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第78話 鋭きママの眼光

本日は、3話投稿

一応の話し合いも終わり、伯爵と子爵、そしてアルベルトは宴の席へ戻っていった。別室に残ったのは、バッカスとゼノス、そしてカイトだけだった。


バッカスは扉が完全に閉まったのを確認すると、疲れたように大きくため息をついた。


「……おい坊主。さっきのハルバードの旦那たちとの話、聞いてて冷や汗が出たぜ。よくあそこから美味しいとこまで持っていきやがったな」


そう言って、バッカスは呆れたように頭を掻き、カイトを見下ろす。


「なぁ、坊主、お前一体どこまで考えてた?」

「え、なんのこと?」


「とぼけんな。発魔機に不要なダミー魔石を入れとけとか、芯棒に意味のねぇ魔法刻印を入れとけとか、ワザと複雑な偽装工作をさせたよな。あれで他所に簡単に真似されないようにしてるんだろ? その上で、毎月点検が必要だの交換が必要だの、最初から考えてたんだろ?」


カイトは人差し指を口元に当て、「内緒だよ!」というように笑った。


「おじちゃんたちが作った『すっごい機械』が、もし誰かにマネされたら、みんなのお仕事がなくなっちゃうでしょ? だから守ってるの!」


「ったく、お前は本当に敵に回したくねぇガキだよ!」

「えへへ〜」


「確かにそうですね。敵に回った瞬間、トラウマ級のしっぺ返しが来そうです」


二人が苦笑交じりにため息をつくと、カイトは身を乗り出した。


「ねぇねぇ、そんなことより、この間の水車の話をもっと詳しく教えて。あれから色々考えたんだ。他にも調べなきゃならないことがあるし」


話を切り替えられたバッカスは、カイトが家へ強制連行されてから今日までに起きた出来事を、順を追って説明した。


水流の力で無理やり発魔機を回そうとした結果、水車が負荷に耐えきれず破損した一部始終を。


それを聞き終えたカイトは、ぱっと顔を輝かせた。


「やっぱりそうだよ!」

「ん? 何か分かったのか?」


「うん。例えば魔石なんだけど、あの大きい魔石を二十四個で回そうとしたんだよね。でも、本当は魔石の大きさや数を変えたら、あの水路でも十分回ったかもしれないって思ったんだ」


「ん? それじゃ発生する魔力が減っちまうんじゃねぇか?」


「うん。でも、それがどのくらい減るのかも、まだ誰にも分からないよね?」


バッカスは腕を組んで頷いた。


「まあ、そうだな。前例がねぇから、どうせ作るなら最高性能を目指そう、一番大きな魔石を使おうって考えたからな」


「うん。それも正解だったんだよ」

「正解?」


「だって、『二級魔石二十四個じゃ反発が強すぎて、黒竜川でも十分回せない』ってことが分かったんだから!」


カイトはにこりと笑う。


「実験って、成功するだけじゃないもん。『これは無理だー』って分かれば、次の方法をためせばいいんだから」


「まあ、そうだな。じゃあどうするよ!魔石を組み替えんのか?」


「うん! いまの水車で、三級魔石を使ってやってみたいの!」


「三級魔石ですか……なるほど」


ゼノスが顎に手を当て、即座に頭の中で計算を始める。


「二級よりも魔場が弱い分、発生する魔力は落ちますが、その代わり回転に対する反発、つまり負荷も下がります。それなら、今の水車の規模でも回りきるかもしれない……!」


「じゃあ、バッカスおじちゃん! さっそく三級の魔石を『てはい』してもらえる?」


「おう、任せとけ! ハルバードの旦那から、しこたま予算を引っ張ってくるって言われたんだだからな。三級魔石の箱買いだろうがなんだろうが、すぐにでも手配してやるよ!」


バッカスはニヤリと笑みを浮かべた。


「水車の修復と並行して進めましょう。私もすぐに新しい芯棒を作ります。それに、三級魔石に合わせて負荷が減るのであれば、ミスリル導線の巻き数や配置も調整した方が良さそうです。そこも含めて考えてみます」


ゼノスもまた、すでに懐から手帳を取り出し、何事か呟きながら書き込み始めている。


火のついた二人の技術者を見て、カイトは内心でホッと胸を撫で下ろした。


(よしよし、これで発魔機の実証実験の第二段階じゃ。まずは確実に回るプロトタイプを作ってデータを取らんと、現場には投入できんからな。PDCAをガンガン回していくぞい!)


