第14話 プロジェクト
指示されたボックスへと近づくと、そこにはメールを送ってきた相手が座っていた。
有名なゲームをいくつも成功させてきたプロデューサーで、以前は誰しも名前を知っている大きなゲーム会社で働いてたことのある人物。
山国雄介、57歳
パズルゲームから高難易度アクションゲームまで、いく種類のゲームに携わり。
某大手メーカーで作ったアクションRPGゲームでは世界的なゲーム賞をもらったり。
昨年も関わったゲームでは日本の有名ゲーム賞をもらったり、この人が作るゲームは「面白い」と最初から言われてしまうようなものばかり作るため、ヒットメーカーと呼ばれている。
最近は独立してインディーズゲームのプロデューサーなども務め、お金よりもやりがい、面白いゲームを作ることに生きがいを感じてそうな人。
という印象を、光正はネコマサが事前に集めていた資料を読んで感じていた。
そして、実際目の前にいるのは、確かに独特のオーラというものがあるのだが、その辺にいそうなおじさんという雰囲気も同時に持っていて不思議な感じがある。
見た目は派手なアロハシャツのようなものを着て、半ズボンにビーチサンダルなので打ち合わせで会うような服装ではないな、とそんな印象。
ゲームとか作ってると、一般的な感覚ではないのだろうな。
とか偏見を持っての第一印象だった。
「君が正光くん?とガーナさんか、初めまして、山国雄介です」
そう言って日焼けした顔に白い歯が輝くような笑顔で立ち上がり握手を求めてきた。
光正、ネコマサ、と握手して促されるままに椅子に座って。
最初に、お互いの軽い紹介を行い。
ゲームのプログラム関係は、全てこのネコマサ、人間名ではガーナがやってることにして、話をしていくことに。
普通は、ネコマサの姿について色々と聞いてくるものと構えていたが、そんなことよりも
「まずは、あのナーム=ヒーローについて色々聞きたいことがあってね」
といきなり内容に入っていく。
興味が向く方向にだけエネルギーを注いでいくタイプの人だな。
と光正は感じたが、ネコマサと同じ類の人種だというのはそこからの会話でなんとなく察していく。
専門的な話は全てネコマサに振ってもらうようにしたところ、光正ではよくわからない話でふたりが盛り上がり始め。
途中、二人のために飲み物を取りに中央のカウンターに通ったりと、光正が二人のセッティングをしたかのような状況になってしまったり。
ゲームについても詳しい内容にはついていけなくても、その後の「開発環境」などの話はしっかり聞いておかねばならないと思い、光正はそのタイミングを待つ。
しかし、ネコマサも楽しそうにゲームの話をしている。
自分とは違う感じで、議論というか、お互いの手の内を見せ合って実力を測っている感じがあって。
賢者同士の対話には一般人は入れんわな
と思いつつ、たまに振ってくる会話によくわからないけど相槌を打ってやり過ごしていくしかなかった。
会話がわからないけど聞いてるふりをする技、というのはサラリーマンなら色々な場面で使うので、上司の話、社長に呼び出されて会社の今後、夢の話を聞かされている状況などを思い出しつつ、光正はそれを駆使してこの現場を乗り切ろうとしていた。
「なるほど、興味深い。なおさら、君たちを私たちのプロジェクトに組み込みたくなったよ」
と言われる。
「プロジェクトとは?」
光正が聞くと
「インディー出身のゲームクリエイターたちが、お互いの持ち味を出して協力し合えばそれぞれの作りたいゲームで、作家性を残しつつ利益を出せる形が作っていけるはずなのだよ。
その基礎をこれから作っていきたいと思っている」
「?ゲーム会社に入ってから、新しいゲームを作る感じではないのですか」
「形に入ってしまうとそこから出ることができないだろう。
君もゲームを作る側なら、他の会社のものを幾つもプレイしただろう」
光正も、ネコマサに協力するために山ほどゲームプレイさせられたので、その辺の経験はある。
確かに、会社によって色というか、雰囲気はそれぞれ違っていたなと。
それを枠、形、と呼ぶならそうなのだろうな。
このゲームを別の会社が作ったらもっと面白いのができただろうに、と思うやつも幾つもあったことだし。
という雰囲気の話をしてみると。
「そう、それ。
A社のゲームをB社がプロデュースしたらもっと面白いものになるだろうに、という会社を超えての手法がね、大きくなると難しくなるんだ。
しかし、君らのようなインディー系だとそれが可能になる」
その方法は、外部にプロデューサーを置いて、その視点でゲームを作っていくという方法。
そして、お互いのゲーム会社がそれぞれにお互いを監視、あるいはアドバイス、あるいはプロデュースして協力体制を作って、自分たちだけでは見えない視点で「売れるゲーム」に変えていくなど、そういうのをこの人物はやりたいということだった。
インディーズならではの味わいを残しつつ、ある程度は妥協して人々の「多数」が楽しめるような作品に仕上げていくか。
あるいは尖り切った「世界を追求して」他の多数とは違う世界観で突出していくか。
それを自由に選びながらゲーム制作ができる環境を作っていきたいと考えているらしいという話。
これは、正直なところ願ってもないことでもあるが。
ネコマサは、その辺りの話が出てき始めてからは、少し表情が微妙な感じになっている。
人間形態が疲れてきたのかとも思ったが、それだけではなさそうな。
話は、現在声をかけているグループやその代表的なゲームなどについても資料を渡されたので内容を見てみると、確かにインディーゲームで面白いものを作っている人たちばかりであった。
「これからは、一つの大企業の力で面白いゲームを生み出すだけではなく、多数の集合知がネットワークのように動いて、面白いゲームが自然と生まれていくようにしないといけないと思うんだ」
と山国雄介は熱く語り。
仮想通貨のブロックチェーンを使った仕組みのような
そこに人と人工知能を入れていき、人類が求めている「もっとも最適な」ゲームを作っていくことを目指すとかなんとか。
光正もなんとなく「そうかな」とか思えるようになってきて。
これは、グループに所属した方が、ネコマサにとっても良いゲームが作れて、自分の世界を救うことが早まっていいのではないか?
