の毛を頭巾の中におさめ、青く長い外套は足元までを隠し、顔は目しか見えないように覆われている。
伸ばした手指は白く細かいシワが走っており、薄暗い神殿の中で微かな光に照らし出された様は生者の持つものとは思えない様子であった。
その手を少女の上にかざす。ぼんやりと手のひらが光り始める
「これから、我が神の降臨を邪魔したものを消しに行ってきなさい。
我々、神の行いを邪魔するものはすべて異教のものたち、速やかに神の元へと送ってあげることが良い行いなのです」
年老いた女の声で神官はそう囁き、少女は頷いて首を垂れる。
同時に、円形の光が床から湧き上がり、そして巨大な女性の半身のような姿が立ち上がってきて、その両手が少女をそっと抱き上げたと思った瞬間、少女の姿は消え、老いた神官だけがその薄暗い神殿の中に立っていた。
「我々の愛のある教義を否定するものは滅されるべきなのだ・・・」
と呟きながら、神官が見つめる先は周囲に並んでいた神像のあった場所。
そこには先ほどまで石像があったはずなのに、壁のくぼみだけが存在しているだけだった。
老いた神官は闇の中に姿を消し、後には12の石像に見下ろされた薄暗い空間が広がっていた。
第一部 終
第二部からは、連載スピードはゆっくりになります。
週一くらいの予定になるかと。




