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第80話 浮き彫りになる限界

水車小屋の設置場所では、レオンハルトを連れたカイトが指揮を執っていた。


黒竜川の増水はようやく収まり、水路の入り口に蓋をして流れを止めたことで、ようやく前回の修理と再テストができるようになった。


既存の水車には、『鉄製の増速ギア』と、前回からあえて三級魔石にグレードダウンさせた発魔機を取り付ける予定だ。


それと並行して、本命である船形水車の設計製作も始まっている。


送魔線も前回からさらに延長し、実際に使用するであろう二十〜三十メルごとに一個のランタンが付けられるように伸ばした。総延長は六百メルにまで達している。


エドが麻縄を手に取りながら、柱にランタンを一つ一つ丁寧に設置していた。


「ダンおじちゃん、水路は、また一番細くしたところから始めるけどいい?」


「ああ。また中間の板を仕込んでおけばいいんだな。分かったぜ、坊っちゃま! ……おい野郎ども! 中間の調整板を入れ直せ!」


ダンの怒号が飛ぶ中、王都方面から一台の馬車がやってきた。ささくれた板を剥がし、新しい板を張り付けて修繕した馬車である。埃を上げながら現場に近づいてくると、馬車からバッカスとゼノスが降りてきた。


二人は新しい発魔機の心臓部分を大事そうに抱えていた。


「おう、やっとできたぜ。こいつが三級魔石を積んだ新しい発魔機だ」


「こっちだ!こっちも準備できてるぜ」


煤と油で顔を汚したプラタマが、大事そうに抱えていた重々しい金属の塊をドンと置く。


「もう大車輪の方は組み込み終わったんだ。あとは、こいつを組めば、すぐにでも機械を設置出来るぞ」


「おう、分かった。で、坊主。どっちから繋ぐよ。また二級からか? それとも三級からか?」


「三級からでいいんじゃない。また歯車が吹き飛んだら泣いちゃうでしょ」


前回、二級魔石二十四個が生み出す凄まじい反発力トルクによって、木の歯車がバラバラにへし折れた光景は、職人全員の脳裏に焼き付いている。


「よし、ゼノス。設置するぞ!」

「はい、師匠!」


バッカスとゼノスは水車の中に入ると、新造した鉄の増速ギアのシャフトと、三級魔石を積んだ発魔機を繋ぎ始めた。


ガチンッ、ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!


前回とは違う金属音が現場に響く。


やがて二人が出てくると、いよいよ三級魔石・鉄製ギアでの第二回通水実験の開始である。


カイトは内心で祈りながら、コクリと頷いた。


「よーし、いっくよー! ダンおじちゃん、お水、一段目だけ流して!」


「おうっ! 野郎ども、板を抜け!」

水路に水が流れ込み、水車の羽板を叩く。


ギギギ……ガキィンッ、ギュルギュルギュルッ!


水車が軋みを上げ、内部の鉄ギアが重々しい音を立てて噛み合った。だが、今回は嫌な破断音は聞こえない。水車はゆっくりと、しかし確実に回り始めた。


「おおっ! 鉄の歯車、耐えてるぜ!」

「ランタン、点灯し始めました!」


バッカスとゼノスが身を乗り出す。

一個…二個…三個…四個……。


「五個まで点きましたぁっ!」

百メル先まで走って待機していたエドから、声を張り上げた報告が届く。


「六個目、点灯しませ〜ん!」


「よし、水路第二段階! 次の板、開けるぞ!」


バッカスの指示で水流が追加される。水車の回転が上がり、鉄ギアの唸り声が高くなった。


六…七…八…九…十個……。

十五個……十八個…………十九個!


「に、二十個めが……はぁ、はぁっ、点灯しませーん!」


「次だ! 水路第三段階! 最後の板を外せェッ!」


ダンが最後の板を豪快に引き抜く。前回、歯車を粉砕した黒竜川の本流がなだれ込んだ。


ドガガガガッ! と水車が激しく水飛沫を上げ、猛スピードで回転し始める。


「耐えろ……耐えろよ……ッ!」


バッカスがギリッと歯を食いしばる中、鉄製のギアは甲高い金属音を響かせながらも、見事にその激流と魔石の抵抗をねじ伏せた。


送魔線の先に設置されたランタンが、次々と光を宿していく。

二十個、二十五個……やがて、六百メル先にある最後の三十個目にも明かりが灯った。


「さ、三十個目……点灯しましたぁぁっ!!」

「っしゃあ! 耐えきったぞ!!」


エドの絶叫に、バッカスやダンたちが歓声を上げて拳を突き上げる。


一番遠くのランタンまで走って確認してきたエドは、息を切らしながらも実験の成功に喜んでいた。


だが、それを見るゼノスの表情は、魔導具師としての険しいものだった。


「……確かに全て点きました。しかし、一基目と比べると明らかに光量が落ちていますね。最後のランタンは、ただ薄暗く光っているだけです」


エドが首をかしげると、カイトは最後尾のランタンへ視線を向けた。


「えっ、あれじゃダメなんですか?」


「うん。暗いと明かりの役に立たないからね。送魔線を伸ばすと、遠くまで届かせるのが大変なんだ」


カイトの説明に頷きながら、ゼノスは手元のバインダーへ素早く数値を書き込んだ。


「ええ。つまり……三級魔石なら、水路を最大まで開けば発魔機は安定して限界まで回せる。しかし、今度は送魔線の距離が問題になります」


ゼノスは薄暗い最後のランタンを見つめながら結論を口にした。


「六百メルでは魔力圧の低下が大きい。今のシステムのままで実用を考えるなら、一基の水車で担当する送魔線は五百メル程度に抑える必要がありますね」


エドが思いついたようにゼノスを見上げると、ゼノスは先回りするように視線を向けた。


「じゃ、じゃあ……この前みたいに『二級魔石』を使えば、魔力が強くなってもっと遠くまで届くんですか?」


ゼノスは小さく首を横に振る。


「ええ、二級魔石なら魔力圧が上がるので、もっと遠くまで送れるでしょう。しかし、今の水路とあの水車では、二級魔石の反発力を受け止め切れません。まずは、それを回せるだけの水車が必要です」


バッカスがニヤリと笑って黒竜川の方を顎でしゃくると、カイトも黄色いヘルメットの鍔をクイッと上げて頷いた。


「だからこそ、あっちの出番ってわけだ」


「そうだね! ……あとは、あっちで組んでる『お船』ができてからだよね!」


カイトは水路の先、黒竜川のほとりへと視線を向けた。


そこでは、大工の親方であるプラタマの怒号が飛び交い、職人たちが汗だくになって『巨大な船の骨組み』を組み上げている真っ最中だった。


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

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