第74話 王女も唸る魔導革命
100万PV突破大四弾です。本日、この後もう1話投稿します。
ルシアンはカイトの手を引きながら、目を輝かせてまくし立てる。
「カイト! あれから何か作った? 今日は何を教えてくれるの? 魔力発生装置の続き? それとも新しい発明?」
「まあ、順番だよ。そんなに一度には説明できないって」
「だって楽しみだったんだ! 父上にもお姉様にも、カイトはすごいんだって話したんだから! 何か新しいものがあるんでしょ?」
その時だった。
「ルシアン、うるさいわよ。何騒いでるの?」
部屋の扉がノックもなしに開き、堂々と入ってきたのは、ルシアン王子よりも背が高く、落ち着いた雰囲気をまとった少女だった。
輝く金髪を優雅にまとめ、鋭い青い瞳が印象的な少女。彼女が纏うのは、深い紺色のドレスで、フリルやリボンを控えめに抑えたシンプルで上品なデザインで幼さを感じさせない気品ある佇まいが漂っていた。
彼女はルシアンが指差す先、フリルの塊と化したカイトを見るなり、あからさまに眉をひそめた。
「はぁ、この子ね、ルシアンがすごい、すごいって騒ぐから見に来たけど……何その服? ちょっとフリルが主張しすぎじゃない?」
(……おお! このフリルの異常性に気づくとは……この城で唯一の良識人、ナイスな嬢ちゃんじゃ!)
カイトは心の中で拍手を送った。
しかし、少女はさらに腕を組みながら言った。
「せめて半分でいいでしょう。何事にも加減ってものがあるわ」
(いや、半分でも多いんじゃが……まあ、今の三倍よりは遥かにマシか)
カイトがそんなことを考えていると、少女は弟へ視線を向けた。
「で? この子の何がそんなにすごいの?」
「魔力発生装置だよ! カイト、今日はそれが完成したか教えてくれるんだよね? 父上も、この装置が完成すれば国の力が変わるって期待してるんだ!」
少女は首を傾げた。
「平民が機械を回したらランタンが光ったって話でしょう? なんでそれだけで国の力が変わるの? 明かりくらい、私だって魔法で灯せるわ」
「じゃあ、お姉ちゃんは一晩中ランタンを灯し続けられる?」
「え?」
「王都中の街灯を全部だよ」
少女は口を閉じた。
「たとえば、街の明かりが三百本あるとして、その全部を毎晩朝まで光らせるには、三百人以上の魔法使いが必要になるんじゃないかな」
「さん、びゃく……?」
王女として、城の維持費や魔法使いへの給金をある程度知っている少女は、その数字の重みをすぐ理解した。
「三百人の魔法使いを、ただ明かりを灯すためだけに雇うなんて……そんな予算、いくらあっても足りないわ。それに三百人が毎日同じ仕事を続けるなんて、あまりにも非効率だわ」
「でしょ? でも、水車と鉄線なら、一度作ればずっと働いてくれる。魔法使いさんは、もっと魔法じゃないとできない仕事をすればいいと思うんだ」
少女の表情が変わった。さっきまでの「変な子を見る目」ではなく値踏みするような、鋭い視線だった。
「……あなた、本当に六歳?」
カイトは肩をすくめる。
「ランタンを灯すだけの話だと思っていた。でも違う……これ、魔法使いの仕事そのものが変わる話なの?」
ルシアンだけが状況についていけず、二人を交互に見比べる。
「どういうこと? すごいってことだよね、カイト!」
「ええ、ルシアン。……想像以上によ」
その視線はカイトの表情の奥を見抜こうとしていた。
(……鋭いな、この嬢ちゃん)
送魔線が繋がった先には、可能性として無限のエネルギーが供給される。それはつまり、魔法使いが命を削って魔法を使わずとも、理論上は「無限に魔法を撃ち続けられる魔道具」が作れるということに他ならない。
(ワシはただ、みんなの暮らしを少しだけ楽にしたいだけなんじゃ。便利なものは、使い方を間違えれば恐ろしいものにもなる。それだけは避けたいんじゃが……)
カイトは内心を隠し、にこりと笑った。
「ルシアン殿下、そんな大げさなものじゃないよ。夜を明るく照らす道具なんだ」
少女は数秒、黙ってカイトを見つめていたが、やがて小さく息を吐く。
「……失礼したわ」
その一言だけで、最初の棘は消えていた。
「私は第二王女、アリシアよ」
胸に手を当て、王族らしく優雅に一礼する。
「カイト・フェルメール。あなたの話、もっと聞かせてもらえるかしら」
「ええっと、そろそろお腹が空いたので、パパの待つ控室に戻ってもいいですか?」
カイトの言葉に、アリシアはハッとしたように表情を和らげた。
「そうね、カイト。お腹が空いているのに無粋な話ばかりして申し訳ないわ」
「えっ、あ、いや、僕は控室に戻って父と……」
「ルシアン、お茶も出してないじゃないの? いいわ、もう三時を過ぎているし、アフタヌーンティーの時間だものね」
アリシアがベルを鳴らすと、控えていたメイドが即座に現れる。
ルシアンは「そうだね! カイトと一緒に美味しいお菓子を食べよう!」と目を輝かせ、アリシアは優雅な所作でカイトをソファへと促した。
(あ、ああぁ……っ! アフタヌーンティーだと!? 違うんじゃ、ワシは早くこのフリルを脱ぎ捨てて、普通の服に着替えたいだけなんじゃ! )
カイトはソファに座らされる。三倍に増量されたフリルが、ソファの上でボワッと広がった。
「さあ、遠慮しないで。これは王宮御用達の焼き菓子よ」
アリシアが差し出すティーカップと、一口サイズの可愛らしいケーキ。
しかし、カイトにとってそれはケーキではない。「逃亡を阻止する甘い檻」に他ならなかった。
***
一方、控室。
時計は三時を回り、三時半……と過ぎていく。
使用人が静かに入室し、冷めた紅茶を新しいものへと取り替えていく。
「……遅い。遅すぎる」
四時を回り、アルベルトは湯気の立つ紅茶にも手をつけないまま、顔面蒼白で扉を見つめていた。
(まさかカイトがルシアン殿下相手に、何か決定的な不敬を働いたのでは……!? その件で陛下まで激怒して、今頃カイトは地下牢に……!?)
アルベルトの胃は限界を迎えていた。
***
その頃。
ルシアンの自室では、長いアフタヌーンティーも終わり、ようやく解放される空気が流れていた。
「……じゃあ、長居をしたわね。ごきげんよう」
アリシアは優雅に一礼すると、静かに部屋を後にした。扉が閉まると同時に、ルシアンが目を丸くする。
「すごいよ、カイト! 姉様が自分から名前を名乗るなんて、ほとんどないんだから!」
「そうなの?」
「うん。気に入った人じゃないと、あんなことしないよ」
(いや、ワシはこれ以上、王族と関わりを増やしたくないんじゃが……)
ルシアンはそんなカイトの心境など知らず、満面の笑みで言った。
「次に来る時は、魔力発生装置が動いてるところを見せてね! 約束だよ!」
「う、うん……」
本日もお読みいただき、ありがとうございました!
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それと、誤字報告もありがとうございます!
「まだこんなに潜んでいたのか……!」と、誤字との終わりなき戦いを実感しております(笑)。
おかげさまで大変助かっています。いつも本当にありがとうございます!
次回作は誤字との戦いでも…。無理っぽそうですね。(m_ _)m




