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第68話 発魔機の心臓部と工事開始

「師匠、こちらの鉄の芯棒シャフトですが……カイト殿の案通りに仕上げてあります。ダミー装飾込みですが……本当にこれに二級魔石を固定して、水車で回すのですよね?」


汗を拭いながら、ゼノスは削り出したばかりの太い鉄の芯棒を作業台へ置いた。発魔機の心臓部となる回転軸だが、その表面には魔石へ刻むものとよく似た魔法刻印がびっしりと刻まれている。もっとも、それらは魔力と何の関係もない、偽装用の刻印に過ぎなかった。


「おう、上等だ。さすが俺の弟子だけあって、いい腕してやがる、お前、細工師にもなれるんじゃねえか?」

「いやですよ、キツそうですし…」


作業台の反対側で、バッカスは話を聞きながらも、手元の作業に没頭していた。

彼の手にあるのは、村でメリダとウドが『跳躍ホップ』の刻印を彫り上げた二級魔石だ。


バッカスは今、その魔石に、この工房で造った『ミスリル導線』を、隙間なく、かつ均等な力加減でグルグルと巻きつけているところだった。


「……何度見ても胃が痛くなります。魔法具の歴史において、魔石とは術者の魔力を受け取るための回路です。それにミスリルを巻きつけて固定するだけで魔力が生まれるんですから……王立魔導院や魔法学校の連中が見たら卒倒しますよ」


ゼノスが、疲労の色を浮かべてため息をついた。


「へっ、違いねぇ。まだ信じきれてねぇようだから騒ぎも少ねぇけどな。しかし、水車の力で無理やり干渉させて『魔力を搾り取る』ってんだから、あいつの頭ン中はどうなってんだろうな」


バッカスは皮肉げに口角を上げながらも、その手は一切ブレることなく、コイル状にミスリル導線を巻き終える。そして、それを鉄の芯棒の周囲に配置する「外枠ステーター」の溝へはめ込んだ。


「あの小さな木組みの試作機でさえ、クランクを回すガンタとサジの腕には、魔力が反発する『抵抗』がかかっていました。……それを、この巨大な鉄芯と、二級魔石でやるとなれば…」


ゼノスは、ごくりと喉を鳴らした。


「師匠、正直に言って……この二級魔石を二十四個、完全に同調させて回転させた時、一体どれほどの魔力がこのミスリル導線を駆け巡るのか……想像できますか?」


「歴史がひっくり返るような出力になるだろうよ。……ほら、休んでる暇はないぞ。こいつをあと二十三個も配置しなきゃならねぇんだ。少しでも配置がズレて暴走でもすりゃあ、オデールの時のミニ水車みたいに魔石が弾け飛ぶだけじゃ済まねぇぞ!」


***


完成した『発魔機』が黒竜川の河川敷へと運び込まれる頃、黒竜川の河川敷では、すでに職人たちの総力を結じた水車の設営工事が始まっていた。


王都から南へ延びる街道を進むと、最初に黒竜川と最も近接するノートン領への分岐点付近がある。この地点は内務局が長年放置していた資材置き場があり、そこに王都から集められた職人たちが集結していた。


現場に集められたのは、石工組合の幹部にさせられたダンが率いる石工が二十人、大工のプラタマがまとめる大工が二十人、さらに鍛冶職人が十人。資材の荷運びや土掘りを担う人夫を含めれば、総勢百三十人を超える大所帯である。


そして、この国家プロジェクトの現場責任者として泥まみれで走り回っているのは、内務局の若手役人・エドであった。


「そら、どんどん運べ! 岩盤の基礎が遅れてるぞ!」

「エドさん! 追加の石材はまだですか!」


「ひぃぃ、今、手配してますから少し待ってください!」


エドは連日泥だらけになって現場を走り回り、いつしか新品だった役人服は継ぎだらけになっていた。


そんな現場で、まず彼らが着手したのは、川の本流から水を引き込むための『分岐水路』の建設だった。


いきなり川を堰き止めるのではなく、本流との入り口部分に「分厚い土の壁」をダムのように残したまま、陸地側へ向かって巨大な溝を掘っていく。


さらに、その入り口付近には、ただ水を引き込むだけではなく「限界を探る」ための『仮設水門』が施されていた。


「おいダン! 入り口の『せき』の枠はできたか!」


「おう! 石で溝を組んで、そこに分厚い板を落とし込んであるぜ! 板を一枚ずつ引き抜いていけば、水量を細かく調整できる仕様だ!」


ある日は小雨が降り続き、掘り返した土はぬかるみとなって職人たちの足を取った。それでも誰一人手を止めることなく、ネコ車を押し続ける。


「ネコ車の列、もっと間隔空けろ! 滑るぞ!」

「こっちに石材持ってきてくれ!」


水のない空堀にも雨水が溜まり始めたが、職人たちは排水しながら作業を続けた。同時に、巨大な水車の軸や建物の柱を支えるための基礎(土台)も、この段階で築かれていった。


一方、現場の元資材置き場では、大工の手によって作業場に生まれ変えられ、そこでは大工と鍛冶職人たちが共同で、水車の動力を発魔機へと伝える『増速ギア』の組み立てに取り掛かっていた。


「おい、大歯車メインギアができたぞ!」

大工のプラタマの声と共に、直径三メルにも及ぶオーク材を貼り合わせて作った巨大な歯車が出来上がった。


水車と同軸で回る最初の大歯車をはじめ、二段目、三段目と動力を伝える歯車群は、分厚い無垢の木材から削り出された「総木製」である。


職人たちは最後に、それらの歯車群をすっぽりと覆う木製のバカでかい『ギアボックス』を組み上げていった。


こうして水路工事や基礎工事、水車の組み立ては着々と進み、発魔機が黒竜川へ運び込まれる頃には、二週間余りが過ぎていた。


完成した水路の巨大な基礎の上に、プラタマが組み上げた大型水車と、『発魔機』が並べられた。


「ここに水車の中心軸が来る。発魔機との連結はこの位置だ」


バッカスが図面を広げ、真剣な眼差しで中心点を指差す。

その図面を覗き込んだプラタマが大きく頷いた。


「よし分かった。おーい、ダン! この軸を中心に、ここからここまでを岩盤でガチガチに固めてくれ。軸が暴れないように頼むぞ」


プラタマの指示を受け、石工のダンがすぐさま基礎の最終調整に入る。

ダンは懐から水準器を取り出し、基礎石の上にそっと置いた。


「……まだ右がわずかに高ぇ。そこ、ノミを入れろ」


石工たちは何度も水準器で水平を確認しながら、一枚一枚の石を据え直していく。やがてダンは満足そうに頷いた。


「よし。これなら軸は暴れねぇ」


そして、巨大な水車と発魔機の設置が完了すると、最後はプラタマたち大工の出番である。


「よし、野郎ども! 貴重な機械を雨風や盗人から守るぞ。今日中に小屋を建てちまえ!」


大工たちが一斉に動き出し、水車と発魔機をすっぽりと覆い隠すように『水車小屋』が組み上げられていった。


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「続きの工事が気になる!」「カイト、まだ王都に来れないの?」と思っていただけましたら、

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