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第15話 異世界の賢者 この世界の人たちと深く関わる

「人間の姿で、こんな柔らかいベッドで寝るのは初めてだー」


と感動した様相でネコマサがパンにバターを塗って頬張っている。

今はホテルの部屋の中で、ルームサービスの朝食を楽しんでいるところ。

ここは部屋がめちゃくちゃ広いので、窓際でゆっくりと食事できる空間があり、そこにテーブルとソファーなどが置かれている。

高所からの東京の風景を眺めながら、朝飯をゆっくり部屋で食べるとか貴族か金持ちのような、と光正も思っていたが、ネコマサとしてはベッドとか家具類に興味が向いてる感じだった。


目の前のテーブルには、スクランブルエッグ、ソーセージ、ベーコンにサラダ、数種類のパンと小瓶に入った三種のジャムとバター。

そしてポットに入った紅茶とミルクと、オレンジジュースと、デザートのフレンチトーストまで二人分並んでいる。

メニュー自体は朝食なので軽いものだが、それぞれの質も器も高く、お値段も高いのである。


が「経費で、旅費宿泊費で落とせる」と聞いていたので二人して贅沢をしてみているわけだが。


料理自体にはネコマサはそこまで感動してない様子。


「朝食、そんなに美味しくないかね?」


と聞くと


「光正の食事のほうが美味いからな」


とさらっと言ってくる。

そうか、そう思ってくれていたのか〜

光正は次回ネコマサ用の食事の質を上げてやろうと心に誓う。


目の前に女子の姿で朝飯食ってるのは、初めて人型になって以来か。

光正は早めに起きて準備、着替えなどを済ませていたが、ネコマサは朝のホテルの夜着のままなのでなんとなくセクシーな感じが漂っている。

が、光正にとっては「飼い猫の姿」の一形態としかみてないところがあるので、欲情を感じることはない。


「あのふかふかのベッドは家にも欲しいな」


サラダのプチトマトをフォークで刺そうとして失敗しながら、そんなことをネコマサ言う。

間髪入れず


「置くところが無い」


「光正の部屋にはベッドあるのではないのか?私も欲しいぞ」


「ネコベッドならたくさんあるじゃないか」


「人間用が欲しい」


「どうせ人間の姿になっても、パソコン部屋で仮眠取るくらいしか使わんだろう。だったらソファーベッドかヨギボで十分だが」


などと、そんな話をしながらカリカリに焼かれたベーコン、柔らかなスクランブルエッグなど朝食を平らげていく。


「この世界は、ほどほどのお金さえ出せは、誰でもこのような豪華な部屋に宿泊できるとは、なんとも豊かな世界だな」


「俺だってネコマサと旅することにならない限りはこんないい部屋取らないぞ」


「ふむ、宿は基本二人部屋なのか?」


「もっと安い一人部屋もある。今回は別々の部屋だと、猫にうっかり戻った時に外に放り出されてしまうからな、念の為今回は二人部屋にしただけ」


「自分の人間体がどういう状況で維持できるか、はっきりわかるようになったら一人旅するのも面白そうだな。

このように宿泊施設があるなら安全に夜も寝られる」


「なんだよ、ネコマサの世界には宿泊施設ないのか?よくファンタジーものとかでは宿屋が出てくるけど」


「治安が良くない。一般人が泊まるところは屋根あるだけで雑魚寝がほとんど。宿というものが整備されているところ自体が少ない。

基本的に貴族が泊まるのは領主の家であり、友人、知人、親戚の家であり。各地を移動するものたちは馬車の中で宿泊することが多い」


「それは、庶民は旅したりしないってことなのか」


「旅をする自体が贅沢なことであり、経済力がないと無理なのだ。

商人や軍隊などの仕事で移動するものたちは、それぞれが専用のギルド、組合で宿を作って宿泊所を確保しているが、全く何も縁のない一般人は宿を借りるのも難しいだろうな」


「徒歩で移動する人たちは?」


「基本は野宿。街の中であれば教会、あるいは領主が経営している、こちらの世界でいうならキャンプ場のようなところがある。

水とトイレは使えるが、宿泊するなら自前で天幕を張るか、屋根のある所の下で身を寄せて過ごせというものだ。飯などついてないし」


「ネコマサはでも賢者だから、色々と各地を巡って蝕の対応してたんじゃないのか?そんな時はどこに宿泊してたので?」


「軍隊の宿が中心で、領主の館なども使わせてもらっていた。今時のYouTub a女子のように一人テントで宿泊などしないぞ」


「移動中で宿がない場合は?」


「そうならないように移動計画を立てる。今まで野宿などはしたことはない」


「ファンタジーモノの冒険者とかよく野宿してるけど、女性はしないんだ」


「隣の男に襲われるだろう」


「サツバツとしてる世界だな」


