第73話 過剰装飾の謁見!
100万PV突破放出第三弾です。
ルシアン王子との約束の刻限が迫る頃。
王都の中心にそびえ立つ王宮の正門前に、フェルメール家の馬車が到着した。
アルベルトは緊張した面持ちで馬車を降りると、立哨する衛兵に向かって一枚の羊皮紙を提示した。
「フェルメール男爵家のアルベルトだ。ルシアン殿下より呼び出しを受けて参った。招待を受けているのは嫡男のカイトだ。これがその宮中通行許可証である」
「はっ。確認いたします……こ、これは!」
衛兵は許可証に押印された紋章とサインを見て、露骨に顔色を変えた。
「国王陛下の直筆のサイン……!ははっ! ただいま、至急案内の者を手配いたします!カイト様、こちらへ。男爵様は王城の控室でお待ちください」
国王直々の許可証という権力を前に、衛兵は慌てて王宮の奥へと走っていく。
ほどなくして案内役のメイドが到着し、アルベルトとカイトは王宮の長い廊下を歩き始めた。
しかし、その道中はカイトにとって、まさに生き地獄だった。
ファサッ……フワッ……ファサッ……。
一歩歩くごとに、三倍に増量された純白のフリルが、これ見よがしにバサバサと揺れる。
すれ違う貴族たちは例外なく足を止め、その「歩くフリル装飾」を思わず二度見した。
(……あっ、あの服は一体……?)
(スゴイな、いや、あれが最先端の流行なのか……?)
ヒソヒソと囁き合う声と、突き刺さるような視線。
(見んな! ワシだって好きでこんな服着とるわけじゃないんじゃーっ!)
カイトは内心で血の涙を流しながら、必死に無表情を取り繕って廊下を進んだ。一方のアルベルトは「不敬に当たらない立派な正装に仕上がった」と謎の自信に満ちており、堂々と前を向いて歩いている。
やがて廊下の一角にある控室の前で立ち止まったアルベルトは、蹲るようにしてカイトの目線に合わせると、必死の形相で肩を掴んだ。
「……カイト、いいか。ルシアン殿下は気さくな方だが、それを決して対等などと思ってはならん。王族に対しては、言葉遣い一つ、所作一つに細心の注意を払うんだぞ!」
「はいはい、わかってるよパパ」
カイトが呆れたように答えるのも聞かず、アルベルトは震える手でカイトのフリルを直していく。
「それから、殿下の前で決して……絶対に! 泥のシミのことや、王宮への不満など口にするなよ! 殿下に会えるのは名誉なことなんだからな!」
(……親父、その執念が逆にストレスなんじゃが。……まぁいいや、これで親父の監視から離れられるわい!)
カイトは内心でフッと息を抜く。
アルベルトは何度も何度も衣服の乱れを確認し、埃を払う。もはや強迫観念に近いその手つきに、カイトは心底「早く解放してくれ」と祈るような気持ちでそれを受け入れる。
「……よし、完璧だ。……カイト、行ってこい。胸を張って、フェルメール家の嫡男として!」
「はいはい」
アルベルトの熱すぎる視線に見送られ、カイトはメイドに案内されながら重厚な扉の方へと歩き出した。
アルベルトは、息子が扉の向こうへ消えるまで、その場を動くことができなかった。
やがて、カイトは王族の私室がある特別区画の前に到着した。
そこには、扉の両脇を守るように、二人の近衛騎士――アランとシャルロットが立っていた。
「おや? フェルメールのカイトく……っ!?」
アランはカイトの姿を視界に捉えた瞬間、目を限界まで見開き、慌てて口元を両手で覆った。
「ぷっ……くくっ……ひぃっ……!」
「ちょっと、アラン。失礼ですよ! 堪えなさい」
肩を震わせて吹き出しそうになるアランを、隣に立つシャルロットが冷ややかな声でたしなめる。
しかし、シャルロットもカイトの顔から下を直視しないように、必死に視線を斜め上へと逸らしていた。
(シャルロットさんや、アンタも目線がおかしいからな! )
案内役のメイドはここで一礼して下がり、代わって近衛の二人がルシアン王子の部屋への取次を行う。
「ルシアン殿下。フェルメール男爵家嫡男、カイト様がお見えになりました」
「入っていいよ!」
中から、弾むような高い声が響く。
カチャリと扉が開き、重々しい音を立てて中へと招き入れられる。
(ええい、もうどうにでもなれ!)
カイトはやけくそ気味に、その重たいフリルの塊を引きずりながら、足を踏み入れた。
部屋の中央には、金糸の刺繍が施された美しい服に身を包んだルシアン王子が、青い目を輝かせて待ち構えていた。
そして、カイトの姿を見るなり、パッと顔を綻ばせた。
「待ってたよ、カイト!来てくれたんだね!……わあ、その服、すごいね! すっごく立派!」
「さぁ、早くこっちにきて座ってよ!」
王子の純粋無垢な(そしてある意味カイトにとって最も残酷な)称賛の言葉が、王宮の私室に高らかに響き渡った。
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