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第60話 内務局の放置と不遇の若手職員

一方、王都に残ったバッカスとゼノスは、いまだ軍務局の工房に留まっていた。


バッカスとしては、管轄が移った以上、軍務局の工房をいつまでも借り続ける気はなかった。受け入れ先となる内務局も、そのくらいの手配はすぐに済ませるものと思っていた。


二人はその間、発魔機がすぐに解析されないよう、本物の「心臓部」を厳重に隠し、ダミーの魔石や無意味な装飾を取り付けて偽装工作を施していた。カイトがクララに連れ去られる前に耳打ちして頼んできたカモフラージュである。


この世界でアイディアだけを独占しようなどと考える方が間違っている。真似されるのは当然だ。だからこそ、規格を作り、部品を供給し、保守や教育を握る。インフラの主導権さえ押さえればいい。なのに、である。


発魔機を巡る騒ぎどころか、内務局からは何の音沙汰もなかった。


「……内務局の奴ら、軍務局の場所をいつまでも間借りしてるわけにはいかねぇんだから、早く新しい作業場所を寄越せって、コンラッド経由で伝言してもらったってのによ。三日経っても誰も来やしねぇ! アイツら、マジでやる気あんのか」


業を煮やしたバッカスが内務局の事務所へ直接乗り込むと、オドオドした若手職員が出てきた。


「あ、あの担当にされたんですが……お前が自分で考えろって言って、上司が何も教えてくれないんです……」


と吐露する青年の姿に、バッカスの怒りの矛先はあっさりと削がれてしまった。


「……あぁ? 上が何も教えねぇだと? ……ハッ、相変わらずクソ共は腐ってやがるな。とりあえず、今は軍務局の工房にいるんだがよ。流石に管轄が変わっちまった以上、あそこに長居する訳にもいかねぇんだろ?まずは俺たちが使える拠点を早急に用意してくれねぇか?」


「は、はい! なんとかやってみます!」


今季から配属されたばかりのルーキーであるその青年は、事務所内で先輩職員たちの周りをぐるぐると走り回り、やがて肩を落としてバッカスの元へ戻ってきた。


内務局の上層部が下した指示は「川の事業なんだから川でやれ」。彼が提示してきたのは、黒竜川の河川敷にある古い資材置き場だった。


「この地図のここいら辺に、街道整備用の資材置き場があるらしいです……。壁が石で囲われていて、資材を置いておける場所はここしか無いようなので、今から見に行ってきます!」


「らしい?」

「はい。僕もまだ見たことなくて……」


「おい、お前一人で見にいくつもりなのか?」

「はい。忙しくて誰も動けませんから」


バッカスは窓口から首を伸ばし、中の様子をチラリと覗き込む。


(……忙しい、ねぇ)


書類の山と格闘している者も確かにいる。だが、本当に手を動かしているのは半分ほどだった。残りは優雅に茶を啜り、あるいは雑談に花を咲かせている。


(チッ……新人に押し付けて知らん顔か)


得体の知れない新規案件に関わりたくないという本音が透けて見えた。

バッカスは鼻で笑って、忌々しそうに息を吐き出す。


「……ハッ、どこのお役所も腐り具合は同じってことか。いいぜ、俺たちも一緒に行ってやるよ。案内しな」


「えっ、いいんですか!?」


若手職員のエドが驚いた顔で振り向くと、バッカスは面倒くさそうに顎をしゃくった。


「ああ。表に軍務局から借りた荷馬車を待たせてある。お前も乗れ!ゼノス、いくぞ!」


「はい、師匠!」


三人は馬車を走らせ、王都の南側、黒竜川の水域に近い街道沿いへと向かった。馬車で一時間ほど走った先にあるその場所は、確かに石壁で囲われてはいたが、長いこと使われていないのは一目でわかった。


地面はぬかるみ、所々に錆びた工具や使われなくなった木枠や丸太が放置されている。街道整備の資材を保管していた場所らしく、大きな資材が無造作に積まれていたが、どれもボロボロになっていた。


馬車から降りたバッカスは、周囲を見回して盛大に顔をしかめた。


「うっわ……キッタネー! おい、兄ちゃんよぉ、本当にここでやれってことなのかよ!?」


青年が申し訳なさそうに頭を下げる。


「すみません……何人か上の人に聞いたんですけど、誰も教えてくれなくて……。壁がしっかりしていて、雨風をしのげる場所って、ここしか見つからなかったんです」


バッカスはため息をつきながら、ガラクタが散乱した地面を睨みつけた。


「こりゃ完全に放置されてるじゃねぇか……。お前に言うのも変なんだが、内務局の連中、本気で俺たちに仕事させようって気があんのか? 一応、国の偉い人が承認した案件なんだろ?」


「はい。なので予算はおりてます」

「なのに、こんなとこでやんのか?」

「はい……」


「こりゃダメだ。まずは掃除からやるしかねぇな」

「そうですね……それにしても酷い有様です」


ゼノスも周囲を見回して顔をしかめた。


ぼやきながらも、バッカスとゼノスは手際よくガラクタを外へ運び出し、作業スペースを確保していく。そして、馬車から慎重に発魔機を降ろした。


「おい、ゆっくり降ろせよ!」

「こ、これが発魔機ってやつなんですね! すごいです!」

青年が目を輝かせる。


(……本当にこいつが担当なのか? 世紀の大発明だってのに、中身の構造に全く興味を示さねぇ。もっと利権狙いのギラギラした奴らがたかってくると思ってたのによ……)


バッカスは半分呆れ顔になりながら、手持ち用のクランクを取り外した。


「で、こいつは試作機だから小さいけど、これよりデカい装置を作って、この出っ張った棒の先と水車の軸をくっつけんだよ。……で、実験用の水車はここから近いのか?」


「いえ、水車はありませんよ。なので、大工の人を呼んで作ってもらいます」


「これから作るのか!?」


「はい。今から王都に戻って、水車を作ってくれる大工を探してきます」

「待て、それもお前がやるのか?」


「はい、他の人は誰も忙しくて動けないですから。あ、それと行きの馬車では師匠さんが怖くて言い出せなかったんですが、まだ自己紹介してませんでしたよね。エドと言います! 昨年、試験に合格して内務局に配属されました!」


明るく言うエドに、バッカスは深々とため息を吐いて天を仰いだ。


「……だったら、王都を出る前にそれを言えェ!! まったくの二度手間じゃねえか!!」


バッカスは、面倒事ばかり引き寄せるくせに、こういう段取りだけは恐ろしく良かったカイトが王都にいないことを心底恨んだ。

本日もお読みいただき、ありがとうございました!

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