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第84話 魔力を潰せ!魔力変圧器

「……それって、この黒竜川の本流でも、水で押すトルクが足りねぇってことか?」


「うん、そうなるよね」


カイトの指摘に、バッカスは力なく天を仰いだ。


「おいおい、黒竜川の本流に巨大水車を浮かべても出力不足。おまけに鉄線じゃあ五百メルから先で急にブレーキがかかっちまって届かねぇ。俺たちはもう、完全に暗礁に乗り上げちまったって事だろ。どうすんだ?」


その時、遠くの送魔線沿いにいたエドが、バインダーを抱えて駆け戻ってきた。


「はぁ、はぁ……! やっぱり距離が伸びると魔力圧が急激に落ちます! 六百メルを超えた辺りから、ランタンの光が一気に弱くなりました!」


「やっぱりか……」


「あのね! バッカスおじちゃん、ゼノスおじちゃん! エドお兄ちゃんも戻ってきたし、いっかい テントにいこっか!」


バッカスが頷き、人足たちに撤収と指示を飛ばす。全員で船を降り、小屋の脇に建てた仮設テントへとぞろぞろと移動を開始した。


水車小屋の脇に建てられた仮設テントの中。

バッカスが頭を抱え、ゼノスも絶望的な表情で鉄の送魔線と、全く光らないランタンを見つめていた。


(……そうじゃ。これは変圧器の話と同じなんじゃ。電気も魔力も遠くに送れば送るほど途中で弱まっちまうんじゃ。しかしワシは電気の事はサッパリじゃ。なんて言うてたかのう。昔、現場に出入りしてた電力会社の兄ちゃんが言っとった話……)


カイトは眉間に皺を寄せ、前世の記憶を必死に掘り起こす。


(……あっ!)


脳裏に、ヘルメット姿の若い作業員が笑いながら話していた光景が鮮明によみがえった。


『……親方、変圧ってのは花壇のホースの水撒きと同じっすよ。水を遠くに飛ばしたけりゃホースの先を潰すでしょ? 潰れたホースから勢い良く水が出るから遠くに届くんですよ!圧を戻す時は、その勢いの水をバケツの中に溜めてバケツの下に穴を開けてやればいいんです……』


(よし、これをそのまんま説明してや――いや待て。この世界、ゴムがないから『ホース』なんてモンは存在しとらん!! また意味不明な単語を口走ってる墓穴を掘るところじゃったわい!)


カイトは一瞬冷や汗をかきながらも、前世の記憶を瞬時に「この世界の常識」へと脳内翻訳し、二人の前にトテトテと歩み出た。


「あのね! バッカスおじちゃん、ゼノスおじちゃん! 革の『お水袋』に入ったお水を、遠くまで飛ばしたかったら、どうする?」


「え? ……そ、そりゃあ、袋の口を指でギュッと小さく絞って、袋を強く潰せば遠くに飛ばせますが……?」


「そう! それと同じだよ! 送るほうの根っこのところで、魔力を『ぎゅっ』て つぶして、すごい勢いで『ブシャーッ!』って 鉄の線に 押し込むの!」


「魔力を潰す……?……入り口を絞る……?」


カイトが水袋を絞る真似をすると、バッカスはガシッと頭を掻いた。


「だからだよ、坊主。理屈は分かる。問題は、その『口を絞る』刻印をどう作るかなんだ。魔力を『圧縮』して圧を高めるなんて器用な刻印、俺は知らねぇぞ。力任せに出力を上げりゃ良いってもんじゃねえし、実際に水で押す力はもう頭打ちだ!」


「お水が通る中の形を、変えるのって魔力じゃ出来ない? こんな感じで」


カイトが描いたのは、入り口が広く、出口に向かって急激に狭くなる『漏斗ろうと』のような形状だった。


「……お水は同じ量でも通る道がいきなり狭くなったら、お水は むりやり 通ろうとして、すごい 勢いで『ブシャー!』って とびだすでしょ?」


二人はカイトが描いた漏斗の図を食い入るように見つめた。


「魔力の通る道の形を変えるだけ……」

「魔力に仕事をさせないで通すだけ……」


「「…………ッ!!!」」


二人の天才技術者の脳内で、凄まじい雷が落ちた。


突然硬直した二人に、エドがビクッと肩を揺らす。

「ば、バッカスさん……? ゼノスさん?」


バッカスは、紙をひったくるとその真ん中にドンと大きな円を描く。そして、その円から一本の矢印を――タンデム魔石の起動順序を示す、魔力送出用の線を描き足した。


「これだ……! 『魔力圧縮』の刻印を考えるなんて必要はねぇ! 新しく用意した魔石に、ただ回路の『溝の形』を絞るように彫るだけで、魔力圧を跳ね上げられる……!」


しかし、興奮するバッカスの横で、ゼノスがすぐに現実に戻ってハッと息を呑んだ。


「……いや、待ってください。それで高圧送魔はできます。ですが、高圧の魔力を、そのままランタンへ流し込めば……末端の魔石が耐えられません。一瞬で破裂します!」


「だからね!」


カイトはニコニコしながら、テントの隅にある木のバケツを指差した。


「ランタンの手前に、『底にちっちゃい穴があいた木のバケツ』を置いてあげるの。『ブシャー!』って来たお水を一回バケツにためて、底の穴からチョロチョロ流せばいいでしょ?」


「一度ためて……ゆっくり流す……?」


そこまで口にしたゼノスは、ハッと顔を上げて隣のバッカスを見た。

バッカスもまた、同じ答えに辿り着いたように目を見開いている。


「……【連環】の刻印だ」

バッカスの呟きに、ゼノスは勢いよく机を叩いた。


「そうか! あの刻印なら、一度魔力を蓄えて一定量ずつ放出できます! 高圧送電した魔力を受け止め、末端では安全な魔力圧へ戻せる!」


バッカスも興奮したように大きく頷く。


「送る側はただの『漏斗』で圧を上げて、受ける側は俺の【連環】で勢いを殺す……! しかも『漏斗』なんて魔法ですらねぇ、俺たちの『彫金技術』と『手持ちの札』だけで、鉄線の抵抗に負けねぇだけの魔力圧を作れるってことじゃねぇか!!」


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「続きの工事が気になる!」「ホースって言っちゃったらどうごまかすんだろう?」と

思っていただけましたら、ページ下部より評価とブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!



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