「そうだな、常に緊張をしないといけない土地だった。このように無防備に、男と同じ部屋でゆっくり寝られるなどこの人生で思いもよらぬことだ」


「まあ、この世界は無闇に女性襲ったらダメって言われてるしね」


「ダメって言われる程度で襲わなくなるモノなのか?」


「それで信頼感とか失って、将来不利益になること考えると、一時的な感情で襲うことは避けた方がいいと考えるだろうに」


「ふむ。そういう考え方なのか。

私たちの世界では、男が性欲で女子を襲うのは当然の行動なので、襲われた方が悪いという考え方になる。そうなりたくないなら対策しろということだな」


「世紀末っぽい世界だな」


「蝕に侵食されてたからな、戦う男は貴重だ。そいつらが性欲で行動不能になるくらいなら女襲って気分スッキリして戦ってくれた方がマシと、そんな考えだな」


「人権感覚なしの世界か、まあ追い込まれてたらそうなるかもね」


「私は、この世界で女子たちが露出の多い服を着てるのに、男たちが襲わないのをみて感心したものだ。あのような姿をしてたら、私の世界では男にすぐ連れ込まれてしまう」


「それで、最初、ワンピース着るのに不安がっていたのか」


「スカートなどめくったらする入れられるではないか」


などとソーセージをフォークに指してこちらに示しながら言うもので。


「そういう下ネタは言わない」


と光正が正す。


「仮にも、今のネコマサは誰もが振り返るような絶世の美女、というか美少女?に見えるのだ。アラサーだけど」


「アラサーは余計」


「年齢より若く見えるとこあるもんな、猫になったからか?」


「それはあるかもしれない。この肉体も29歳ではなく18くらいのような気もしないでもない」


「しないでもない、って自分の体とか記憶にないのか」


「こちらの世界のように、写真があったわけでもなく記録するものがあるわけでもないのだ。覚えてるわけなかろう」


「なるほど、前から不思議に思ってはいたんだよな。29歳っていう割には見た目若いなと」


「多分肉体は18、19くらいだ。この姿のまま向こうに戻れれば年齢ごまかして結婚できるかもしれないな」


「まぁその時考えてくれ」


などと言いつつ、デザートのフレンチトーストを一口食べる。

「これは、美味いな。今まで食べたことない味だ」


たいそう気に入ったようで、あっという間にネコマサは食べてしまい光正の方をじっと見るので


「わかったよ、やるよ」


「そういうところが好きだぞ」


「もっと言ってくれ」


などと言いつつ、自分のフレンチトーストの皿を渡す。

笑顔でそれにかぶりつくネコマサを見て

今度、フレンチトーストの作り方でも覚えるかなーとか思っていた。

何にしろ、飼い猫に好意を持ってもらえるのは嬉しいことなのだ。


朝食が終わってから、待ち合わせの場所に移動するためにホテルを出る。

同じところに連泊してるので荷物は置きっぱなしでいいので、ショルダーバッグだけ持っていくことに。


ネコマサは、今日は白い帽子は変わらずだが、身につけているのは昔の学生の制服のような、白い襟の大きな紺色のワンピースにクリーム色のカーディガンを身につけている。

ちょっとレトロな感じの服がとても似合っていて、これも人目を惹く。


この服にしたのは「露出が少なく清楚に見えるから」光正が選んでくれたのだ。

童貞の男に刺激を与えてはいけない、とそんなことを考えていたりする。


午前中に一人と、午後に二人会う予定なのでなんとも忙しいが。

とりあえず指定の喫茶店のわーるに向かう。

ここは席が広く余裕があるので、ゆったり話をする人たちが好む喫茶店として有名で。占い師がその辺で仕事してたりもするらしい。

店内に、PC持ち込んでいるというのですぐわかるだろう、と思っていたが意外とその手の人は多かった。

しかし、あきらかに「ビジネスマンではない」雰囲気の男がいる。

先日あった山国雄介、57歳とどこか似た雰囲気を醸し出している割に、まだ30代前という若い感じがあり。

メガネに長髪という、いかにもな感じの男性と、その隣には少し雰囲気の異なるギャルっぽい若い女子が座っている。

多分あれだろうと、メールを送ると反応があった。

向こうはこちらを見て驚いた表情をするが隣のギャルはニコッと笑ってすぐ手招きしたりと慣れてる感じがある。


どうやら、ここも営業的な人間とプログラムメインの人間の二人できたということか。

というか、俺は何もゲームに関わってないのだが

とか思いつつ光正とネコマサはその人の前の席に向かい合わせに座る。


すぐ飲み物を注文し、そして挨拶から


ギャルが先に名刺を出しながら「私たちは、銀ロンというグループでゲーム作ってるタカとマキです。タカがプロジェクトをまとめて、私、マキがゲームプログラムなんかをやってるのよ」と見た目と逆のことを言ってきた。

