第41話 変態技術者の宴
「ぼ、坊主……。お前、何が起きたか分かってやがるな? なぜ『回しすぎた』なんて言葉が出た?」
「カイト殿、どうか教えていただきたい。魔力源がないのに魔石が反応した理由を……!」
(ええい、知らん! 適当に誤魔化すぞい!)
カイトは内心で冷や汗をかきながら、フル回転で子供の語彙を使った言い訳を捻り出した。
「えっとね、あのね! 『モーター』が、『ショート(爆発)』したんだよ!」
「もーたー? なんだその魔法は。聞いたこともねえぞ」
「魔力を流すとグルグル回る魔法ってない?」
「魔力で『回転』を生み出す機構……でしょうか? しかし、魔法の力は外に放出されるか、直線的に弾くかです。車輪のように『連続して回し続ける』ような複雑な動きを、魔石だけで作り出すことなど不可能です」
ゼノスが常識に照らし合わせて否定する。
(あっちゃー! しまった、この世界にはまだモーターが存在してないんじゃ!!)
カイトは自分の更なる失言に気づき、慌てて手振りを交えてでっち上げの説明を始めた。
「えっとね! バッカスおじちゃん、前にコートローラーで『ホップ(跳躍)』の石を、じゅんばんこ に動かす『ブルブルローラー』を作ったでしょ?」
「あ? ああ、魔力が円環を回る分だけ、発動が遅れて振動するとんでも回路だが……それがどうした?」
「その『ホップ』の石を、まあるく『えん(円)』に並べてね。順番に『ポーン、ポーン』って弾くようにしたら……真ん中の棒が、ずーっと グルグル回るでしょ? それが『もーたー』だよ!」
「「…………ッ!!」」
その瞬間、バッカスとゼノスの動きがピタリと止まった。
バッカスの脳裏で、かつて振動ローラーに使った遅延反発回路が組み替わった。螺旋状ではなく円環状に並べる。魔石が順番に反発を繰り返せば、その力は一方向へ流れ続ける。
「し、師匠……!」
ゼノスの声が震えた。
「これ、回ります。理屈の上では間違いなく回ります。この『もーたー』とやらが完成したら、馬に頼らず車輪を動かし続けられます!」
「バケモノかこの坊主……! また息をするようにとんでもねぇ機構を思いつきやがって……!」
二人の天才が『モーターの発明』という超特大の発見に戦慄する中、カイトはこれ以上問い詰められる前に、「水車のせいで壊れた」という事にして早く逃げたかった。
「でね! その『ぐるぐる回る もーたー』を、まほうを入れないで、お水さんの力で『むりやり、いーっぱい 回しすぎちゃう』と、どうなると思う?」
「……回しすぎる?」
「うん! ホップの石が『むりやり おしつぶされる』から、入ってくるはずだった『まほう』が、反対に 飛び出してきちゃうんだよ! だから割れちゃったんじゃない?」
「…………ッ!!!」
『モーター』の発明。それだけでも歴史がひっくり返る大発見だというのに。
カイトの「それを外から逆に圧し潰せば魔力が出る」というふんわりしすぎた適当な説明を聞いた瞬間。
バッカスとゼノスの脳内で、とてつもない雷鳴が轟いた。
「逆?……逆……逆だッ!!」
「そういうことか! 魔力エネルギーを変換して『回転運動』を生み出せるなら……その機構を外から水車や風車で物理的に『回転』させてやれば、魔場が刻印のベクトルで歪められて、魔力が逆流する……!」
ゼノスは頭を抱え、震える声でその先にある恐るべき真理を口にした。
「つまり、『機械的な仕事』を魔力に変換しているんだ! だから、誰も魔力を流していないのに魔法が発動したっ!」
二人はまだ推論の段階のモーターの理論から、逆回転させた時に魔力が変換されて生み出される幻視を見た。
次の瞬間、二人は川岸の泥へ這いつくばり、木の枝で回路図を書き殴り始めた。
「師匠! 導線を交差させれば魔場が乱れます!」
「導線の交差! 回転による魔場の切断! それが魔石を刺激して、擬似的な魔力の逆流を引き起こす……!」
「師匠! これ、水車の回転力を、無尽蔵に魔力へ変換できるということです! つまり……人がいなくても魔力を生み出せる『魔力発生』の理論です!!」
「「ヒヒヒッ……ハハハハハハハハッ!!!」」
泥まみれになりながら、不気味な笑い声を上げる二人の変態技術者。
(……え? なんかワシ、モーター(動力)とジェネレーター(発電機)、二つ同時に発明しちゃった感じ?)
カイトは黄色いヘルメットを押さえながら、ちょっとだけ遠い目をした。
その様子を見ていたガイゼル総監は、初めは怪訝な顔をしていたが、ゼノスの「無尽蔵に魔力を生み出せる」という言葉の意味を理解した瞬間、全身の毛穴が粟立った。
「おい、それは本当か!!」
ゼノスは顔に恍惚とした笑みを浮かべながら興奮気味に話した。
「理論上は完璧です。……いや、すでに実証済みだと言っていい。先ほど水車が壊れたのは、回転によって魔石が強制的に魔力を吐き出させられた『逆流』の証拠。あれは魔石が耐えきれずに自壊したのです。……総監、我々は今、魔力を『供給』する時代から、魔力を『収穫』する時代へ足を踏み入れたのですよ!」
「す、素晴らしい。おい、それで一体どんな事が可能になりそうだ?」
「灯火の魔石をいっぱい繋げば、夜でもずーっと明るくできるよね。そしたら夜も現場が動かせるよね」
「……夜でも、現場が動かせる、だと?」
カイトの言葉は「工事の効率化」を指していたが、ガイゼルの脳内では別の風景が強制的に変換された。
街道に光があれば、松明の灯りを頼りにする不安定な夜間行軍は過去のものとなる。昼夜を問わず、兵士も馬も休まず進軍できる。補給路は繋がり、王国軍は『昼夜を問わず突き進む、無休の軍隊』へと変貌を遂げるのだ。
それは、周辺諸国との軍事バランスを根底からひっくり返す、国家を揺るがす特大の発見だった。
「……っ!!」
ガイゼルの顔から、余裕が完全に消え去った。
彼はバッカスとゼノスの肩をガシッと掴むと、血走った目で叫んだ。
「貴様ら! 今すぐその『魔力発生の論理』とやらをまとめ上げろ! 私は王都へ急行し、軍務局と陛下に直接報告を上げる! 昼夜逆転の軍制改革が始まるぞ!!」
「ええっ!? ま、待ってください総監! まだ理論の入り口に立っただけで……!」
「やかましい! 予算はいくらでも軍が引っ張ってきてやる! 動け!!」
ガイゼルは部下を怒鳴り散らすと、その場で馬を呼び寄せ、王都へ向けて文字通りすっ飛んでいった。
「あれ、なんかまずい事、言っちゃった?」
その時。
「……チッ」
背後から小さな舌打ちが聞こえた。
カイトがビクッと肩を揺らして振り返ると、そこにはクララが、ガイゼルの消えていった土煙を冷たい目で見つめていた。
「ク、クララ……? 今、舌打ち……」
「いいえ、気のせいです、カイト様」
クララは何事もなかったかのようにメイドの微笑みを作ると、テントを出て行くのだった。
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