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第83話 遠すぎる王都

黒竜川のほとりには、船とは思えない巨大な構造物がその姿を現していた。もはや小屋に収まるような代物ではない。黒竜川の激流を正面から受け止めるために設計された双胴船の形をした『船形水車』である。


「……おう。やっと、形になったな」


プラタマが額の汗を拭いながら、愛おしそうに船体を撫でた。


船体は水流の抵抗を最小限にするために左右共に流線型に設計され、その船体の内側には溝があり、それに沿って分厚い木板を「スライド」させて落とし込むことで、水車の入っているトンネルへの水の流入を物理的に遮断するように出来ている。


これはメンテナンス性を向上させるためにカイトが追加したものだ。


そしてその船の中央には、先ほどまで工房で調整していた鉄製の頑丈な増速ギアと発魔機が固定されている。


「二級魔石を積んだ発魔機は据え付けたぜ。ギアボックスとの噛み合わせも完璧だ。軸のブレもねぇ。あとは川に浮かべて、どれだけ回るかだな」


バッカスが確認を終えて満足げに頷くと、ゼノスも発魔機に最後の保護カバーを被せながら同意した。


「ええ、動力伝達は完璧です。あとはこの船が、黒竜川の濁流の中でどれだけ持ちこたえられるか……」


「よし……! ダンおじちゃん、準備はいい?」


「おうよ! 野郎ども、上流側の控え綱をしっかり張れ! 重し(アンカー)の準備も怠るなよ! 慎重に、ゆっくりとだぞ!」


ダンの号令とともに、数十人の人夫たちが川の両岸に分かれ、巨大な船形水車を黒竜川へと引き出していく。


丸太を組んだ仮設の滑り台から、船体がジリジリと水面へと押し出されていく。その光景は、まるで川に浮かぶ要塞だった。


ザァァァッ……!


船体が水面を捉えた瞬間、大きく揺れ、周囲に水飛沫が上がる。

激流に煽られ、一瞬バランスを崩しかけた船体だったが、プラタマが仕込んだ船底のバランス構造と、水密性の高い船体が、見事に浮力を保った。


「よっしゃ、浮いた!!」


現場の男たちから、地鳴りのような歓声が上がる。


船形水車は、岸の強固なアンカーから伸ばされた、木枠で厳重に覆われた極太のワイヤーによって本流のド真ん中にがっちりと係留されていた。激流の凄まじい張力にワイヤーがギリギリと鳴るが、プラタマたちの護岸設備は微塵も揺るがない。


「準備おっけー! バッカスおじちゃん、ダンおじちゃん、お船の水門バイパスを開けて!」


「おうよ! 野郎ども! スライド底板、引き抜けぇッ!!」


バッカスの怒号と共に、船上の職人たちが総出で木製のシャッターを抜いていく。

溝に沿って船底を遮断していた分厚い木製のシャッターが、ズズズと引き抜かれた。


ゴォォォォッ!!


その瞬間、行く手を阻まれていた黒竜川の本流が、双胴船の中央トンネルへと凄まじい勢いで流れ込んできた。


水車が激しい水飛沫を上げて爆速で回転を始め、船内に据え付けられた鉄製の頑丈な増速ギアボックスが甲高い金属音を響かせる。その猛烈な回転エネルギーのすべてが、二級魔石を組み込んだ大型発魔機へと直結された。


「ゼノスッ!発魔機はOKだ!送魔線班に伝えてこい!」


「了解です!――発魔機異常なし! 送魔線へ魔力放出されます!!」


ゼノスの叫びと同時に、船体から陸へと伸びる、木覆いの太い導線ワイヤーを魔力が駆け抜けた。


陸上に仮設された送魔線。


二十〜三十メルごとに設置された魔道ランタンが、一基、また一基と、目にも留まらぬ速さで光の連鎖を起こしていく。


一個、十個、二十個――。


「……三十個目、点灯! 全部、煌々と点きましたぁ大成功です!!」


六百メル先まで走って待機していたエドが、バインダーを掲げて絶叫した。


船形水車が黒竜川の激流を余すことなく受け止めたことで、二級魔石二十四個を積んだ発魔機は、これまでとは比較にならないほどの魔力を送り出していた。


昼間であるにもかかわらず、河川敷に並んだ三十個のランタンは、王都の夜を照らすいかなる魔導具よりも眩い光を放っている。


「っしゃあ! こっちでも耐えきったぞ!!」

「木っ端微塵にならねぇ! 鉄のギアが勝ったんだ!!」


ダンやプラタマ、荒くれ者の人足たちが一斉に歓声を上げ、拳を突き合わせてお祭り騒ぎになる。誰も魔力を流していない。ただ、川が流れているだけで、明かりが灯ったのだ。


だが、カイトは満足していなかった。最後尾のランタンの光量を冷徹に見つめ、エドに手信号を送る。


「エドお兄ちゃん! 三十個目の先にも、もっとランタンを繋げてみて!」


「おーい、監督からもっとランタン繋げろってよぉ!」


「えっ? あ、はい! おい、予備のランタンを早く繋げ!」


エドの指示で、職人たちが大慌てで送魔線をさらに先へと延長していく。


三十一個、三十二個、三十三個……。


「三十四個目……少し暗くなりました!」

「三十五個目……かなり光量が落ちています!」


チカ……チカ……。


「あ……。三十六個目、一応点きましたが……すごく暗いです。ただ薄暗くオレンジ色に揺れているだけで、明かりの役に立ちません!」


エドの声が響くと、現場の熱気がスッと引いた。


「二級魔石によって実用距離は確実に延びています。六百メルまでは十分な光量を維持できています。しかし、それを超えると魔力圧の低下が急激です」


ゼノスが手元の数値をバインダーに書き込みながら険しい顔で唸った。


その時だった。


双胴船の中央で発魔機を見守っていたバッカスが、眉をひそめる。


「……おい、ちょっと待て」

「どうしました?」


「送魔線だけの問題じゃねぇ。発魔機の回転が、さっきより落ちてきてやがる」


バッカスの言葉に、ゼノスも慌てて発魔機の軸を確認する。


そこへ、カイトが係留用の木枠を伝って双胴船の上へとやってきた。カイトは重そうに軋み始めた回転シャフトをじっと見つめ、小さく頷いた。


「うん。やっぱりね」

「坊主、こりゃどういうことだ?」


「このお船の水車でも、黒竜川の流れじゃ二級魔石を回し切れないんだ」


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

試行錯誤してるところが上手く書けてれば良いんだけどと思いながら書いてます。

もし「面白い!」「続きが気になる!」「ちゃんと書けてるよ!」と思っていただけましたら、

ページ下部より評価とブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!



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