第40話 第二章 偶然が生んだ産業革命!
第二章開幕です。
「「「ご安全にぃぃぃぃっ!!」」」
野太い声が夕暮れの空に吸い込まれたのを合図に、黒竜川の新水路現場は、一斉に撤収作業へと移行した。
重機(魔道具)の点検、工具の数合わせ、そして周囲の清掃。
現場の男たちが手際よく作業を進める中、現場の隅に設営された大型テントの中では、まったく別の意味で熱を帯びた『尋問』が行われていた。
「――つまり、あの岩盤を吹き飛ばした『ハッパ』とやらは、風の圧縮と火の着火を組み合わせただけだと言うのか?」
腕組みをしたガイゼル総監が、眼光鋭く問い詰めている。
その対面には、捕まってしまったバッカスとゼノス、そしてカイトが並んで座らされていた。
「ええ、原理としては単純なものです。ただ、魔石の刻印回路を極限まで最適化し……」
ゼノスが論理的に説明しようとするが、ガイゼルは胃の辺りを押さえながら唸った。
「理屈はいい。問題は威力だ。あれを軍の攻城戦に転用すれば、いかなる城壁も一撃で粉砕できるぞ。お前たち、とんでもないものを生み出してくれたな……」
「いや、総監のおっさん。そりゃ買い被りすぎだ。あれは岩の隙間に仕掛けをして、ようやくあの威力になる。動く標的や、平地の城壁相手じゃあ、ただの大きな音にしかならねぇよ」
バッカスが鼻を鳴らして反論するが、ガイゼルの軍人としての野心は簡単に収まる様子はない。
(うわぁ……総監のおじちゃん、目がマジになってる。これ、長引くやつだなぁ……)
カイトは大人たちの難しい話をBGMにしながら、早く晩ご飯にならないかと、ぼんやりテントの入り口を眺めていた。
*
一方、テントの外。
ガンタは、川岸で泥だらけになっていた。
「うへぇ、ドロドロっすね……。バッカスさんに怒られる前に綺麗にしとかないと」
ガンタが引っ張り上げているのは、発破の魔法で使われた『ミスリル導線』である。百メルを越す長さの導線は、川の泥をたっぷりと付着させて重くなっていた。
「確か、魔石に繋いでたっすよね。これに巻きつけとけば、後でまた使えるっす」
ガンタは、ゼノスたちがいたテントの前に置かれていた魔道アイロン用のホップの魔石を手に取った。そして、泥だらけの導線をまるで毛糸玉を作るように、グルグルと巻きつけ始めた。
順調に巻き取っていたガンタだったが、途中でぷつりと手応えが消えた。
衝撃で限界を迎えていた導線が、途中でぷつりと千切れたのだ。
「ありゃ、切れちゃったっすよ。この上から巻き付けたら怒られるっすよね」
ガンタは辺りを見回し、もう一つ置いてあった『着火の魔石』を拾い上げた。
そして残りの導線を、今度はこちらの魔石にグルグルと巻きつけていく。
奇しくもここに、『跳躍』と『着火』の魔石に、それぞれミスリル導線が巻き付けられた状態が出来上がっていた。
「よし、これで導線の回収は終わったっす! あとは泥を落とすだけっすね」
ガンタは二つの「ミスリル毛糸玉」を両手に提げると、川岸に設置されていた小さな水車へと向かった。
それは以前、カイトが遊び半分(揚水実験用)で作った手作りのミニ水車だった。川が真っ直ぐになり、激流と化した今の黒竜川の水を受けて、凄まじい勢いで回転している。
「この水車にぶら下げとけば、勝手に川の水で洗ってくれるっすね。俺って頭いいっす!」
ガンタは軽い気持ちで、二つの魔石を紐で繋ぎ、水車の軸に括り付けた。
だが、激流の中で暴れる水車に括り付けたせいで、導線が水車の芯に複雑に絡まり、二つの魔石が水車と一緒に超高速で回転し始めてしまった。
水車の芯に巻きついた長さが違うため、二つの魔石は互いに交差しながら、何度もぶつかり合った。
その瞬間、二つの魔石が激しくぶつかり合った直後に、ミスリル導線の表面を青白い光が走った。
「……ん?」
ガンタが首を傾げた。
水車に絡まった魔石から、パチパチと青白い火花が散り始めた。
発生した魔力が、自らの導線を伝って魔石に逆流する。
しかし、一気に魔力が注がれるわけではなく回転のたびに、少量の魔力が断続的に注がれることで、魔石は「小規模な着火と跳躍」を連続して引き起こした。
パンッ!ガンッ!パンッ! ガンガンガンパパパパパンッ!!
まるで爆竹のような、連続した破裂音が鳴り響き始めた。
「うひゃあっ!? な、なんだこれ!?」
着火と跳躍を繰り返す魔石と水車を見て、ガンタがパニックになって後ずさる。その異音は、テントの中にいた面々の耳にも届いた。
「何の音だ!?」
ガイゼルが顔を上げる。
「おい、外で誰か魔法を使ってるのか!?」
バッカスが慌ててテントを飛び出し、ゼノスとカイトもそれに続いた。
テントから飛び出した彼らの目に飛び込んできたのは、夕闇が迫る川岸で、青白い火花と小爆発を散らしながら狂ったように超高速回転する小水車だった。
「ガンタ! そこで何をしてんだ! 誰が魔法を使ってんだよ、止めろ!」
バッカスが怒鳴り声を上げる。
「お、俺じゃないっす! 俺はただ導線を洗おうとしただけで、誰も魔法なんて使ってないっすよぉ!!」
ガンタが涙目で首を横に振る。
「誰も使ってないだと……!? 馬鹿な!」
ゼノスが魔力を感知しようと、水車に手を当ててチリチリとした残滓どころか今も流れ続けている魔力を感じ、思わず息を呑んだ。
ゼノスは目を見開いた。
周囲に術者の気配はない。それなのに魔力だけが絶えず生まれ、魔石へ流れ込んでいる。
大人たちが騒然とする中、カイトは一人だけ納得したように頷いた。
(ああ……これは、発電機じゃな!)
カイトが前世の知識と目の前の現象を合致させた、まさにその時。
許容量を超えた自家発電の魔力が、限界を迎えた。
ドゥッ!!
くぐもった音と共に、魔石が弾け、カイトの手作りミニ水車の軸部分が外れ水車が壊れた。
シン、と静まり返る現場。
「……おい、本当に、『誰も魔力を流さずに』魔法が起きて魔石が割れちまったっていうのか!?」
バッカスが震える声で呟いた。
「川の水が……勝手に魔法を引き起こしただと……?」
ガイゼル総監が、信じられないものを見る目で川を見つめる。
そんな空気の中カイトが、思わずボヤいてしまった。
「あーあ……回しすぎちゃったか」
その何気ない一言を、魔法研究に人生を捧げてきたゼノスが聞き逃すはずもなかった。
「……カイト殿。なぜ『回しすぎた』と分かる?」
ゼノスの鋭い視線が、カイトに突き刺さる。
「あっ」
(やべっ、つい前世の知識が!)
カイトは咄嗟に口を塞いだが、時すでに遅し。
バッカス、ゼノス、そしてガイゼル総監という『魔法と軍事のトップ』たちの血走った目が、完全にカイト一人にロックオンされていた。
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