と感じられるようになっていく。
山国氏は、この目的のために勤めていた企業を離れ、そして個人でゲーム制作プロデューサーを立ち上げ今その活動を行っているという。
なので、オフィスもこのようなレンタルオフィスサービスが受けられるところを使っており、自由に動ける自分の状態を維持しているという。
そもそも、家は海外にもあったりしてセブ島と2拠点生活なのだという話。
今更お金が欲しいわけでもなく名声が欲しいわけでもなく、ただゲームの今後の未来を考えた、覚悟が決まっている人物なのだというのも感じてしまった。
皆でお互いを見て感じて、情報交換するとか、集合無意識的な感じもするし。
この人物ならネコマサのゲームを預けてもいいのかも?
とだんだんそんな気分になってきてしまうが。
そして、話は3時間ほど続いて、相手の方の方も今日はこれから別件でまた打ち合わせがあるとかで、今回の提案については一旦持ち帰りということになった。
ゆっくり考えてから参加するかどうか決めて欲しいと、返事は待つと言ってくれたので見送られながら目黒のレンタルオフィスを去っていく。
まず事務所というものを持たなくても、レンタルオフィスというやり方で会社を持てるのか、というそんなところで光正は感心する。
庭に制作拠点、事務所をレンタルオフィスに置いておくと面倒な住所割れとかしなくていいのかもしれんな、とかそんなこと考えたりして。
光正は、今回のプロジェクトに前向きになっていたが。
ネコマサがなんとなくイマイチな雰囲気に見える。
なので、食事をしながらこの辺を打ち合わせしようということで、個室居酒屋で色々と話をすることにした。
ちょっと割高にはなるが、ネコマサとしてもあまり人目につくところでは落ち着かないということで。
さっきの貸事務所、レンタルオフィスでもちょっと目立ってたものだが、山国氏は全くそんな外見など気にしてないようで、ネコマサのことを頭の回転がいいプログラマーという視点で対等に対話をしていたように見えた。
で、居酒屋に到着してからは、ネコマサが好き勝手に料理を山ほど頼んで、それをニコニコしながらモリモリ食べて。
いつも家では肉とか野菜とか地元の幸とか、山のものばかりだったので、この機会に、と海のものをガンガン注文していくので
「地元でも、海岸沿いに行けば海のものは食えるから」
と抑える必要もあったくらいである。
「じゃあ、ゲーム制作が落ち着いたら、地元の海沿いの魚がうまい店に連れて行ってもらおう」
と言って、今度は日本酒とか頼み出す。
「異世界人ならワインではないのか?」
と聞いてみると
「果実酒を発酵させたものはあるが、気候的にあのような果実を作る土地はなかった。穀物から作った酒の方が多かったな」
「ビールみたいなのとか?」
「それもあったが、あっちのものは苦くてぬるくて苦手で。
この日本酒のような発酵した穀物から作る酒と、それを蒸留したものが好みだったのだ」
「だったら、地元に酒蔵もあるし、酒を蒸留した焼酎ってのが近所にもあるがね」
「そんなものがあるとは、今まで一度も教えてくれなかったな」
「猫に焼酎飲ませようとか思わんし、家で俺は日本酒も焼酎も飲まないし」
「そうか、地元にも魚も、酒もあったのか。知らなかった」
「そういうことで、今度そういうのは地元でな。ここではここでしか食べられなさそうなの選んどき」
などと言いながら、光正は注文をセーブさせていく。
そして、ある程度食事が落ち着いてから、さっきの話題について話を開始する。
「ところで、さっきの話どう思った?俺はいいと思ったんだけど」
と光正が言うと、
しばし日本酒のグラスを揺らしてからネコマサは
「色々と気になるところしか見えてこなかったな」
と賢者らしい目をして語り始める
「そもそも、まだ絵に描いた餅ではないか」
「異世界の賢者がこちらの諺を使うのか」
「かの御仁も、まだ新しい計画を立て始めてるだけで実績がない。
大きな会社の下で、安定して制作できるのかと思っていたが、そうではなさそうなのでちょっとなと、思っていたのだ」
「お前慎重だな」
「賢者だからな。宮廷や王家、貴族関連では口と同時に、常に目と腹で会話してないと生きていけぬ。
先ほどの御仁は口では良いことを言いつつ、腹の内が今ひとつ安定しておらんのよな腹が決まってないというか。我々が求めているものはなんだ?」
「ん?安定した制作環境?」
「違う、私の世界を救うことだ、それが第一目標。
それで第二目標として、死にゲーが救う方向にあってるから、それを作ることを行っている。
第三目標は?」
「そんなんあったっけ」
「私の生活環境の安定だ、当たり前だろう。
