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第93話 ついに公開、水車と灯り

一行は蒸し暑い天幕を出ると、黒竜川の岸から本流に向かって渡された仮設桟橋を歩き始めた。


その先には、黒竜川の激流に逆らって係留された巨大な双胴船――『船形水車』が鎮座していた。


「うわぁ……近くで見るとすごく大きいね!」


ルシアン王子が身を乗り出すのをヴィクトルが慌てて支える中、一行は船の中央部にある見学スペースへと足を踏み入れた。


「ルシアン殿下、見て。あの真ん中にあるのが『水車』だよ」


カイトが指差した先には、巨大な木製の羽板を持つ水車が据えられていた。今はピタリと静止している。


「今はね、船の底に木の板を敷いて、水車にお水が当たらないようにしてるんだ。この板をスライドさせて外すと、水が流れ込んで水車が回る仕組みになってるの」


カイトが説明しながら奥へ進むと、そこには水車の軸と直結した鉄製の歯を持った巨大なギアと、木製の本体に鉄リムで作った歯のついたギアボックスがあった。そのボックスの先には、三級魔石を組み込んだ発魔機が据え付けられている。


「おお……なんと精巧な歯車だ」


ケッセルベルク公爵が、木製の本体に一つ一つの歯が埋め込まれた歯車に魅入られたように感嘆の声を漏らす。


「水車が回ると、このギアが噛み合って発魔機をすごいスピードで回すんだ。そして、そこで生まれた魔力が……」


カイトは発魔機から伸びる太いケーブルを指で辿る。


「あそこから外に伸びてる『鉄の線』を伝わって、街道のランタンに届くんだよ」


説明を終えると、一行は船形水車を降り、岸辺に立つ一本目の街灯柱の足元へ移動した。


そこからは、王都へ向かう街道が一望できた。三十メル間隔で建てられた街灯柱が、九百メルの彼方まで真っ直ぐに連なっている。


遠くでは、今回の視察に伴う交通規制で足止めされた行商人や馬車の列が小さく見えた。


カイトは手作りの小さな軍配をルシアンに差し出した。


「ルシアン殿下! これからお船の水門を開けるんだけど、殿下がこの軍配を振って、号令をかけてくれないかな?」


「えっ!? ぼ、僕がやっていいの!?」


「うん! ここにいる誰よりも、殿下の声が一番かっこいいからね!」


カイトの言葉に、ルシアンはパァッと顔を輝かせ、満面の笑みで軍配を受け取った。


ルシアンはコホンと咳払いをし、船上で待機するバッカスやダンたちに向けて、力強く軍配を振り下ろした。


「水門、開けぇーーっ!!」


「「「おう!!」」」


ダンたちの怒号とともに、職人たちが一斉に止水板を引き抜いた。


その瞬間――。

ゴォォォォォォッ!!


