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第49話 またも崩れるヴァロワ侯爵

(このおっさん、泥沼に落とされた件をまだ根に持っておるな。現場で恥をかかされた腹いせに、今度は王様の前でひっくり返そうという魂胆じゃろう。じゃが残念じゃな。今回の相手は口先ではなく物理法則じゃ。侯爵よ、そのクレームは『物理』で論破させてもらうぞい!)


カイトは自分の腕にはめられた『蓄魔の腕輪バッカスのバングル』をそっとバッカスに見せると、トントンと腕輪を指差し「失・敗・作」と声に出さず口パクだけで知らせた。


バッカスがそれを見た瞬間――過去一で「ニタァ〜」と、凶悪でイヤラシイ笑みを浮かべた。


(なるほどな……悪巧みに関しては、この坊主に勝てる気しねぇぜ)と内心で舌を巻きつつ、バッカスは一歩前に出て侯爵を小馬鹿にするように言い放った。


「なぁ侯爵様。そんなに詐欺だって言うなら、軍務局が持ってる『魔力を吸い取る腕輪』をガンタに着けてみりゃいいじゃねぇか。アンタの理屈じゃ、コイツは魔力を使ってるんだろ? だったら着けた瞬間にぶっ倒れるはずだぜ?」


「貴様、なぜそれを知っている!」


「はぁ? あれは元々俺が作った物だからな。軍務局がさっさと持って行っちまったが。どうだ、着けさせてみろよ。そいつが魔力持ちかどうか、一発で分かるぜ!」


その提案に、国王と一部の高位貴族たちがピクリと眉を動かした。


バッカスが口にしたのは、魔力を持つ犯罪者や罪人の拘束に使われる特殊な腕輪『魔力喰いの枷』だった。知る者は限られているが、その効果だけは王国中の魔力持ちに恐れられているものだった。


「……よかろう。衛兵、地下から枷を持ってこい」


国王の命により、鈍い銀色に光る無属性魔石がはめ込まれた、『魔力喰いの枷』が運ばれてきた。触れた者の魔力を強制的に吸い出し、大気中へ捨て続けるという拷問器具だ。


「ガンタ、これ つけてみて!」


「えっ、はい。なんすかこれ、結構重たいっすね」


ガンタは言われるがまま、無造作に腕輪をはめた。


魔力持ちであれば、着けた瞬間から魔力を奪われ続け、激しい虚脱感に襲われるはずの代物。だが――魔力を持たないガンタにとっては、ただの冷たい金属の塊でしかなかった。


「じゃあガンタ、もういっかい グルグルして! サジは回り始めたら手を離してね」


「は、はいっす! 」

「了解です」


カイトの指示を受け、クランクが回り始めたところでサジがパッと手を離す。同時に、ガンタが枷を着けた腕で勢いよくクランクを回し始めた。


ギュルギュルギュルギュルッ!!


「なっ……!?」


ヴァロワ侯爵の目が見開かれた。


『魔力喰いの枷』を着けた状態で魔力を練ることなど、いかなる大魔導師にも不可能。しかも魔石に触れている者は誰もいない。完全に「ただ鉄の棒を回しているだけ」の状況。


それなのに――。

チカッ……チカッ、ピカァァッ!!


眩い青白い光が、再び照明の魔石から溢れ出し、大広間を煌々と照らし出したのだ。


「ば、馬鹿な……! なぜ光る!? ……はっ、さては衛兵! 貴様、壊れた枷を持ってきたのではあるまいな!?」


顔を真っ赤にして叫ぶ侯爵に、バッカスが肩を揺らして嘲笑した。


「へっ。自分が理解できねぇ現象が起きたら、道具が壊れてるせいにするのかい? ――それが本当に壊れてるかどうか、アンタ自身が着けて確かめてみりゃあいいじゃねぇか」


「なんだと!? 平民上がりの職人風情が、私に向かって……!」


「侯爵。バッカスの言う通りだ。卿が壊れていると疑うのなら、卿自身が証明してみせよ」


国王が静かに命令する。


ヴァロワ侯爵は顔を引きつらせながらも、忌々しげにガンタから銀色の枷をひったくり、自らの腕にガチャンと装着した。


「ふん! どうせ壊れたただの鉄屑――」


――ギュィィィィンッ!!


その瞬間、銀色の無属性魔石が侯爵の魔力に反応し、けたたましい駆動音を鳴らして『強制吸引』が始まった。


「……っ!? ぁ……がっ……!?」


ヴァロワ侯爵の顔から一瞬で血の気が引く。


体内から生命力そのものが吸い出されるような、未知の虚脱感。


「あ、がぁっ……! ま、魔力が……抜、け……っ!」


ガクンッ。


「ひっ……!」

「ま、魔力喰いの枷だ……!」


魔力を持つ貴族たちの顔から、一斉に血の気が引いていく。


白目を剥いたヴァロワ侯爵は、大広間の大理石の床に音を立てて崩れ落ちた。ピクピクと痙攣しながら、自力で立ち上がることすら出来なくなった。


もはや詐術だと主張する者は誰もいなかった。


完全に機能している『本物の拷問器具』の恐ろしさと、それを涼しい顔で着けたまま力仕事をしていた平民たちの姿。そして、魔力持ちの魔力を一切使わずに生み出された『光』。


すべての事実が繋がり、広間は今度こそ誰も魔力を流していないのに魔法が発動したことを知った。

本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「この枷、バッカスが軍務局で言ってた!」「カイト、まだバングル返してないの?」と

思っていただけましたら、ページ下部より評価とブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!



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