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第70話 近くにある答え

「おい、大歯車メインギアも粉砕したぞ!他の歯車もボロボロだ!」


エドが顔面蒼白で駆け寄る中、小屋の中ではプラタマがへし折れたオーク材の歯車を前に頭を抱えていた。


「なあ、プラタマよぉ。これ鉄製にするしかないんじゃねぇか?」


「無理だ! これだけの巨大なギアを総鉄製にしたら、自重だけで軸がへし折れる! それに回転させた時の遠心力で、小屋から歯車が飛び出すぜ!」


プラタマの悲鳴に、バッカスが食ってかかる。


「じゃあどうすんだよ! 動かすたびにギアが砕け散るなんて、そんな機械が認められるか! このままじゃ、壊れるたびに森中の木を伐り倒して交換する羽目になるぞ!」


「そんなこと言ってねぇ! だがな、鉄は重すぎるんだよ。……かといって木じゃ、黒竜川のバカ力には耐えきれない」


小屋の中に、沈黙が流れる。


二人の口からこぼれたのは「強靭さと軽量さを兼ね備えた設計」という壁だった。


「……親方」


作業台の脇で、歯車を検分していた鍛冶職人のひとりが、恐る恐る口を開いた。


「もし、どうしても鉄の歯が必要なら……全部を鉄にするんじゃなく、歯だけを鉄にして、芯は木材のままでいけないか?」


「……あ?」


「全部を削り出すんじゃなく。木製の円盤に、鉄の歯を打ち込むための『溝』と『穴』をあらかじめ掘っておくんだよ。そうすれば、重さは最小限で済むし、歯が欠けても、その鉄の歯だけを打ち替えればいい」


プラタマとバッカスが顔を見合わせる。


「お前、頭いいな! まさかそんな閃きがあるとはな!」


バッカスが鍛冶職人の背中を豪快に叩く。その言葉に、職人はネコ車を指差して笑った。


「いや、あのネコ車の車輪さ。あの車輪の周りに嵌めてある『鉄の輪っか』を見て思い立ったんだよ」


小屋の入り口では、ちょうど人夫たちが破損したギアをネコ車に載せて運んでいる。カイトが設計したそのネコ車は、鉄の輪で補強された車輪のおかげで、激しい摩耗にも耐えながら黙々と役割を果たしている。


「木だけじゃ、この負荷じゃすぐに磨り減ってしまう。だったら、木の円盤に鉄の歯を打ち込んで外周を補強すれば、重量を抑えたまま強度が稼げる……そう思ったんだよ」


「なるほど……!」

プラタマも膝を打つ。


「言われてみりゃそうだな。俺たちは毎日見てたはずなのに、一番近くにある答えに気づかねぇとはな……」


バッカスが不敵に笑うと、鍛冶職人はさらに言葉を継いだ。


「ああ。全部を鉄にするなんて、あのネコ車の車輪を見てたら馬鹿らしくなってきてさ。必要なところだけ丈夫にすればいいんだって教えてもらったようなもんだ!」


「よし。じゃあその案でやろうじゃねぇか。……おいエド、材料は足りるか?」


「オーク材と、歯車の鉄材ですね。今の在庫だとギリギリですが、王都中からかき集めればなんとかなります!」


「なら、すぐ手配しろ。一刻の猶予もねぇぞ!」


***


翌日から、雨が降り続く中、河川敷の臨時小屋には昼夜を問わず槌音と怒号が響き渡った。


雨は二日、三日と止むことなく降り続けたが、職人たちは誰一人手を止めなかった。


「おい、木製の円盤の方に、鉄の歯を差し込むための『溝』を掘るんだ! 狂いは一寸すんたりとも許さないぞ!」


プラタマの怒号が響く中、大工たちはオーク材を幾重にも重ね合わせた円盤に、緻密な溝を刻んでいく。


その隣の資材置き場に設置した仮設鍛冶場では、鍛冶職人たちが真っ赤に熱した鉄を叩き、一枚一枚、寸分違わぬ大きさの『鉄の歯』を打ち出していた。


木と鉄を組み合わせるという作業だ。木が膨らめば鉄が嵌まらず、鉄が冷えれば木が焦げる。失敗のたびに怒号が飛び、その度にまたイチから削り直す。


「……できた」


四日目の夜明け前。プラタマが震える手で、完成した大歯車を指差した。


やがて東の空が白み始める頃、降り続いていた雨もようやく上がり、雲の切れ間から朝日が差し込んだ。


大歯車は、オーク材を幾重にも重ねた芯材を、鉄の歯がぐるりと取り囲む、無骨な塊として鎮座していた。


二段目、三段目の中歯車には、木製の芯材の外周に鉄のリムを噛ませ、最も負荷のかかる小歯車に至っては、鍛冶屋が精魂込めて鍛え上げた全鉄製だ。


「木に鉄を食い合わせるなんて、とんでもない無理難題だと思ったが……形になれば、こいつなら耐えられる気がしてきたぜ!」


バッカスが、出来上がったばかりの歯車に手をかける。


それは、彼らが毎日使ってきたネコ車の知恵を、そのまま巨大な機械へと生かした歯車だった。


「おい、いつまで寝ぼけてるんだ! もう朝だぞ。さっさと水車小屋に組み込め!」


バッカスの号令に職人たちは木くずと煤にまみれた顔で笑い、歯車の組み立てへと動き出した。

本日もお読みいただき、ありがとうございました!

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