第48話 御前会議の幕開け
王宮の奥深くにある評議会の間は、もはや一つの公共事業の塊だった。
天井を支える巨大な石柱に磨き上げられた床石。壁面を埋め尽くす装飾の数々。
そんな中、カイト、クララ、バッカス、ゼノス、そして木箱を担いだガンタとサジが中央へ進み出た。
(この広さといい、無駄に輝く装飾といい、どれだけ維持費がかかっておるんじゃ)
カイトは思わず顔を引きつらせた。
そんな彼とは対照的に、高位貴族たちは豪奢な椅子に当然のような顔で腰掛けている。そしてカイトたちが姿を現した途端、場の空気がざわつく。
「あの妙な黄色い帽子は何だ?」
「なぜ平民が評議会の場にいる」
と、訝しむ声が上がる一方で、
「公爵が持ち込んだ発明というのは、あの木箱か?」
「本当に報告通りの代物なのか」
と、興味を隠さない者たちもいた。
その中に見知った伯爵がいた。ハルバードだ。カイトと目が合った瞬間、伯爵は小さくため息をつくような表情を浮かべた。
その目は、まるで「発明を披露するのは構わん。だが、ここは王宮だ。いつもの調子で暴走するなよ」と釘を刺しているようだった。
カイトは小さく笑った。
しかし、頭の中ではすでに別のことを考えていた。
(国という最大のクライアント相手の完了報告会兼、新規事業の実証実験コンペか。……よーし、現場監督の血が騒いできたぞい)
「――陛下、ご入場!」
近衛騎士の声が響き、玉座へと国王が歩みを進めた。
全貴族が一斉に平伏し、カイトたちもそれに倣って膝をつく。
玉座に腰を下ろした国王は、議場を見渡してから声を響かせた。
「……みな、面を上げよ」
国王が鷹揚に頷くと、一同が顔を上げる。
「此度の評議会を開くにあたり、まずは論功行賞を行う。……フェルメール男爵家嫡男、カイト。ならびにその随行員であるクララよ、前へ」
二人が進み出ると、国王はまずカイトを見据えた。
「カイト。オデール領における黒竜川の架橋工事、ならびにそれに伴う河川の改修、見事であった。かつてない魔法土木の技術を用い、長年この国の物流を阻んできた水害の種を完全に取り除いた功績は極めて大きい。よって、フェルメール家に特別報奨金として金貨二百枚を下賜する」
(おっ、二百枚か。経費の割り振りとしては十分じゃな。王様、なかなか話がわかるわい)
続いて、国王の視線がクララへと移る。
「そしてクララ。そなたの働きもまた異例であった。オデールを訪れたドミナリア連邦の査察官を相手取り、見事な調査能力で事実を突きつけ、武力衝突という最悪の事態を、その知略で未然に防いだ功績は国家の守護に等しい。そなたには王家の紋章が入った銀の勲章と、金貨百枚を授与する」
「……身に余る光栄にございます」
クララが優雅に一礼し、金貨の袋と勲章を受け取る。
(さすがクララじゃ。しかし母さんが聞いたら「クララならこれくらいは当たり前です」とか言いかねんのう)
カイトが内心でホクホクしていると、国王は満足げに頷き、次いでバッカスの方へと視線を戻した。
「……さて。論功行賞はここまでだ。ここからは、公爵より報告のあった『新たな事業』について問う。バッカス、軍の攻撃魔法に用いる魔石の開発者だったな。以前にも幾つかの魔道具を納めたと聞いておる。その『ガンタ式・魔力発生装置』も、そちが考案したものか?」
国王の鋭い問いかけに、議場の空気が再び凍りつく。貴族たちの好奇の視線が、ガンタたちの担ぐ木箱に集中した。
バッカスは落ち着いた様子で顔を上げ、国王に答える。
「違います、陛下。この装置の原理を発見したのは、そこに控えておりますガンタ。そして、装置そのものの考案者は、こちらのフェルメール家嫡男、カイト殿です。私とゼノスは指示に従って、形にしただけに過ぎません」