堰き止められていた黒竜川の激流が船の中央に流れ込み、巨大な水車が猛烈な水飛沫を上げて回転を始めた。


「魔力、送魔線に流れます!!」

ゼノスの叫びと同時だった。


一本目の街灯柱の先に取り付けられた魔導ランタンが、ポワッと青白い光を放った。


そこから先は、まるで光が連なっていくような光景だった。


二本目、三本目、十本目……。魔法使いが一人もいないにもかかわらず、九百メル先までの三十基のランタンが、次々と青白い光を宿していく。


西へ傾き始めた陽光の中、街灯の明かりが確かな存在感を放った。


「……おおおぉぉっ!!」


ケッセルベルク公爵やゼイブ伯爵ら高官たちが、目をひん剥いて感嘆の声を上げる。遠くで足止めされていた商人たちからも、どよめきと歓声が上がっていた。


「すごい! すごいよカイト!! 魔法使いがいないのに、全部光った!!」


ルシアンはピョンピョンと飛び跳ねながら、輝く街灯の列と水車を交互に指差した。


「ねえカイト! もう一回、水車が動いてるところを見たい! 見てきてもいい!?」


興奮冷めやらぬルシアンの懇願に、カイトは少し困ったように頬を掻いた。


「うーん……機械が動いてる時は危ないから、あまり近づいちゃダメなんだけど……。でも、安全な場所から見るならいいよ!」


「やった! ヴィクトル、早く!」


カイトが許可を出すと、ルシアンはヴィクトルを引っ張るようにして、再び桟橋を渡って船形水車の中へと駆け込んでいった。


船の中では、先ほどまで静止していた水車が地鳴りのような轟音を立てて爆速で回転し、鉄のギアが甲高い金属音を響かせながら発魔機を駆動させていた。


「かっこいい……! この歯車、すごい勢いで回ってる!」


激しい水飛沫と轟音の嵐の中、稼働する水車とギアボックスを食い入るように見つめるルシアン王子。その横で、カイトは少し離れた岸辺に停めてある異形の重機を指差した。


「ルシアン殿下、次はあの馬車を見てね」


カイトが指差した先には、廃棄された大弓の台座と内務局のボロ馬車を合体させた『魔導建柱車』が待機していた。その先端には、斜めに突き出したブームと、そこからぶら下がる鉄杭がある。

ルシアンはハッと顔を上げ、目を輝かせた。


「あれって演習場にあった魔道具だよね!?」

「うん! あれを使って、今から新しい柱を建てるよ!」


カイトが合図を送ると、バッカスたちが魔導建柱車を南に三十メル進んだ地点へと移動させ、鉄杭の狙いを定めた。

一行も水車から離れ、少し離れた場所からその様子を見守る。


「いくよー!」

カイトが叫ぶ。


「モーター、スイッチ、オン!」


ミスリルクリップから流された魔力によって、四級魔石を八個搭載した高トルク仕様のモーターが「ギュィィィン!!」と唸りを上げ、ウインチを逆回転させる。


重い鉄の杭が地面へ向かってゆっくりと降下していく。


ドスッ! と杭が地面に当たった瞬間、バッカスがミスリルメッキしたブームへ魔力を流し込んだ。


その魔力はブームからワイヤーを伝い、杭の先端に埋め込まれた土属性魔石へ一気に流れ込む。


ズボボボボッ!!


地鳴りとともに、杭の周囲の土が全方位に強制的に押し広げられ、鉄杭が自重でズブズブと地面の奥深くへ沈み込んでいく。


「すごい! カイト、一瞬で穴があいちゃったよ!」


目を輝かせるルシアンに、カイトはニシシと笑う。


「まだまだここからだよ! おじちゃん、柱をお願い!」


カイトが合図を送ると、バッカスが手慣れた様子でモーターを逆回転させ、鉄杭をズボッと引き上げる。そして人足たちが素早くワイヤーの先端を、横に寝かせてあった木の街灯柱へと付け替えた。


再びモーターが唸りを上げると、大の大人数で持ち上げるのがやっとの太い柱が、まるで木の枝のようにヒョイと宙に吊り上げられた。


そのままブームを人夫たちが旋回させ、先ほど空けた大穴の真上へ移動すると、柱は穴の中へするりと落とし込まれた。


ドスンッ!


「……なっ!?」


ケッセルベルク公爵とガイゼル侯爵が、思わず息を呑んで絶句した。


軍で陣地や防壁を築くのにどれほどの人手と時間がかかるかを知る彼らにとって、この重機が重量物を軽々と吊り上げ、あっという間に柱を立ててしまう光景は、常識を覆すものだった。


「はい、これで柱立てはおしまい! あとは周りに土砂を入れて、上からドスドスって叩いて固めるだけだからね!」


カイトは得意げに胸を張って説明を締めくくると、額に浮かんだ汗を手の甲で拭った。


「さあ、みんな! 今日はここまでだよ。お外は暑いし、そろそろ天幕へ戻ろっか!」


カイトが案内を促すと、圧倒されていた高官たちも我に返り、額の汗を拭いながら頷いた。


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「続きの工事が気になる!」「軍から建柱車の発注が来そうだな」と思っていただけましたら、

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