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第90話 一人で照らす「バケモノ」の正体

夜通し灯し続ける安定性の確認試験は、無事に成功した。


さらに夜には、話を聞いて駆け付けたアルベルトたちが実際に馬車を走らせて移動テストも行ったが、結果は極めて良好だった。


あとは、明日の王族視察に合わせて実際に点灯させるだけである。


「よーし、お疲れ! 水門に蓋をして水の流れを止めろー!」


夜が明け、バッカスの号令とともに船形水車の水門が閉じられる。

水車がゆっくりと回転を止めると、発魔機も静かになり、街道を照らしていた三十個のランタンが一斉にふっと光を落とした。


職人たちが徹夜明けの安堵の息を吐く中、バッカスは張り巡らされた送魔線を見上げながら、ゼノスへ問いかけた。


「なぁゼノス……机上の計算じゃ絶対に不可能だと思うんだが……この『送魔線』に人間が直接魔力を流した場合、一人でこの三十個の街灯を全部つけられると思うか?」


その言葉に、ゼノスも深く頷いた。


「確かに。五級魔石三十個を同時に起動させ、さらに九百メルもの送魔線の減衰ロスを補うとなれば、どれほどの魔力が必要になるか。限界値のデータとして試してみる価値はありますね。私がやってみましょう」


ゼノスは送魔線の接続部分に手を当て、魔力を練り上げ始めた。


「いきますっ!」


ゼノスの手から魔力が流れ込むと、一番手前のランタンがポワッと青白く光った。


そこから二個、三個と順に灯っていくが、光るごとにゼノスの顔から血の気が引き、脂汗がにじむ。


「ぐっ……! なんて抵抗力だ……八個……九個っ!」

激しく息を切らし、ゼノスはたまらず線から手を離して膝をついた。

同時に、灯っていた九個のランタンが消える。


「はぁ、はぁ……。無理です。私の魔力では、九個灯すだけで空になりかけました。……師匠もやってみますか?」


「バカ言え。お前で九個なら、俺でもせいぜい六個か七個でぶっ倒れちまう」


この世のほとんどの魔法使いはタンデムまでなら扱えるが三級魔石のトリプルリンクを扱えればエリート魔法使いだ。エクスプロージョンがそれである。魔導具の専門家である彼らは、五級の灯火とはいえ、やはり人間一人では不可能だと確信して頷き合った。


「ふーん。そんなに難しいの?」


その時、カイトが小首を傾げながら、無防備に送魔線へと近づいた。


「あっ! おい坊主、やるなら絶対に加減しろよ!? お前のその魔力圧で、手前の魔石をパンクさせる気か!」


以前のトラウマが蘇り、バッカスが慌てて制止の声を上げる。

だが一方で、バッカスは内心でたかをくくってもいた。

(いくら規格外とはいえ、まだ六歳。ゼノスより上かもしれないが半分を光らせたあたりでガス欠になるだろうが……初撃の圧だけはバケモノだからな)


カイトは小さな両手で送魔線の端を握った。


「えいっ」


カイトが握った端から、強烈な魔力の波が鉄線の抵抗をねじ伏せながら駆け抜けていった。


一個、五個、十個――まるで光の矢が走るように、街道沿いのランタンが次々と青白い光を宿していく。


ゼノスが九個で限界を迎えた壁など存在しないかのように、光の連鎖は一切の減速をみせない。


わずか数秒。あっという間に九百メル先にある三十個目のランタンまで魔力が到達すると、全ての街灯が一斉にまばゆい光を放ち、周囲を明るく照らし出した。


「……は、ぁ……えっ?」

ゼノスは顎が外れるのではないかというほど口を大開きにし、両目を限界まで剥いたまま完全にフリーズした。


「あ、やったね。全部ついたよー!」


当のカイト本人は、涼しい顔で送魔線を握ったままと満面の笑みを浮かべている。息一つ切らしていない。


手前の魔石をパンクさせるような雑な魔力操作でもなく、途中で魔力が尽きる気配すら微塵もない。

(こいつ、魔力圧や魔力が多いだけじゃねぇ……“同時に流しても一切ぶれてねぇじゃねえか”どんだけだよ!)


「……たく、バケモノじみた魔力してやがるぜ……」


バッカスは忌々しそうに頭を掻きむしりながらも、刻印が焼き切れずに耐え抜いたこと、そして過去の限界をあっさりと超えてみせたカイトの底知れなさに畏怖していた。


二人の大人たちが、改めて常識を粉砕されていた頃。


街道から少し離れた森の茂みの中。木々の陰から一部始終を監視していたあの『外套の男』もまた、震える手で木にすがりついていた。


(……な、なんだと……!?)


男の目は、信じられないものを見るようにカイトへ釘付けになっていた。

その時、夕日に照らされた少年の左腕で、銀色の腕輪が鈍く光る。


男の表情が凍り付いた。

(あれは……『蓄魔の腕輪』!?)


それは王国の教本で目にした魔道具だった。


(そうか……大勢の魔法使いが隠れていたわけではない。あのチビ一人が、腕輪に蓄えた魔力で街道を照らし出したんだ……! 王国が不可侵条約で時間を稼ごうとしたのは、この子供の存在を他国へ悟らせないためか……!)


男は黄色い帽子の少年の姿を脳裏に焼き付けると、誰にも気付かれぬよう、静かに森の奥へと姿を消した。


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「続きの工事が気になる!」「やっぱりカイトは出来ちゃったんだ」と

思っていただけましたら、ページ下部より評価とブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!



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