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第87話 完成!魔導建柱車

突然話を振られたエドは、ビクッと肩を揺らした。


「えっ、あ、あの第七保管場にあったボロボロの馬車ですか!? でも、あれは車輪が一本無かったり、枠が腐ってたりしてて、とても使い物には……」


「だから丁度いいんだろうが」

バッカスはニヤリと悪人面で笑った。


「こんなクレーンの重てぇ台座を載せるんだ、どうせ車軸は鉄でガチガチに補強して組み直さなきゃならねぇ。上に乗っかってる腐った木枠や幌なんざ全部ひっぺがすんだから、荷台のベースの形さえ残ってりゃ十分なんだよ」


「あ……なるほど! 確かに枠がない方が、この大弓の台座を載せやすいですね!」


エドがポンと手を打つと、カイトはキラキラとした瞳をエドに向けた。


「エドお兄ちゃん! 使わなくて捨てちゃうような馬車なら、タダでもらえるよね! 特命室長さんのハンコで、パパッと払い下げの手続きできるでしょ?」


「タ、タダで払い下げ……っ!?」


エドは再び顔面を蒼白にさせた。


確かに、あの保管場にあるのは修理予算もつかず放置された馬車ばかりだ。特命室長の権限を使えば、「光の道計画の資材運搬用」という名目で払い下げを通すこと自体は可能だろう。


だが、またしても自分のハンコ一つで、内務局の廃棄馬車がとんでもない改造を施されようとしているのだ。


「ううっ……分かりました……! この足で内務局に戻って、払い下げの決裁書を書いてきます……!」


「よーし、話が早ぇな! じゃあエド、手続きが終わったらそのまま馬車をこっちに引っ張ってこい!」


「えっ? 軍務局に持ってくるんですか?」


「当たり前だろ! クレーンにする大弓の台座も、鉄を加工する道具も全部ここに揃ってんだ。こんな改造が他でできるかよ!」


バッカスが呆れたように言うと、隣で聞いていたコンラッドが笑顔で頷いた。


「それなら、工兵部の作業場を一つ空けておきましょう。どうせ車軸の補強やクレーンのサオ(ブーム)を作るなら、うちの資材や設備を使った方が早いですからね」


「おう、助かるぜ中尉。資材代はあとでまとめて『魔力インフラ整備室』に請求してやってくれ」


「ええっ!? また僕のところに請求書が回ってくるんですか!?」


エドが悲鳴を上げると、カイトはレオンハルトに抱き上げられたまま、満面の笑みで手を振った。


「エドお兄ちゃん、おっきな馬車、待ってるからねー!」


「ひぃぃっ! また僕の決裁がぁっ!」


エドの嘆き声が砲兵部の裏庭に虚しく響く中、彼は半泣きで内務局へと走っていった。


***


それからの数日間、軍務局・砲兵部の工房は、熱気と金属音に包まれていた。


工房の片隅の作業台。


「コンラッドお兄ちゃん、ここのロープを通す滑車かっしゃは、もうちょっと大きくしないとダメだよ。重い柱を引くからね」


「なるほど、重量の分散と摩擦係数の問題か……カイト君、君の頭の中はどうなっているんだい?」


背後に控えるレオンハルトが見守る中、カイトが身振り手振りで伝える設計思想を、コンラッドが正確な図面へと書き起こしていく。


隣の作業台では、ゼノスが汗まみれになりながら四級の無属性魔石八個に導線を巻き付けていた。それを直並列に組み合わせ、重い荷を持ち上げるために回転力トルクを重視した『魔導駆動機モーター』を組み上げていく。


