第46話 王族との予期せぬ遭遇
オデール領での大仕事を終え、『魔力発生装置(発魔機)』を荷馬車に積み込んだカイトたちは、いよいよ帰還の朝を迎えていた。
オデール伯爵邸の正門前には、別れを惜しむ者たちが大勢集まっていた。
「フェルメールの若君……我がオデール領を救っていただいたこと、決して忘れません。この御恩は、末代まで語り継がせましょう」
オデール伯爵が深々と頭を下げる。
その後ろでは、内政官のウォルターと現場監督のマルコが、顔をくしゃくしゃにして男泣きしていた。
「またいつでもオデールに来てください! 次も、もっとすごい仕事を一緒にやりましょう!」
「ううっ……カイト親方ぁ! あなたと泥まみれになった日々は、俺の人生の誇りですっ!」
「おう、お前らも立派な土方になったじゃねぇか。怪我だけはすんなよ」
バッカスが照れ隠しのように笑い、ゼノスも静かに頷いた。
「領主様には本当にお世話になりました。心より感謝申し上げます」
泥靴村の工兵組も、別れの挨拶を交わしている。
「デックさん、リックさん! ホントお世話になりました! また絶対会いましょうね!」
「おお、ガンタもサジも元気でな! 王都に行ってもへま打つなよ!」
それぞれの挨拶が終わるのを見計らい、クララが一歩前に出た。
「この度は大変お世話になりました。皆様の今後のご健勝を、心よりお祈り申し上げます」
クララは深々と頭を下げた。
最後にカイトが、馬車の荷台からピョンと身を乗り出して大きく手を振った。
「みんなー、ばいばーい! またねー! 今度は泥靴村にも、あそびにきてねーっ!」
カイトが馬車に乗り込むと、御者台に座るコンラッドがオデール伯爵へ向けて深く一礼し、手綱を握り直した。
「出発っ!」
荷馬車がゆっくりと動き出す。
オデール領の人々の「万歳!」という歓声と拍手に送られながら、一行は王都へ続く街道へと進んでいった。
***
オデール領を出立して四日目の朝。
一行が野営地で朝食を済ませ、出発準備をしていたところ、遠くから激しい馬の蹄の音が近づいてきた。
砂煙を上げて現れたのは、近衛兵を引き連れたガイゼル総監だった。彼は馬を停めると、丁寧に降りてカイトたちの前に進み出て、片膝をついた。
「フェルメール家嫡男カイト殿。クララ殿。王都へご案内すべく参上した。陛下より、オデール領の黒竜川の架橋工事の功績、及びドミナリア連邦との武力衝突を未然に防いだ功労に対し、直接の恩賞が下される。数日後の評議会に、両名ともぜひご出席いただきたい」
ガイゼルはゆっくりと立ち上がり、今度はバッカスとゼノスに向き直った。
「バッカス殿、ゼノス殿。貴殿らには『魔力を生み出す装置』の実験を、陛下の御前で直接ご披露いただきたい。これは公爵閣下からの強いご要望でもある」
「へっ、そう来るってわかってたぜ!」
バッカスが荷台の木箱を軽く叩いた。
「見せられるよう、ちゃんと作ってあるぜ。但しガンタとサジは実験の助手として同行してもらわねえとな。構わねえかい?」
ガイゼルは即座に頷き、丁寧に答えた。
「無論だ。ガンタ、サジ両名のご同行も歓迎しよう。王都では、軍務局の将校用宿舎を一階層まるごと貸し切りで手配してある。食事や身の回りの世話も専属の者を付けるゆえ、どうか存分に実験の準備に集中していただきたい」
ガンタとサジが目を丸くして顔を見合わせた。
「我々軍務局としても、皆様を全面的に支援することをお約束する。……どうか、陛下の御前で存分にその偉業をお示しいただきたい」
ガイゼルはそう言いながらも、内心では軍務局長から念を押された言葉を思い出していた。
(絶対に彼らを怒らせるなよ。我が国の首の皮を繋いだ英雄であり、常識を破壊する爆弾なのだからな……)
「随分と気前がいいな。公爵さん、本気ってことか」
