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第51話 逃げられない現場監督

評議会は、拍子抜けするほどあっさりと決着した。


国王の御前で行われた実証実験。そして『光の道計画』が単なる支出ではなく、新たな利益を生み出す国家事業であると示されたことで、反対派だった財務局や地方貴族たちも次々と賛成へ回った。


そして、ケッセルベルク公爵から爆弾発言が飛び出す。


「軍務局長である私が言うのも妙な話だが、この計画を軍の主導で進めれば、帝国は必ず軍事目的を疑うだろう」


公爵は一度言葉を切った。


「だからこそ、これは内務局による『王国のインフラ整備』として進める。軍は表に出ず、必要な協力だけを行う」


「我々軍務局は、その街道を有事の際にも利用できれば十分だ。平時に得られる利益まで軍が抱え込むつもりはない。インフラ整備である以上、その利益は内務局と、現場を支える領主たちへ還元されるべきだ」


かくして前代未聞の国家事業『光の道計画』は正式に承認され、国家予算と軍務局の支援が内務局に与えられることとなった。


承認を喜ぶ声が飛び交う中、内務局の者たちだけがあっけに取られた顔をしたまま評議会は閉会となった。


軍務局のロビーまで戻ってきたカイトは、黄色いヘルメットをちょこんと直し、会心の笑みを浮かべていた。


(管轄は軍から内務局に変わったが、予算も労働力も確保出来たも同然! 光の道計画、いよいよワシの采配で着工じゃあ!)


カイトが脳内で真新しい作業着と安全帯を身につけ、黒竜川の現場に立つ自分の姿を妄想してニヤニヤしていた、その時だった。


ガシッ!!


「――ふぇっ?」


背後から伸びてきた手が、カイトの被っている黄色いヘルメットごと、その後頭部をガッチリと掴んだ。


振り返ると、そこには軍からの特別許可証を胸に下げたクララが、笑みを浮かべて立っていた。


「見事なプレゼンでした、カイト様」


クララの静かな声がカイトの耳元に刺さる。


「これで、軍から依頼されていた『橋の工事』と――少しだけ軍を甘く見ていた私の不注意により、『実演』というお仕事を追加させられてしまいましたが、これにて完了ですね?」


「ク、クララ……? えと、あのね、ここから黒竜川の水車の現場が……」


「完了、ですね?」

「……はい」


長年、子爵家を取り仕切ってきたベテランメイドの有無を言わさぬ圧力。さらに「軍の追加発注」に対する静かな怒りを感じ取り、六歳の天才現場監督は一瞬でただの「怒られた子供」へと引き戻された。


「はい。では、帰りましょう。エレナ様から『橋の仕事が終わったら、一秒でも早く村へ連れ戻せ』と厳命されておりますから」


「えええっ!? ま、待って! ぼく、この現場の監督で……!」


クララはカイトの抗議など一切無視し、「よいしょ」と小脇に抱えるように持ち上げた。カイトは手足をバタバタさせるが、クララの腕はびくりともしない。


その様子を見て、ケッセルベルク公爵が慌てて口を開いた。

「ま、待てクララ殿! 彼はこの『光の道計画』に不可欠な存在だ! このまま帰られては――」


「公爵閣下」


クララは持ち上げたカイトを小脇に抱えたまま、軍務局トップである公爵に向けて、優雅に一礼した。


「軍からのご依頼は、あくまで『橋の工事』までのはず。これ以上の拘束は契約外でございます。……もし、カイト様をこれ以上軍の現場に巻き込むおつもりなら、どうかもう一度、契約を結び直してください。……あのエレナ様を説得できるとお思いならば、ですが」


「……それを言われると、返す言葉がない」


泣く子も黙る軍務局長が、カイトの母親の名前を出されて言葉を詰まらせた。


公爵もまた親である。国のために必要な判断だったとはいえ、子を案じる親の気持ちはよく分かる。まして今回、カイトを工事へ引っ張り出した張本人は自分なのだ。


「で、では皆様、これにて我々は失礼いたします。後の水車造りは、軍の皆様で頑張ってくださいませ。ガンタ殿、サジ殿、帰りますよ」


「おい、坊主、俺らはどうすんだよ!ここで解散か?」

「えー知らないよ!それは誰かに聞いて!」


「ガハハ! まあ、いまの格好じゃあそう言わざるを得んな」

バッカスは豪快に笑った。


「じゃあ、俺は少しだけ残ってくぜ。お前がいない分、発魔機の面倒見なきゃならねぇからな」


「わ、私も残ります! 送魔線の設計をやって見たいと思いますので!」


「クララ待って、バッカスおじちゃん耳かして。発魔機に追加したいのがあるんだ」


カイトはバッカスになんとか聴こえる程度の声で伝えた。

「………な装飾……分からないようにお願い……」


「カイト様、話は終わりましたか? では、お二人ともお身体にはお気をつけくださいませ」


クララは優雅に一礼すると、公爵や軍務局の面々に背を向け、足早に大広間の出口へと向かい始めた。


(ああっ、ワシの現場がぁぁっ!!)


カイトの心の中の悲鳴は誰にも届かず、彼はそのまま王宮から強制連行されていった。


***


カイトが連れ去られてから少し後のこと。

軍務局のロビーに、バタバタと慌ただしい足音が響き渡った。


「カイト! 評議会が終わったって聞いたから 約束通り来たよ! さあ、昨日のエアバズーカの話の続きを……あれ?」


目を輝かせて飛び込んできたのは、第一王子のルシアンだった。息を切らした側近たちを引き連れ、キョロキョロとロビーを見渡すが、目当ての黄色いヘルメットの姿はない。


「……殿下。カイトなら、先ほどお帰りになられました」


公爵が気まずそうに答えると、ルシアンは目を見開いて固まった。


「えっ……? 帰った……? なんで!? なんで帰しちゃったのさ!?」


「そ、それはですね……カイトのお母上からの厳命がありまして、軍の依頼は完了したと……」


「そんなのズルい! 僕、お友達になったのに! まだ魔道具の仕組みとか、あの子がどんな風に魔法刻印の事を考えてるのとか、聞きたいことが山ほどあったのに!!」


愕然とするルシアンの顔が、みるみるうちに憤りへと変わっていく。


カイトの魔法理論と物理の知識は、魔法学好きの王子にとってこの世のどんな宝よりも魅力的なものだったのだ。


「……っ、分かった! 父上のところに行く!!」


ルシアンはきびすを返し、制止しようとする側近たちを振り切って、一直線に国王の執務室へと走り出した。


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「クララの舌打ちはこういうことか!」「王子、何をするつもり?」と

思っていただけましたら、ページ下部より評価とブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!


また、誤字報告をしてくださった皆様、ありがとうございます!

更新すればするほど誤字が増えている気がします……。いつも助かっております!


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