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第72話 泥汚れの代償!

おかげさまで本作も100万PV突破しました。放出第二弾です。

「カイトォォォォッ!!」


黒竜川の河川敷に、アルベルトの悲鳴にも似た絶叫が響き渡った。


ルシアン王子との面会を数時間後に控えた正装。その胸元についた茶色い泥水。事態の重大さを一切気にしていない様子の息子を引っ掴むと、アルベルトは有無を言わさず馬車へとカイトを押し込んだ。


「ガラム! 全速力だ! いますぐ別邸へ戻れぇッ!」


バッカスたちが呆然と見送る中、護衛に囲まれた馬車は急転回し、王都へ向けてすっ飛んでいった。


***


王都までの約十キロ、およそ一時間の道のり。


激しく揺れる馬車の車内で、アルベルトは顔面を蒼白にしながら、自身のハンカチでカイトの胸元を必死に擦っていた。


「くっ……! 落ちない! なぜだ、なぜこんなにも泥が繊維の奥まで……ッ!」


焦れば焦るほど、純白のフリルに染み込んだ泥汚れは無情にも薄く広がり、余計に目立つようになっていく。


「パパ、もう諦めようよ。これじゃ王宮には行けないって。ルシアン王子には『風邪をひきました』って手紙を出しておけば――」


「馬鹿なことを言うな! 相手は王族だぞ!? 当日のドタキャンなど、不敬罪でフェルメール家のお取り潰し、最悪は物理的に首が飛ぶわ!」


カイトの逃亡計画を怒鳴り散らして一蹴すると、アルベルトはギリギリと痛む胃を押さえて天を仰いだ。


(ああ……こんな時、リーザの『クリーン』の魔法があれば……!)


メイドのリーザのクリーンがあれば、この程度の泥汚れなど一瞬で真っ白になるはずだった。


しかし、その願いは叶わない。リーザは今、明日の祝典に出席するエレナの身支度を手伝うため、フェルメール領に残っている。王都へ来るのは明日の予定で、今日はまだ同行していなかった。


「くそっ、万事休すか……!」


地獄のように長く感じる一時間を経て、馬車は魔改造されたばかりの白亜の豪邸に滑り込むように急停車した。


「セシリア! アンナ!!」


馬車が完全に止まるか止まらないかのうちに扉を開け放ち、アルベルトは泥のついたカイトの手を引いて玄関へと飛び込んだ。


「あらあら、旦那様。そんなに慌ててどうなさいました――って、まあ! さすが泥んこボーイですわね、早速、泥で服を汚して来たんですの?」


出迎えたセシリアが、カイトの胸元を見て目を丸くする。

その後ろから現れたアンナも、即座に汚れの具合を値踏みするように目を細めた。


「セシリア、アンナ、頼む! 王都に知り合いの魔法使いはいないか!? 誰でもいい、至急この泥を『クリーン』の魔法で落とせる者はいないだろうか!?」


アルベルトはわらにもすがる思いで、目の前の二人に問い詰めた。


「そうですわね、ハルバード伯爵もベルノー子爵も明後日の祝典に間に合わせるために明日の王都入りと聞いていますわね」


「クリーンですか?貴族の家を片っ端から回ればそのクリーンの魔石を持っている魔導師がいるかもしれませんが……そうですねノルド辺境伯夫人にお願いして見ましょうか?」


ところが、それを聞いたアルベルトは勢いよく首を振った。


「馬鹿を言うな! 辺境伯夫人にそんなこと頼めるはずないだろう!」


「ふーむ、困りましたわね……」


「あと一時間しかないんだ!他に誰か居ないか?」


「では、汚れた部分にこの白い布でフリルを足して隠してしまうのはどうでしょうか?泥パックのお礼に頂いたレースの端切れがありますので」


「そんなこと出来るのか?」


「はい、お任せください。さあカイト様、シャツを脱いでください」


「ええっ……」


「カイト、早く脱ぐんだ!早く!」


カイトが仕方なくシャツを脱ぐや否や、アンナの超絶技巧の裁縫スキルが火を噴いた。


アンナの指先で針が残像を残すほどの速さで舞う。その横ではセシリアが寸分の狂いもなく、白いレースの端切れを次々と手渡していた。


「こちらですわ」「ありがとうございます」


二人の息はぴたりと合い、まるで長年連れ添った職人同士のようだ。

アルベルトは両手を組み、「頼む……間に合ってくれ……」と祈るような表情で見守る。


一方のカイトだけは顔を青くしていた。

(や、やめてくれぇぇ! それ以上フリル増やさないでくれぇぇ!)


しかし、その悲痛な叫びも虚しく、アンナの針は一切止まることなく、純白のフリルを次々と縫い付けていった。


数分後。


「これでいかがですか?」


「おおっ!」

「……………」


アンナが掲げたそのシャツを見て、アルベルトは歓喜の声を上げ、カイトは絶望に目を剥いた。


そこにあったのは、泥のシミを完全に覆い隠すため、純白のフリルが三倍近く縫い足された、もはや歩くウェディングケーキのようなシャツだった。


「……素晴らしい。これなら不敬にも当たらない! よくやってくれた、アンナ!」


「ふふっ。さらに高貴さが増しましたわね、カイト様!」


(……いやじゃー、重いわ!なんじゃこの過剰装飾はっ!)


カイトのサボり計画は見事に粉砕され、彼はこの「三倍フリル」の姿のまま、午後のルシアン王子との面会へ放り込まれることになったのだった。


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「続きの工事が気になる!」「因果応報は誰にでも降りかかる」と思っていただけましたら、

ページ下部より評価とブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!


それと、誤字報告もありがとうございます!

「こんなにあったのか……」と反省しきりですが、おかげさまで大変助かっております。

いつも本当にありがとうございます!

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