第86話 カイトの「廃材」流用術
王城北側にある軍務局、軍務局長・ケッセルベルク公爵の執務室。
そこへ、黄色いヘルメットを被ったカイトと、護衛のレオンハルト、そしてバッカスと内務局のエドが訪れていた。
「……廃棄予定のバリスタの台座が欲しい、だと?」
執務机越しに要望を聞いた公爵は、訝しげに眉をひそめた。
「うん! あと、その上に『おっきなつりざお』をくっ付けて、柱を釣るんだよ。王都から南へ向かう『光の道』の工事で、いっぱい柱を建てなきゃいけないでしょ? そのために、軍でいらなくなった大弓の台座をもらえないかなって思って!」
「まあ、廃棄品を持っていくこと自体は構わんが……弓の部分が壊れた台座など、ただの重い塊だぞ。それに釣竿?そんなものをどう使うのだ?」
「それは出来てからのお楽しみだよ! でも、絶対に工事が早く終わるから!」
公爵は深いため息をつきつつも、カイトがこれまでとんでもないものを生み出してきた事実を思い出し、机上の羊皮紙にサラサラと許可のサインをした。
「……よかろう。コンラッド中尉を呼ぶ。彼に案内させよう。好きなものを持っていくがいい」
「やったー! ありがとう、公爵のおじちゃん!」
ほどなくして呼ばれたコンラッドを案内役に、カイトたちは軍務局の敷地内にある『砲兵部』の裏庭へと歩き出した。
歩きながら、コンラッドがふとカイトを見て微笑んだ。
「カイト君、この間バッカスさんから図面をもらって作った『ネコ車』だけどね。あれは本当に素晴らしい発明だよ」
「えへへ、ほんと?」
「ああ。工兵部の連中が、あの取り回しの良さにすっかり魅入られてしまってね。毎日のように演習場の泥道で土砂を運んで、取り合いになっているよ。おかげで資材運搬の効率が劇的に上がった。局長からも、必要ならどんどん量産しろと命令が出たくらいだ」
「おう、俺もこの前見に来たが、見事に狂ってたな。まさか軍の演習場で一輪車を奪い合ってるとは思わなかったぜ」
バッカスが呆れ交じりに笑う。
「ね、だから言ったでしょ? 狭い足場でもスイスイ行けるから便利なんだよ」
「そういや、坊主から他の図面も一緒に預かったけど、俺たちはモーターだけ組んどきゃ良いのか?」
「うん、お願い。他の機械は泥靴村で組み立てるつもりなんだ」
そんな雑談を交わしているうちに、一行は砲兵部の裏庭――廃棄予定の兵器や資材が山積みにされた場所へ到着した。
そこには、弦が切れ、弓の部分が折れて使い物にならなくなった古いバリスタが何台か放置されていた。
「ここだね。どうぞ、カイト君」
コンラッドが指し示すと、カイトはトテトテと一番頑丈そうなバリスタの台座に近づいた。しかし、巨大な兵器であるバリスタの台座は分厚く、六歳のカイトの背丈では上部の構造がよく見えない。
背伸びをしてペチペチと木枠を叩いていると、背後に控えていた護衛のレオンハルトが苦笑しながら歩み寄ってきた。
「若様。これでよく見えるでしょう」
「ありがとう、レオンおじちゃん!」
レオンハルトがカイトの脇に手を入れてひょいっと持ち上げ、そのまま自身の腕で高く抱え上げてやる。視界が開けたカイトは、バリスタの上の構造をじっくりと見回した。
「うん、これならすごく丈夫そうだね! バッカスおじちゃん、これ見て!」
カイトが指で指し示したのは、バリスタの角度や旋回を調整するための鉄の歯車機構と、後部についた弦を引くための『巻き上げ機』だった。
「この台の上に、斜めになった『おっきなつりざお(鉄のサオ)』をくっつけるでしょ? でね、サオの根元にあるこの『巻き上げ機』の手で回すところに、おじちゃんが作ったモーターをくっつけるの。そして、ロープをサオの先まで伸ばして、重いものをヒョイって吊り下げられるようにしたら……」
カイトが何をしようとしているのか悟った瞬間、バッカスは呆れたように息を吐き出し、やがてニヤリと口角を上げた。
「……なるほどな。この大弓の頑丈な土台を流用し、モーターの力でウインチを回して柱を吊り上げるって腹か」
「そう! ゼロから重機を組む手間が全部省けるでしょ?」
バッカスは、目の前の廃棄品とカイトの顔を交互に見比べ、肩を揺らして笑った。
「ハッハッハッ! 確かにこれなら、強度は十分、旋回もできる装置がすぐ組み上がるな。でもよ坊主。柱を吊り上げるのは分かったが、肝心の『地面の穴』はどうやって掘る気だ? 鉄のドリルでも作るのか?」
「ドリルなんか作らないよ! だって、前に温泉のパイル柱を作った時の『土の石(魔石)』を使えば、一瞬で穴が空くじゃない!」
「……あ?」
「先端にあの魔石をくっつけた鉄の杭を、このクレーンで吊るして地面にドスンって落として、魔力をゴリ押しするの。そしたらズボッ!て穴があくでしょ?」
その瞬間、バッカスの顔から笑いが消え、代わりに職人としての深い深いため息が漏れた。
「……おい坊主。アレは前、相当深いところまで届くようわざわざ指向性を持たせた繊細な回路だろうが。そんなもん使ったら柱が埋まっちまうよ」
「えーダメなの?」
「逆だ!逆! 柱を立たせるだけの深さだったら魔法の指向性を無くして単純に横に穴を押し広げる魔石を鉄の杭の先に付けときゃいい」
「じゃあ、出来そうだよね。後はこれを載せる中古の馬車かな〜」
「それなら内務局の馬車置き場に使わねぇ馬車が転がってるぜ、なあエド!」
エドは嫌な予感しかしないという顔で肩を震わせた。
本日もお読みいただき、ありがとうございました!
ブームを釣り竿に見立てて、柱を「吊る」ではなくあえて「釣る」にしてみました。
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