そこで、今回は自分が先に話さねばと光正が

「私たちは、マサマサというチームでゲームを作ってます、私が営業担当の正光、こっちがシステム、ゲームデザインその他ほとんど担当のガーナです」

と言って挨拶を交わす。


多分向こうも同じこと考えたのだろう。へーと感心したようにネコマサを見ている、どう見ても、普通はこっちが広報関係の人と思われるやろ。


「ガーナちゃん、それ地毛?な訳ないか。ウィッグにしてはとてもきれいだと思って」

といきなりマキが興味深げに話しかけてくる。


「いいで、地毛です」


と真顔でネコマサが答え、マキがおもしろそうに笑ってから、隣のタカと呼ばれた男性が口を開いた


「今回は、山国さんのプロジェクトに呼ばれたらしいですが、どういう経緯で?」


とストレートに聞いてくる、時間もないからサクサク進めようという感じなのだろう。

そこで今回の内容を光正が語り伝えると、向こうの二人の顔つきが変わる。


「ナーム=ヒーロー作ったとこだったんだ、あれすごいね」


マキが身を乗り出して話しかけてくる。その後、どういうツールを使っているのか、どのようなモーションを作っているのか、キャラクターのモデリングはどうしているのかなどなど一気に技術的な話になってしまったので、その対応はネコマサが行う。

その途中で気付いたようで

「あ、新作のデモムービーで見たけどあなた、自分の姿そのままモデリングして使っていない?」

と言われ、自分をフィギュアにして、それをモデリングしてるという話をすると

なんて面倒くさいことをしているのか、みたいな顔で見られ。


「なるほどね、それくらいキャラクター作るのに時間かけてるわけか。だからリアルなのね」


と感心している。

販売経路とかそのあたりについても、銀ロンのやり方を聞くと自分たちと全く違っており、きちんと販売を仲介してくれる企業と提携しているという話をきく。

なるほど、個人勢でも売れそうならそういう方法があるということか。

技術的な話だとマキとネコマサがずーっと話しそうになるので、タカと光正がうまく話を誘導していくという、そんな感じの対話になってしまったので、メインの話をする時間が少なくなってしまったが。


光正は銀ロンのゲームは複数やってみたことがあったが、どれも完成度は高く、普通に面白いゲームを目指してる感じがあった。

そういう話を相手にすると。


「俺たちは、売れるゲームを作って、もっと大衆に受け入れられるものを効率よく製作していきたいと考えている。

だから山国さんのプロジェクトに参加しようと思っている」


とタカが答え、マキもそれに賛同していた。

自分達は少し迷っていると正直に光正が話すと、二人は


「インディーゲームは、作り手が作りたいものを作ることは大事だけど。

それが多くの人に受け入れられないなら、仕事として、生活をすることができなくなる。ゲーム作りを仕事と考えるなら、多少は妥協も必要だと思っている」


とタカが話し


「ガーナちゃんの取り組みとか聞いてると、ちょっとこだわりが強すぎて、今回の山国さんの話に合わないんじゃないか、ってのは思うわね。

もっと妥協できたらいい感じになれると思うわよ」


とマキに言われ。


なるほどな。

と納得して二人とは別れることに。

短い時間だったけど、学ぶことは多かった、とネコマサは感じ入り、今後もメールや、何かのイベントなどで協力できそうな時はお互いお願いしますと、そんな話をしておいた。


相手も、ネコマサのこだわりを聞いて「なんとなく自分達と方向性が違う」と感じてしまったのだろう。

ネコマサは「自分の世界を救う」が第一だから、ゲームで食っていく、は二の次以下になるので確かに考え方やアプローチが異なるのだろう。

モデリングが緻密なのも、世界を表現することに力を注いでいるからでもある。


そして、午後からは、ヤリパンとマナルナ、というグループの人と会って行ったのだが、一方はファミレスで、もう一方はカラオケボックスで、話をした。


皆、ネコマサを見た瞬間に、「なぜ自分のとこのゲームキャラのコスプレイヤーをこいつは連れて歩いているのだ?」と光正に対して思ったようで、初っ端はちょっと冷たい感じがあったのだが。

ネコマサの豊富な知識と経験による話の深さに、彼らも引き込まれていき我々のゲームのファンになってくれた。


ただ、皆「ゲームで成功し、お金を稼ぐには今回の話はとても有益」と考えているようで、あとは緩いつながりだからこそ、仕事がやりやすく気に入らない場合は離れることも容易な感じが良いと、そんな話をしていた。


ネコマサと記念撮影して別れたりしてたが、一応SNSとか載せるときは顔出しはNGで、と伝えておく。


とりあえず、皆童貞男子の拗らせた人間が出てくることなく、まともな人たちばかりで光正は安心した。

そしてネコマサは、自分と違う価値観でゲームを作っている人々の考えを聞いて、また刺激になったようで。


「そうか、売れるためにはある程度人に販売を任せるという手法もあるのか」


という話もしており。

プロモーションとかそういう会社についての話も聞くことができて、大変参考になったようだった。

光正は、自分がゲーム製作素人だということがバレないよう、重要なところでは口をつぐんで下手に話さず相槌を撃つくらいにしておいたのだが、それが余計に

「マサマサというグループは、プログラマーもディレクターもやり手だ」

という印象を持たれたようであった。


しかし、ディレクターなどいないのであるが。


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