バッカスがニヤリと笑うと、ガイゼルは居住まいを正した。
「では、王都まで我々が護衛を務めるゆえ。ご出立を」
カイトは黄色いヘルメットを被り直し、元気よく手を挙げた。
「うん! 王都でいっぱい『ぴかぴか』光らせるね!」
そして、総監と近衛兵に護衛されたカイトたちの馬車は、無事に王都へと帰還した。
巨大な城壁の門を抜け、ガイゼルたち近衛兵の先導によって、馬車は王宮に隣接する軍務局の中央中庭へと滑り込む。一行が馬車から降りて荷解きを始めようとした、その時だった。
「――お待ちしておりました!」
突然、整列していた軍務局の兵士たちが一斉に道を開け、直立不動で敬礼をした。
そこに立っていたのは、豪奢な王族の衣装に身を包んだ、カイトたちにとっては全く見知らぬ一人の金髪の少年だった。
「な、なんすか、あのすごい服を着た子供は……?」
ガンタが目を白黒させていると、先導していたガイゼルが慌てて馬から転げ落ちるように飛び降り、ガシャンッ!と大きな音を立ててその場に片膝をついた。
「ル、ルシアン殿下!? な、なぜこのような所に……!」
「「「「えっ!?」」」」
ガイゼルの悲鳴のような声に、バッカスやゼノス、クララたちも一斉にその場に深く跪いた。
「ひぃぃっ……本物の、王子様……!」
泥靴村育ちのガンタとサジに至っては、本物の王族の登場に顔を真っ白にして地面に平伏した。
だが、ルシアンはガイゼルの言葉など全く耳に入っていない様子だった。周囲の制止も振り切り、一直線に後ろの馬車から降りたばかりのカイトの元へと駆け寄ると、興奮で頬を紅潮させながら、その小さな手を両手でガシッと握りしめた。
「君が……君が、カイトだね!?」
「ほえ…? えっと……うん、カイトだよ」
カイトがきょとんと首を傾げる。
「ああ、ずっと会いたかった! 君が作ったという数々の『魔道具』の報告書、僕は軍務局長の執務室で何度も読ませてもらったんだ! 巨大な岩を砕く魔法、重い石を吹き飛ばす筒……それに、川を真っ直ぐにしてオデールの水害を治めたって本当かい!? 君は天才だ!」
ルシアンは目をキラキラと輝かせ、まるで憧れの英雄を前にした少年のように捲し立てた。
「そして、今回見つかったという『無尽蔵に魔力を生み出す機械』! 君はまた、この世界をひっくり返すようなトンデモナイ物を作ったらしいね! 僕はそれが気になって気になって、明日の評議会までなんてとても待てずに、ここまで飛び出してきてしまったんだ!」
「ほえ? 作ったのは僕じゃないよ、あっちの二人。で、発見したのはガンタだよ」
カイトは、バッカスとゼノスを手で示した後に、地面でガタガタ震えているガンタを指差した。
ルシアンが視線を向けると、バッカスは青ざめた顔で全力で首を横に振った。ゼノスも無言で同意する。ガンタに至っては、首が千切れそうな勢いで否定していた。
「みんな違うって言ってるぞ?」
ルシアンが小首を傾げると、地面に平伏したまま顔を半分だけ上げたバッカスが、必死の形相でカイトを睨みつけた。『全部お前がやったことにしろ!』と強烈な目配せを送ってきた。
(あの野郎ども……王族のプレッシャーにビビって、ワシに責任を全押ししやがったな!)
カイトが黄色いヘルメットの奥でジト目を向けていると、ルシアンはそれを『カイトの謙虚さ』だと見事に勘違いし、ますます尊敬の念を込めて目を輝かせた。
「カイト! 自分の手柄を仲間に譲ろうとするなんて、君はただの天才というだけでなく、なんて謙虚で器が大きいんだ! 本当に素晴らしいよ!」
「え、えっと……うん! みんなで作ったんだよ!」
カイトは引きつりそうになる頬を必死に保ちながら、なんとか誤魔化した。
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