「ほう……?」
国王の視線が、震えるガンタと、黄色いヘルメットを被った小さなカイトへと向けられる。
議場の貴族たちからは、「ただの子供ではないか!」「そんな馬鹿な、魔力も持たぬ者が……」という侮蔑と疑念の囁きが漏れ始めた。
「ガンタとやら、その原理をどうやって発見した?」
「はいぃ!導線が泥だらけだったので、た、ただ水車に魔石を括り付けただけです。仕組みは知りません」
「ふむ……良いだろう。人が魔力を用いずに、機械から魔力を生み出すなどというお伽噺。それが真実か否か、余とこの場にいる全貴族の眼前で、証明してみせよ」
「御意」
国王の許可が下りるやいなや、カイトはニヤリと口角を上げた。
(ふふ、お待ちかねのプレゼンタイムじゃな。お偉いさんたちの度肝を抜いてやるぞい)
バッカスの合図で、ガンタとサジが木箱を開け、『ガンタ式・魔力発生装置』を議場の中央に設置した。装置の先には、魔道ランタンに使われるものよりさらに一回り大きい魔石が繋がれている。
「ガンタ、サジ、頼むぜ。いつもの通りだ」
「は、はいっ……!」
「やってやるっすよ!」
ガンタとサジは緊張で顔を引きつらせながらも、装置の横に取り付けられた手回しクランクを二人でしっかりと握りしめた。
「いきますっ……!」
大広間に満ちていたざわめきが、ぴたりと止まった。
静まり返った議場の中で、最初に響いたのは歯車の嚙み合う音だった。
ギギギギギ……ギュル、ギュル!
やがてその音は次第に勢いを増し、甲高い回転音へと変わっていく。
キュィィィィン……!
そして、次の瞬間――
――ピカァァァァァッ!!!
台座に据えられた実験用の魔石が、部屋の照明をかき消すほどの光を放った。
「なっ……!?」
「ま、魔石が……本当に、光っただと……!?」
王が身を乗り出し、並み居る貴族たちが一斉に息を呑んだ。議場は一瞬の静寂のあと、驚愕の渦に包まれた。
「馬鹿な。術者が魔力を注がずして、魔法が連続発動するなどあり得ん!」
ガンタとサジがクランクを回すたび、箱から伸びた導線の先にある『照明用の魔石』がチカチカと青白い光を放つ。
だが、どよめきが広がる中、評議会の席から一人の高位貴族が立ち上がった。
豪奢な法衣を纏った男――法務局の重鎮であり、ハルバード伯爵の政敵でもあるヴァロワ侯爵である。
彼は鼻で笑い、忌々しげにガンタを指差した。
「――くだらん。王の御前で、見え透いた小芝居を打つな」
冷ややかな声が広間に響き、ガンタとサジがビクッと肩を揺らしてクランクを回す手を止めた。同時に、魔石の光もふっと消える。
「ヴァロワ侯爵。小芝居とはどういう意味だ?」
国王が静かに問うと、ヴァロワ侯爵は自信たっぷりに言い放った。
「陛下。誰も魔力を流さずに魔法が発動するなど、世界の理に反しております。もしそんな機械が実在するならば、我々魔導師は失業し、魔法を扱う貴族の存在意義そのものが崩壊してしまう。そんな馬鹿げた話があるはずがない。……ゆえに、これは精巧な詐術でなければならないのです」
侯爵の言葉に、広間の貴族たちがハッと息を呑んだ。「確かに」「我々の立場が危うくなる」と、同調と危機感が波紋のように広がっていく。
「大方、その平民が魔力を隠し持っているのではないか?」
ガンタは顔を真っ青にして「お、俺は魔力なんてこれっぽっちも……!」と弁明しようとするが、一介の平民の声が貴族たちに届くはずもない。
本日もお読みいただき、ありがとうございました!
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それと、第一部から続けて誤字報告していただきありがとうございます。大変助かっております。
それと穴があったら入りたいです。汗