コンコン、と控えめなノックが響き、扉が開いた。


「カイト、いますか?」

「あ、ママ!」


カイトはすぐにドアの前まで駆け寄った。エレナはしゃがみ込み、優しく微笑む。


「宴もひと段落しましたからね。そろそろ帰る準備をしましょう」


カイトは少しうつむき、エレナのドレスの裾をそっと握った。


「……あのね、ママ。ボク、泥靴村に帰るのが、ちょっと怖いんだ」

「怖い……?」


「ボクが帰ったら、『ボクたちが作った機械』を狙って悪い人が村に来るかもしれないでしょ? みんなが怪我しちゃうかもしれない」


(本当は王都でバッカスのおっさんたちと実験を続けたいだけなんじゃが……ここは『村のみんなを心配する健気な子供』で押し切るぞい!)


「だから、少しの間だけ王都に残って、バッカスおじちゃんたちと一緒にいたいの。……ママ、いいよね?」


エレナはカイトの顔を見つめ、ふっと微笑んだ。


「……ふふっ、わかりました」

「本当!?」


「ええ。カイトがそう言うのなら、そうしましょう。さあ、二人にご挨拶をして。もうそろそろ別邸へ戻りますよ」


「うん!」


***


密談から一夜が明けた翌日。

フェルメール家の王都別邸の玄関前には、出発の準備を整えた一台の馬車が停まっていた。


「カイト、くれぐれも気をつけるのですよ」

「うん、ママ」


「くれぐれも面倒ごとを起こさないように頼むぞ」

「うん、パパ」


子爵になったアルベルトは泥靴村で部下や領民への披露が待っている。一方のカイトは、護衛対象があちこちに散るよりも王都で一箇所に留まった方が安全だという理由で、別邸に残ることになった。


「カイト様のお世話はお任せください。わたくしが一流の王都ボーイにして差し上げますわ。どうぞご安心を」


セシリアがパッチワークドレスの裾をつまんで恭しく一礼し、その後ろでアンナも頭を下げる。


「レオンハルト。常にカイトの近くにいて守ってやってくれ」

「……はっ!」


「ああ、頼んだぞ……。それにしても」


アルベルトは、不安げな顔で別邸の庭の茂みや、屋根の上、通りの死角などを不自然なほどキョロキョロと見回し始めた。


「閣下は『守りを固めてある』と仰っていたが……本当に護衛はいるのだろうか? 全く気配を感じないのだが」


「そうだね〜、居なそうだよね」

(親父殿……国家のシークレットサービスが、素人にすぐ見つかるようなへっぽこ配置をするわけないじゃろ)


カイトが内心で呆れながら適当に相槌を打っていると、隣にいたエレナがふと通りを指差した。


「あら、あなた。例えばあの北門に向かう行商人は多分、影の方ですわ」


「えっ?」


「南へ向かうなら徒歩の行商人もいるでしょう。でも北へ向かうなら、普通は宿場町まで乗合馬車を使います。あんな荷物を背負って歩くのは不自然ですわ」


「あ、ああ、なるほど……!」


エレナの鮮やかな推理に、アルベルトがポンと手を打った。


(……ええっ!? ママ、マジで!? プロの隠密の偽装を、まさかの『現地の交通事情ではあり得ない矛盾』と照らし合わせて看破しおった……!)


カイトは思わず目を丸くした。と同時に一瞬で背筋が寒くなった。

(これ、昨晩のワシの嘘なんぞ、絶対バレとる……!)


滝のような冷や汗を流すカイトへ、馬車に乗り込んだエレナが窓から顔を出し、優しく微笑んだ。


「……ふふっ。わかりましたか? カイト。いつでも帰ってきていいのですからね」


(やっぱり全部バレとるーっ!)


カイトは引きつった笑顔で手を振り返しながら、逃げるように王都の工房へ向かうのだった。


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

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