「それ、コの字の治具ガイドに合わせて巻けば、同じ大きさになるよ?」

「あ、それいいかもですね」


「そしたら誰が巻いても、おんなじになるでしょ?」


一方、工房の静かな一角では。


「……クソッ、あのクソ坊主。ただの鉄杭にゴリ押しで魔力を流すだけのクセに、なんで俺がこんな『土壌圧拡回路』を血眼になって彫らなきゃならねぇんだ……ッ!」


バッカスがゴーグルを被り、鉄杭の先端に埋め込むための三級の土属性魔石に、ブツブツと文句を言いながらも精密な刻印をガリガリと彫り込んでいた。


さらに、工兵部から間借りした小さな事務所では。


「ううっ……備品使用許可書に、馬車解体証明書、さらに資材調達決裁……っ!」


エドが山積みの書類を相手に、泣きながら猛スピードでハンコを押し続けていた。


そして、更に数日後。


エドが内務局から引っ張ってきたボロ馬車は、工兵たちの手によって瞬く間に上の幌と木枠がひっぺがされ、頑丈な鉄の車軸と台座だけの姿にされた。


そこに、『廃棄バリスタの台座』の接合部を真っ赤になるまで加熱し、巨大な鎚で叩き付けて固定する。


台座の後部にある巨大ウインチには、ゼノスの作った(モーター)が泥靴村から送られてきたボルトとナットで直結された。


「ちょっと待って……この留め具、なぜどれも同じサイズで出来ているんだい!?」


複数箇所を固定しているボルトとナットをまじまじと見つめ、コンラッドが目を丸くした。この世界の常識では、ネジとは雄と雌を現物合わせで作る『一点モノ』であるはずだからだ。


「ああ、これですか? 泥靴村で作っている新しいボルトとナットですよ。専用の工具でネジの溝を削っているので、どれを組み合わせてもピッタリ合うんです」


ゼノスがあっさりと答えてレンチを回す横で、コンラッドは軍の整備の常識すら覆す部品を前に、またしても戦慄することになった。


この日を境に、軍務局は泥靴村製のボルトとナットを大量に発注することになる。


そして台座の先端には、カイトが言うところの『おっきなつりざお』――木材の外側にミスリルメッキした鉄枠で補強したクレーンのブーム(竿)が、斜めに突き出されていた。


サオの先端の滑車から垂らされた太いロープ。その先には、バッカスが精魂込めて仕上げた魔石付きの『鉄の杭』がぶら下がっている。


カンッ、カンッ、という鉄を打つ音が止み、工房に静寂が訪れた。


「……完成だ」


バッカスが充血した目をこすりながら呟く。


そこにあったのは、内務局の廃棄馬車と、軍務局の攻城兵器と、フェルメールの魔導技術が融合した、異形の重機だった。


「できたー!」

カイトが両手を挙げて歓声を上げる。


「『魔導建柱車』の完成だよ! さっそく試そう!」


工房に響き渡ったカイトの歓声とともに、一行は完成したばかりの異形の重機を王城内の歩兵演習場へと引っ張り出した。


***


「いくよー! モーター、スイッチ、オン!」


カイトが握ったミスリルクリップから流された魔力によって、四級魔石を八個搭載した高トルク仕様のモーターが「ギュィィィン!!」と唸りを上げ、ウインチを逆回転させる。重い鉄の杭が地面へ向かってゆっくりと降下していく。


ドスッ! と杭が地面に当たった瞬間、カイトがミスリルメッキしたブームへ惜しげもなく魔力を流し込んだ。


その魔力はブームからワイヤーを伝い、杭の先端に埋め込まれた土属性魔石へ一気に流れ込む。


ズボボボボッ!!


地鳴りとともに、杭の周囲の土が全方位に向かって強制的に押し広げられ、鉄杭が自重でズブズブと地面の奥深くへ沈み込んでいく。


あっという間に、街灯柱をすっぽり飲み込むほどの深く大きな縦穴が完成した。


「な、なんだこれは……! 杭を落としたら、一瞬で穴が空いたぞ!?」


コンラッドが目をひん剥いて驚愕の声を上げる。


「えへへ、ズボって穴があいちゃう魔法だから、『ズボットホール』だよ! ……でも、掘り過ぎちゃった。……テヘ!」


カイトが舌を出して笑うと、横で見ていたバッカスが青筋を立てて怒鳴った。


「『テヘ!』じゃねぇ! 力任せに魔力をゴリ押ししやがって……おまけに『ズボッとホール』なんて間抜けな名前付けやがって! 見ろ、柱が完全に埋まるほど穴があいてるじゃねぇか! 何のために魔石の指向性を無くしてると思ってんだ!」


「えー、でもー」


「でもじゃねぇ、ったく、許容量を超えた魔力で鉄杭がものすげえ熱を持ってるじゃねえか! お前、この作業禁止な!」


バッカスの指摘通り、引き上げられた鉄杭からはジュウジュウと白煙が上がっていた。カイトの非常識な魔力圧のせいで、このままでは杭が一日持ちそうにない。


「えーっ! 僕が考えて作った重機なのに!」

「うるせぇ! お前がやったら初日で杭が溶けてぶっ壊れるわ!」


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

この時代だと溶接はまだまだ先なので、鉄を真っ赤に焼いて叩いて接合する鍛接にしてみました。

日本刀を折り返し鍛錬するときのヤツですね。

もし「面白い!」「続きが気になる!」「カイト、相変わらずだな…」と思っていただけましたら、

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