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第63話 実演と熱が宿った職人たち

「師匠、なんで試作機をあんなトコに持って行ったんでしょうね」


ぼやくゼノスを無視し、バッカスは重い木箱をドスンと下ろした。


「うるせぇ、俺に聞くんじゃねぇよ。俺だってあんな汚ったねぇとこ連れて行かれるなんて夢にも思ってなかったんだよ!」


「ああ、すみません、すみません!ごめんなさい!」

その剣幕に、横で運搬を手伝っていたエドが肩をすくめた。


プラタマとの打ち合わせから二日後。王都の職人たちへの実演のため、試作の『ガンタ式・魔力発生装置』は再び王都の地を踏んでいた。


場所は内務局の地下、資源管理倉庫である。


魔石やミスリルといった希少資源が眠るこの場所へ、厳重なボディチェックを経て、大工や鍛冶屋、石工の職人たちが続々と足を踏み入れた。


エドは会場を見回して顔を引きつらせた。


「な、なんでこんな人たちが来てるんですか……」

「あ?」


「ほら、あそこにいるの、大工組合の棟梁ですよ。こっちは石工組合の幹部で……。この前、僕が声を掛けた時は誰も相手にしてくれなかったのに……」


バッカスは興味なさそうに鼻を鳴らした。


「プラタマが呼んだからだろ」

バッカスがそう言った直後だった。


「俺だって断るつもりだったんだがな」


聞き覚えのある声に振り向くと、石工のダンがニカッと笑っていた。


「よお、バッカスの旦那」


「おい、ダンじゃねえか。なんでここにいるんだ?」


「おかげさまで最近は王都の方の仕事も増えててな。職人区に出張所を出したんだよ。そしたらプラタマの旦那に声かけられてさ」


「お前だったのかよ、治水が得意な石工ってのはよぉ。それに随分と手広くやってんな」


「いやいや、それを言うならバッカスだって同じだろうよ。なんで内務局にツラ下げてんだ?」


「俺は坊主の発明を守ろうとしてたら、こうなったんだよ」

バッカスが肩をすくめると、周囲の職人たちから催促の声が飛んだ。


「おーい、バッカスの旦那。その実演っての、早く始めないのかよ」

「おう、悪かった、じゃあ始めるぜ」


バッカスは懐から、円筒状の小さな金属器――『魔導灯』を取り出した。


「王都に住んでる奴なら一度は見てるだろう。魔力持ちが使う手持ち式の明かりだ。この持ち手に魔力を流すと……こうやって光る」


バッカスが軽く魔力を流すと、魔道灯が光を放った。職人たちが感心したように声を上げる。


「で、この魔道灯だが、これを『魔力のない奴ら』でも使えるようにするのが、この装置なんだよ」


バッカスがそう言って装置を指差すと、倉庫内にいた職人たちの間で、ざわめきが波紋のように広がった。


「おいおい、今なんて言った?」

「魔力のない奴らが、魔導灯を……? 冗談だろ…」


困惑と疑念が入り混じる中、バッカスは装置から伸びる導線を魔導灯の持ち手にぐるりと巻きつけ、木箱の上に置いた。


騒めきが聞こえる倉庫の空気の中、バッカスはニヤリと口角を上げる。


「この中で、こいつを光らせられる奴はいるか?」

職人たちは顔を見合わせた。


「おいおい、この中に魔力持ちなんていやしねぇよ。いたら今頃、貴族様のお抱え魔導師様だ」


「じゃあ、こいつを光らせたい奴は、そのクランクを回してみろ。かなり重いから、二人掛かりでもいいぜ?」


「じゃあ、俺がやる」

真っ先に手を挙げたのは大工の親方、プラタマだった。続いて石工のダンが歩み出る。


「これは『坊っちゃま』の発明なんだろ? なら、俺も手伝うよ」


「いいぜ。ちなみに発明者は坊主なんだが、この原理を発見したのはガンタだぜ」


「嘘だろ?」


「嘘じゃねぇよ。こいつには『ガンタ式・魔力発生装置』って立派な名前が付いてるんだ。じゃあ二人とも、そのクランクを思いっきり回してくれ!」


プラタマとダンが左右からクランクを握り力を込める。


ギギギギギ……ギュル、ギュル、ギィィィィン!


回転が加速する音と共に、暗い地下倉庫に眩いばかりの光が弾けた。


ピカァァ!!


「……お、おいおい、本当につきやがったぞ!?」

職人たちのどよめきが、地下倉庫に響き渡った。


その後は、「俺にもやらせろ」「次は俺だ!」と職人たちが次々にクランクに殺到し、魔導灯を光らせては顔を見合わせてた。


魔法を使わずに光を操った興奮は、彼らの心に強烈な火をつけた。


全員が満足げにクランクから手を離した頃、バッカスはわざとらしく咳払いをし、装置の隣に大きな黒竜川の図面を広げた。


「おい、満足したか? だが、いいか。俺たちがこれからやるのは、こんな手回しのお遊びじゃねぇ」


バッカスは図面の中央、黒竜川の部分を指の腹で強く叩いた。


「この魔導灯を何千個分も光らせるだけのエネルギーを、俺はあそこから引き抜くつもりだ。そのために、あんたたちの『腕』と『知恵』が全部必要になる。……命がけで、俺たちと一緒に歴史をねじ曲げる準備はできてるか?」


先ほどまでお祭り騒ぎだった倉庫に、静寂が戻る。

だが、その沈黙には、かつてないほどの熱が宿っていた。


プラタマが真っ赤になった手でクランクを握り直し、ニヤリと笑う。


「……バッカスの旦那。そんなもん、聞くまでもねぇよ。黒竜川の激流だろうが何だろうが、俺たちの腕でねじ伏せてデカい『灯り』を光らせてやろうぜ!」


「「「おう!」」」


地下倉庫を照らした灯りは、職人たちの胸にも火を灯していた。

本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「ダン、お前もか?!」「新人君、頑張ってね!」と思っていただけましたら、

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