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第71話 轟音と怒号と絶句の河川敷

100万PV突破記念で大放出します。(5話投稿予定)

意気揚々と重い大歯車を六人がかりで担ぎ上げ、水車小屋へ向かった彼らを待ち受けていたのは――予想だにしない光景だった。


ゴオォォォッ!!


「な、なんだ……!?」


先頭を歩いていたエドが、小屋に近づくにつれて顔を引きつらせる。


黒竜川から引き込んだ分岐水路から、轟音が響き渡っていた。


四日間降り続いた雨は、職人たちの作業を阻んだだけではなかった。黒竜川の上流から大量の雨水を集め、本流をかつてないほど増水させていたのである。


「おいおい……嘘だろ?」


バッカスが歩みを止め、呆然と呟く。

増水した激流は、せき止めていた仮設水門の上を容赦なく乗り越え、濁流となって水路へとなだれ込んでいた。


そして、その圧倒的な水量をモロに受けている巨大水車は――


ザバァァァァッ!!

ゴウン! ゴウン! ゴウン!ゴウン!


「ひぃっ!?」

エドが悲鳴を上げて後ずさる。


抵抗となる増速ギアをすべて外され、完全に「空回り」状態となった水車は、猛烈な水しぶきを周囲に撒き散らしながら、かつてないほどのスピードで回転していた。


水車小屋ごと揺らすほどのすさまじい遠心力と振動に、丸太の柱がギシギシと悲鳴を上げている。


「……親方。あんなコマみたいに回ってる軸に、どうやってこのギアを繋ぐんだ?」


大工のプラタマが、引きつった笑いを浮かべながらバッカスを見た。


「知るかよ! ……チッ、川の野郎、俺たちが寝てないのをいいことに好き勝手暴れやがって!」

バッカスは忌々しそうに頭を掻きむしった。


「エド! ダン! 水門側に回って、ありったけの土嚢と板を突っ込め! まずはあの水流を殺して水車を止めねぇと、組み込むどころか俺たちがミンチにされちまうぞ!!」


せっかく新しいギアが完成したというのに、黒竜川は一筋縄ではいかない。


そんな轟音と怒号が飛び交う河川敷に、護衛に囲まれた一台の真新しい馬車が到着した。


馬車の扉が開き、降り立ったのは、純白の過剰なフリルに包まれたカイトだった。


「カイト、絶対に泥に近づくんじゃないぞ」

背後からはアルベルトが胃を押さえながら念を押していた。


「おいエド、土嚢はまだか……って、あぁ!?」


振り返ったバッカスは、カイトの姿を見て一瞬フリーズし、水車の轟音も忘れて吹き出した。


「ぶっ……! げほっ、なんだそのヒラヒラは! 怒り狂った川の神様に、生贄の妖精でも捧げに来たのか!?」


「うるさいなぁ。……で、これはどうなってるの?」


カイトがジト目で尋ねると、バッカスは笑いを収め、忌々しそうに水車を指差した。


「四日前だったか、仮設した三十個目のランタンまで全部点いたんだ。お前の理論は正しかったぜ。だが、川のバカ力に木の歯車が耐えきれなくて粉砕しちまった。で、そこから徹夜で新しいギアを作ったが、見ての通り川が急激に増水して水車が暴走してやがる。これじゃあ組み込むどころか近づけねぇ」


カイトは狂ったように回る水車を見つめた。


軍の視察やオデールで何度も見てきた増水時の黒竜川。その暴れ方を知っているからこそ、この川を地面に縛り付ける発想に違和感を覚えた。


「お水が増えて水車にいっぱい当たるようになるなら、なんで水車を地面に『固定』しちゃったの?」


「は? 固定しねぇと流されちまうだろうが!」


カイトは暴れる水車をじっと眺めた。

「……でも、こわれそうなのは水が増えたからだよね?」


「そうだ!」


「じゃあ、お水が増えたら水車も一緒に上に浮かせばいいんじゃない?」


「は……?」


「流されないようにワイヤーで繋いで、水車ごとお船みたいに浮かべればいいじゃない。そうすれば、お水が増えても水車が浮き上がるから、こわれないよね」


カイトのあっけらかんとした提案に、大工のプラタマがいち早く反応する。


「ま、待て! 浮かせるのはいいが、水車が揺れたら発魔機にどうやって動力を伝えるんだ。あんだけ複雑なギアがついてるんだぞ!?」


「発魔機もギアボックスも同じ船に乗せちゃえばいいんだよ。船から陸までは、鉄線を少したるませれば、ゆれても切れないよ」


動力を物理的なギアで陸に伝えるのではなく、発魔まで船の上で終わらせて柔軟な線で送る。


固定式という前提を捨てた、その発想にプラタマは絶句した。


「誰だ、この小僧は!」


プラタマが叫んだ瞬間、隣で見ていたバッカスが、ニヤリと笑った。


「プラタマ、驚きすぎだ。この坊主をお前もフェルメールの現場で見てるだろうよ。黄色いヘルメットを被った子供現場監督をよ」


その言葉が、プラタマの脳内で雷鳴のように響いた。


フェルメールの宿場町の現場で的確な指示を飛ばしていたあの黄色いヘルメットの監督と、目の前のフリフリ服の少年が、寸分違わず重なり合う。


「……あ、あんた……あの時の……!」


プラタマが驚愕に目を見開いた、まさにその時だった。


水路を流れてきた枝が、ガンッという音を立てて水車とぶつかり、跳ね飛ばされてカイトの目の前の泥濘みに落ちた。その拍子に、泥水が飛沫となってカイトの方に飛んできた。


ピシャッ。


カイトの純白のシャツの胸元に重なるフリルの束に、茶色い泥のシミが、はっきりと残った。


「あ……」

カイトはその泥のシミを見つめる。


(……よしっ!)


内心で小さくガッツポーズをしたカイトは、振り返ってアルベルトを見上げた。


「パパ。服が汚れちゃった……これじゃ王宮に行けないよね? 面会、キャンセルでいいよね?」


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「続きの工事が気になる!」「カイト、キターー!」と思っていただけましたら、

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