生存できてないと国を救うこともできん。
それで、ここは光正のところに転がり込んだので安定した。
第二目標については、実は死にゲーではなくとも私の国を救う方法が作れないわけではない」
「どうやって?」
「ゲーム以外で私の国存在を強く認識させ、蝕の影響を外せれば良いのだ。だから、ライトノベルとかそっちで物語を作って読ませることで行うこともできなくもない」
「それやればいいじゃん」
「没入感が浅い。本や物語だと目と頭だけだがゲームだと動作も入って体に認識が刻まれていく。それが良いのだから」
「ネコマサの効率よく自国を認識してもらうためには、という点ではゲームがいいなら、さっきの話はやはり乗るべきでは?」
「売れるゲームと、私のめざす方向が同じとは限らないだろう。
多くの人間が私のゲームについて批評してきたり、改善案を出してきたりするのは本来の目的が達成できそうにない」
「つまり人の意見が入るとネコマサの故郷の認識割合が減るとか、あるいは安定しないから、異世界変更が難しくなると」
「そう、そして、そこに誰も責任を持たないから認識が弱くなる」
「責任って山国さんが取るんじゃないん?」
「お互いを監視というか、お互いがお互いのゲームを見張って、良いゲームになるようにアドバイスする、というのは責任の所在が安定しない。
あいつの意見を聞いたのに、あれの話に乗ったのにうまくいかなかった、とネガティブなことを言い始めることになる可能性が高い。
そこで、上に「俺が責任を取る」という人間がおると、そいつが全部被ってくれるので話がまとまりやすくなる。
それが存在しない状態は危ない」
「山国さんは責任を取ってくれん、と」
「自分の評価にはつながらないだろうからな。光正も、できれは仕事量を減らして、いい評価されて給料の額が変わるなら頑張るであろう?」
「そりゃね」
「山国氏は金と時間よりやりがいで生きてる人間と見た。
なので皆そうだろうと思ってる節があるが、人間は評価とその対価で動くことが大半なのだよ。そのために、一見無駄と思える組織が必要になる。
金と環境を整えればうまくいくと思っていそうだが、組織をきちんと作っておかないとうまくいかないところが多くなる。
頭の良い人間は、光正たちのような怠け者の気持ちがわからないから、組織が適当でもうまくいくと思いがちなのだが、世の中の人間はほぼ怠け者でできている」
「確かに」
「人間とはそういうものだ。
その辺り、私や山国氏のようなものだけが集まるなら問題ないのだが、怠け者、あるいは人の尻馬に乗ることだけが目的のような人間が多く集まった場合の解決策がない形のようだったので、私はあまり乗り気ではない」
「意外だな、楽しそうに話してたのに」
「ゲーム制作、クリエイターのとしての能力、組織内でのプロデューサーとしての力は大変なものだが、山国氏がフリーになってからについて未知数なのでまだ一緒に船に乗るわけにはいかないと考えている」
「さすが賢者、色々なところが見えてるな」
「そうでないと宮廷や貴族社会では生きていけないし」
「じゃあ話は断るのか?」
「それを決めるために、明日、私は別行動していくけど?」
「一人じゃ心配だからついていく」
「なんて過保護な」
「急に猫になったらどうする」
「確かに、ない話ではないかも」
「じゃあ明日どうするのか教えてくれ」
「仕方ない、その山国氏がゲーム制作で話を持って行ったところに、その資料に関係するところに色々と聞いてみる。
直に会えるところでは直にあってみて、そうじゃないところはメールで」
「直に会うのか」
「もうすでにアポイントは取っていて、三組くらいは会うことになってる」
「お前、ゲームとか作ってる奴らは女慣れしてないから、今の姿であったりすると勘違いされてストーカーとかになったりするかもしれないぞ」
「光正は割とナチュラルに偏見を語るな」
「美しい女性に慣れてない童貞男は勘違いしやすいのだ。お前みたいに綺麗な女子から話しかけられただけで自分が好かれてると勘違いする奴だっているかもしれん」
「・・・光正は童貞に何かされたことあるのか?」
「いや、なんとなくそんな感じがするだけ」
「それは光正の若かりし童貞の頃の話だろう。皆が同じと思うな」
「やっぱり心配だからついていくぞ」
「過保護だな」
「東京はヤバいところだと、ばあちゃんが言ってたし」
ということで、翌日の計画も立てたのだが。
ネコマサは酒については全く酔う素振りもなく、ホテルは同じ部屋だが、お互い明日の予定を立ててから、風呂入って寝て、という感じで特に何もない。
姿が変わったところで、ネコマサはネコマサである。




