第45話 ガンタ式・魔力発生装置
翌日――オデール領の現場に設営された工兵部の大型テントの中。
「うう……頭が割れるように痛いっす……」
「なんで俺までこんな目に……うっぷ」
二日酔いで青白い顔をしたガンタとサジが、フラフラになりながら木組みの装置の前に立たされていた。
徹夜で作業していたバッカスとゼノスの目の下には濃いクマができているが、その眼光は異様なほどギラギラと輝いていた。
「よし、組み上がったぞ。これが『ガンタ式・魔力発生装置』の第一号模型だ!」
バッカスが自慢げに指差したのは、木枠の台座の中心に太い木の軸を通し、そこに手回し用のクランクを取り付けた装置だった。
「その名前、ホントに使うんすか!」
「あったりメェだ。発見者の名前を付けるのは学問の基本だろうが!」
「俺、発見してないっす! ただ水車に括り付けただけっす!」
「じゃあ歴史書にはそう書いておくよう言っといてやるよ。それより見ろ。軸には二つの『跳躍』の魔石を固定してある。昨日の水車と違って、魔石が跳ねる方向が『逆』になるように配置も角度もきっちり計算済みだ」
ゼノスが真剣な顔で解説を引き継ぐ。
「昨日の現象は、激流による超高速回転で魔石の力が弾き出された結果です。カイト殿のモーターの仮説を逆にするならば、この軸を物理的に回転させれば、行き場を失った魔力が周囲に巻かれたミスリル導線へと溢れ出すはずです」
二人の天才技術者は、徹夜の議論の末に「美しい対称性を持つ回転体」を作り上げていた。
「さあ、ガンタ、サジ。お前たちは水車の代わりだ。そのクランクを思い切り回せ!」
「へ、へい……」
二人は重い足取りでクランクの両側に立ち、ハンドルを握った。黄色いヘルメットを被ったカイトが、木箱の上から身を乗り出して指揮を執る。
「じゃあ、いくよー! はじめ!」
カイトの号令で、ガンタとサジがよいしょとクランクを回し始めた。
二つの魔石が固定された軸が、スムーズに回り始める。
バッカスとゼノスが息を呑んで導線の先の『灯火の魔石』を見つめる。
だが――魔石はうんともすんとも言わない。
「……あれ? 光らないね」
「回転が遅いんだ! 昨日の水車を思い出せ! 激流の中でとんでもない勢いで回ってただろ! もっとだ!」
バッカスの怒号に、ガンタとサジが顔を真っ赤にしてクランクを回す速度を上げる。
ギュルギュルギュルッ! 完璧なバランスで固定された二つの魔石は、なんの引っかかりもなく、虚空を綺麗に回り続けた。
「もっと! もっとはやくだ!」
「まだっすか!? うおおおおおっ!」
「二日酔いの頭に響くゥゥッ!!」
必死に回し続ける二人。しかし、灯火の魔石は暗いままだった。
やがて限界を迎えた二人がその場に崩れ落ち、クランクの回転がゆっくりと止まる。
「……なんでだ? 逆回転の理屈は完璧なはずなのによぉ…」
バッカスが図面を睨みつけながら唸る。
ゼノスも腕を組み、ブツブツと仮説を立てては壊していた。
「遠心力だけでは足りないのか? しかし、魔石の力は確かに進行方向と逆を向いている……」
迷宮入りしかけた二人の天才を前に、カイトはわざとらしく木箱の上から身を乗り出して、真理を突きつけた。
「ねえ、バッカスおじちゃん。今日は魔石がすっごく『きれいに』ぐるぐる回ってたよね!」
「あ? ああ、重心を完璧に合わせて固定したからな。回転にまったくブレがねぇだろ?」
「でも、きのうガンタがやった水車は石がブラブラしてて、水の中でぶつかったり、跳ねたりしたりして、いっぱいケンカ(反発)してたよ?」
カイトは自分の両手の人差し指を激しくぶつける仕草をしたあと、今度は両手で綺麗な円を描きながらニコッと笑った。
「でも、今日の二つの石は、ずーっとおなじ距離で、『おいかけっこ』してるだけだもんね。……だれともケンカしてないから、魔力も飛び出さないんじゃない?」
「「…………え?」」
バッカスとゼノスの思考が、カイトのその一言でピタリと止まった。
(気づいたかのぅ、昨日と今日の違いは単純じゃわい。昨日は石が勝手に暴れ回っておった。今日はお行儀よく回ってるだけじゃからのぅ)
「……石同士が、誰もケンカしていない(反発していない)……?」
「昨日は魔石同士が勝手にぶつかり合っていた……」
ゼノスの目の色が変わった。
「そうか……! 昨日は二つの魔石が互いに干渉し合っていたんだ! でも今日は綺麗に回っているだけ……!」
バッカスが弾かれたように立ち上がった。
「そういうことか!! 今の配置じゃ『反発』を再現できちゃいねぇんだ! なら、強引に干渉させてやりゃあいい!」
「中心の魔石に対して、外側から別の魔石の力をぶつければ……!」
「ああ!外側の枠にも魔石を配置して、互いに反発するように組みゃあ…回転するたびに魔力の流れが乱れて、導線に押し出されるはずだ!」
二人はすぐさま、新たなホップの魔石をいくつか鷲掴みにし、木枠の外側(ステーター側)に固定し始めた。
「よし……! できたぞ! ガンタ、サジ、もう一回、回せェッ!!」
「ひぃぃッ! 二日酔いがァァッ!」
「やるっきゃねえっす!!」
ガンタとサジが限界を超えてクランクを回す。
今度は違った。
中心の魔石が外側の魔石の近くを通り過ぎるたびにグイン!グイン!と目に見えない魔力の反発による抵抗力が生まれ、クランクを回す二人の腕に重くのしかかる。
「うおおおっ!? なんだこれ、さっきより すげぇ重いっす!?」
「止めるな! その『抵抗』こそが魔力が押し出されている証拠だ!!」
二人が歯を食いしばり、必死に回し続けるその時。
――チカッ。
導線の先に繋がれた『灯火の魔石』が、一瞬、青白く光った。
――チカチカッ、パァァァ!
回転の速度が上がるにつれ、石は輝き始めた。
「ひ、光った……」
「誰も魔力を流していないのに……」
「違ぇよ!」
バッカスが叫ぶ。
「ガンタとサジが回した力だ! その力が魔力に変わってんだよ!」
汗だくでクランクを回す二人の顔が、青白い光に照らされている。それは間違いなく、この世界の歴史が根底から覆った瞬間だった。
(ふぉふぉふぉ! これで説明の目処はたったわい。さあ、次は王都に乗り込んで、公爵をびっくりさせてやろうかのう!)
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