表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
60/99

第57話 野望を砕く三週間の延期

「まだ来たばかりじゃないか! もっとカイトと『魔力発生装置』のお話ししたい!」


ルシアン王子はカイトの手を握りしめ、あからさまに不満そうな顔で駄々をこね始めた。


魔法の新技術やカイトの持つ知識に夢中になっている王子が、そう簡単に引き下がるはずもなかった。


「殿下……ゴホンッ、ルシアン坊ちゃん」


背後に控えていたヴィクトルが一歩前に出た。


「そんな我が儘を仰るのであれば、今後はカイト殿を王宮……いえ、お屋敷に迎え入れられませんよ?」


「うぐっ……!」


(おいヴィクトルのおっちゃん、それ脅しじゃろ。ワシをダシに王子を操るつもりか? あと王宮って言いかけて言い直せてないぞい)


カイトが内心でジト目を向ける中、ルシアン王子は言葉に詰まった。

王子はしばらく唸っていたが、やがて顔を背けた。


「……分かったよ。なら、『魔力発生装置』が完成したら、絶対見せてよ。約束だからね!」


「いいよ。完成したら一緒に見に行こうね!」

(クックック……これなら堂々と工事現場へ行けるのう)


「承知いたしました。それなら、いつお越しいただいても困らぬよう手配しておきましょう。……ではカイト殿」


ヴィクトルは待ってましたとばかりに、懐から一通の書状を取り出した。


「屋敷にお越しの際には、門の衛兵にこの書状を出すようにしてください。これを見せれば、ルシアン坊ちゃんのお部屋まで案内付きでお通しできます」


ヴィクトルはそう言って書状を差し出した。

カイトが受け取って目を通すと、そこには立派な王家の紋章と共に、こう記されていた。


『宮中通行許可証』


フェルメール男爵家嫡男

カイト・フェルメール殿


王子教育への協力を命じる。

よって、王宮への入宮ならびに宮中通行を許可する。


国王 レオニード・アルテリウス


(おい、なんで国王のサイン入りの『通行許可証』が、そんな都合よく懐から出てくるんじゃ。絶対、前から用意しとったじゃろこれ……!)


カイトは激しいツッコミを喉元まで出しかけたが、自分も王子をダシに使って王都の工事現場に行こうと思っていたので、大っぴらに文句は言えずに黙って受け取った。


大喜びしているルシアン王子の横で、密かにほくそ笑んでいるヴィクトルを見ていると、なんだか負けた気分になるが、それをグッと押し殺す。


(まあ、いいわい。これで大手を振って王都にいけるようになるじゃろ)


カイトは打算に満ちた笑みを浮かべていたが、そうは問屋が卸さなかった。


***


翌日。フェルメール領の領主邸。


「……というわけでママ、ぼく、ルシアン王子に『完成したら見せる』って約束しちゃったんだ。だから完成するまで王都に行って見てこないと!」


カイトは手に入れた許可証を水戸黄門の印籠のように見せると、玄関へ向かおうとした。これで王都の現場を思う存分視察できる――そう確信していた。


「待ちなさい、カイト!そんな服で王宮にあがるつもりですか?」

母のエレナが仁王立ちでカイトの前に立ちふさがった。


「え?これじゃダメ?じゃあ、まえに着た、おひろめの時の服は?」


「もう、小さくて着られないでしょう。カイトは最近、随分と大きくなりましたからね。さぁ、服を作りにハルバードまで行きますよ」


「えっ、今からいくの?」


「カイト、あなたはさっき王都まで行ってくると言ったのですよ?」


有無を言わさぬエレナの号令により、カイトはそのままハルバード行きの馬車へと強制連行されてしまった。


***


ハルバード領、高級仕立て屋。


今回は付き添いとしてクララも一緒であり、以前にもましてフリル付きのシャツのガードが固かった。しかも、最近のフェルメール領の羽振りの良さを知ってか、仕立て屋の女主人までも出て来てしまった。


「素晴らしいですわ、奥様! 御坊ちゃまの愛らしさを引き立てるなら、やはりこのフリルが一番です!」


「ええ!胸元をもっと華やかにして、袖口にも追加してちょうだい!」


エレナが目を輝かせて「可愛い」と言えば、隣に控えるクララも真剣な眼差しで太鼓判を押す。


「これならば王宮に上がっても見劣りしません。フェルメール家の体面としても完璧です。奥様、こちらのレースも合わせるべきかと」


「さすがクララ! 分かってるわね!」


採寸台の上で、カイトは完全に白目を剥いていた。


(……おいぃ。前もこの店で、こんなフリルだらけにさせられたよな。こんなヒラヒラの多い服を現場に着ていけるわけがないじゃろ!労働安全衛生法に引っかかるわい)


しかし、女子が服を選び始めたら、もう誰にも止められなかった。

カイトは抵抗をやめた。


そして極め付けは、呉服屋の女主人が放った言葉だった。


「心を込めて仕立てさせていただきますので、お渡しは三週間後になります」


(……………………え?)

カイトの思考が停止した。


三週間。つまり、この服が完成するまで、母親から王都への外出許可は絶対に下りないということだ。


(おいっ! それじゃ服が出来るまで、三週間も王都の現場に行けんじゃろぉぉっ!!心なんて込めんでいいわい!)


王都行きの切符を手に入れた現場監督の野望は、母親と仕立て屋によって三週間の延期を命じられたのだった。

本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「続きが気になる!」「また着せ替え人形!」と思っていただけましたら、

ページ下部より評価とブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