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第62話 水車大工探しと黒竜川の壁

木枠の板がささくれた馬車に乗り、エドとバッカスは王都内の大工の工房をいくつも巡っていた。


「水車を作って欲しいんです」

「大きさは? それと設置場所はどこでしょう?」


「大型の水車で、ここから十キロくらい離れた黒竜川の川沿いです」

「……は? 黒竜川? ちょっと、難しいですね。他を当たってください」


エドが懇意にしている腕の立つ大工にあっさり断られたのを皮切りに、二人は王都中の工房を回る羽目になった。


黒竜川の一言を聞いた途端、「悪いが無理です」「うちは遠慮しときます」

「黒竜川じゃないとダメなのか?」と言う話になり、大工たちは図面を最後まで見ることすらなく断ってくる。


昼前に出発したはずが、気付けば日も傾き始めていた。

工房を出るたびに馬車へ乗り込み、ガタガタと揺られて次の工房へ向かう。その繰り返しである。


「そろそろゼノスを迎えに行かねえとまずいな。なあエド、王都の大工はみんな黒竜川を聞いただけで逃げるのか?」


「僕だって知りません!」


さすがのエドも疲れた顔をしていた。

だが、ここで諦めるわけにはいかない。


カイトが作った発魔機を動かすには、どうしても黒竜川の激流に耐える大型水車が必要なのだ。そうして何軒目かも分からなくなった頃、二人は王都でも指折りの大手建築工房へと辿り着いた。


奥から顔を出した代表者の男を見て、バッカスは「おっ」と声を上げた。


フェルメールの宿場町で店舗を建設していた大工の親方であり、モルタルを短時間で乾燥させるメリダの魔法を見て、頭を下げて協力を頼んできた棟梁だったからだ。


「あれ、あんた……バッカスさん?」


「おお、あんた、宿場町でルキウス商会の店舗作ってた親方じゃねえか」


「ああ、俺はプラタマっていうんだ。フェルメールの現場は相変わらずデタラメやってるのか? 今日はどうしたんだ、何かあったのか?」


「いや、今日は内務局の仕事なんだよ。おい、エド。説明してやってくれ」


エドが図面を広げ、これまでの工房で話したのと同じように、黒竜川に大型の固定水車を設置したいという計画を説明した。


すると、プラタマの顔色はやはり険しいものになった。


「黒竜川に水車ねぇ……。あの暴れ川のど真ん中に置くつもりなら、冗談じゃねえぞ。少しでも雨が降れば牙を剥く川だ。苦労して組んだ木材を川に投げ捨てるのと同じだ」


「……やっぱり駄目ですか」


エドが肩を落としかけた時、プラタマは腕を組みながら顎を撫でた。


「だが、どうしてもって言うなら、やり方がないわけじゃない」

「おっ、マジか? どうすんだ?」


バッカスが身を乗り出すと、プラタマは手元の紙に簡単な図を描き始めた。


「前に農家から依頼されて、小さな水路用の水車を作ったことがあるんだが、川の本流の横っ腹に穴を開けて『分岐水路』を掘るんだ。そうやって本流から少しだけ水を引き込んで、安全で一定の速度の流れを作ってやれば、水車は回せる」


「いや、それじゃダメなんだ」


プラタマの言葉を遮るように、バッカスがすかさず口を挟んだ。


「こっちも粉を挽くような普通の水車を作ってもらおうなんて思ってねぇ。安全な速度じゃ困るんだよ」


するとプラタマはニヤリと笑った。

「だから最初は細く作るんだ」


「……あ?」


「いきなり本流と同じ流れをぶつけたら、どんな水車だって持ちはしない。だから、まずは細い水路で様子を見る。耐えられると分かったら少し広げる。さらに耐えたらもっと広げる」


「おう、それならいいぜ。最後には黒竜川の流れになるんだろ?」


「ああ、だが問題がある。その水路を作る『石工』だ」


プラタマは図面を指で叩いた。


「あの黒竜川の激流から水路を守るには、土手も底も石で固めなきゃならねえ。俺が最近、懇意にしてる石工の親方で、こういう治水工事に詳しい腕利きがいるんだが……そいつを呼ぶ予算はあるのか?」


「予算なら心配ねえぞ。今回は国の金がガッツリ出ることになってる」


バッカスが即答すると、プラタマは「ほう」と目を細めた。


「なら呼べるな。ただし言っとくぞ。相手はあの黒竜川だ。最初の一基はまず助からない」


「そんなになんですか?」

エドは思わず声を上げた。


「ああ。どれだけ頑丈に作っても、大雨が来りゃ吹っ飛ぶかもしれん。職人としては悔しいがな」


せっかく作るものが壊れる。職人としては言いたくないであろう言葉だったが、バッカスはニヤリと笑った。


「今回動かしたいのは、とびきりデカい『装置』でな。水車の回転が弱けりゃ、発生する力も弱っちまう。だが成功したら歴史に名前が載るとんでもねぇ仕事なんだ、それにはどうしてもあの黒竜川のバカみてえな激流が必要なんだよ」


バッカスは図面を指でトントンと叩いた。


「だからこそ、最初から上手くいくなんて俺たちも思っちゃいねえ。その案に賛成だ。まずは分岐水路を細めに作って、水車の耐久性と発生する力を見る。ぶっ壊れたらどこがダメだったか調べて、次はもっと頑丈なやつを作る。そいつが成功したら、今度は水路を広げて流れを速くし、水車の回転をさらに上げる」


「こ、壊れる前提で、徐々に水路を広げていくんですか?」

エドは目を丸くした。


「一発で正解なんか分かるか。まずは作るんだ。それが壊れたら直して、また壊れたらどうすりゃ耐えられるか考える。そうやって少しずつ限界を探っていくんだよ。……あの坊主なら、間違いなくそっちの道を行くぜ」


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「続きの工事が気になる!」「バッカスがすっかり染まってしまった!」と

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