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第37話 異端査察団の襲来!

オデール領の関所には、ピリついた空気が漂っていた。


王都から『連邦の異端査察団』をエスコートしてきたガイゼル総監を伴い、真っ白な法衣を着た神官兵たちがズラリと並んでいる。


「連邦の査察団を歓迎いたします。当地を預かる領主、オデール伯爵と申します」


関所の門前で出迎えた伯爵に対し、先頭に立つマクシム査察官は挨拶もそこそこに言い放った。


「……ふん。我々は神聖なる連邦の査察団である。異端の疑いがあるという『要塞』とやらを、直ちに案内してもらおうか」


「それは異な事を」


オデール伯爵は、微塵も怯むことなく毅然と首を振った。


「我々は黒竜川の氾濫を防ぐための『河川工事』を行っているだけであり、そのような要塞などこの領地の何処にもありません」


「嘘をつくか! ならば、その『工事現場』とやらをこの目で見せてもらおう!」


息巻くマクシムを先頭に、一行はオデールの街の中へと足を踏み入れた。

案内を引き受けたオデール伯爵とガイゼル総監の後ろを、マクシムは周囲をギロギロと警戒しながら大人しくついていく。


やがて一行が街を抜け、小高い丘の道を登りきった時だった。

眼下に、黒竜川の河道短絡カットオフ工事現場の全貌が広がった。


山を無骨に削り出した巨大な階段ベンチカット。無数の作業員が蠢く広大な平場。完成したばかりの異様な形状の橋。


そして何よりマクシムの目を引いたのは、現場の中央にそびえ立つ『巨大な木製の天秤カウンターウェイト・クレーン』だった。


「な、なんだあの禍々しい装置は……!」


土木工事の知識などないマクシムの目は、その光景を『邪教の軍事拠点』と、そこにある防衛装置としか認識できなかった。


土木工事の知識などない彼にとって、あの巨大な天秤は『城を砕くための超巨大な投石機(攻城兵器)』にしか見えず、この場所はどう見ても間違いなく「邪教の巨大軍事拠点」だった。


「マクシム査察官? まだ案内は――」

「ええい、どけ!!」


ガイゼル総監の制止を振り切り、マクシムは血走った目で丘を駆け下り、工事現場の入り口へと猛然と走り出した。取り巻きの神官兵たちも慌ててそれに続く。


「貴様ら! ここで何の邪悪な儀式を行っている!!」


マクシムが喚き散らしながら、完成したばかりの橋に足を踏み入れようとした。


「責任者はどこだ! その禍々しい要塞の……ん? なんだこの橋は? おい、あそこの段々は要塞か? ええい、我々は調査を行う! 道を空け――」


マクシムが完成したばかりの橋に足を踏み入れようとした、その瞬間だった。


「こらーーっ!! 入っちゃダメ!!」


けたたましい声と共に、トテトテと短い足で走ってきたカイトが、マクシムの前に両手を広げて立ちはだかった。


「な、なんだ貴様は! どけ、子供!」


「どかない! まだ『欄干てすり』がついてないんだよ!? もし端っこを歩いて落っこちたらどうするの! 安全帯(命綱)もしてないのに!」


(……なんじゃこのおっさんたちは。本部のお偉いさんか、ISOの監査員か? それにしても、現場に入ってくるのに安全管理が全くなっとらんの!安全帽も被っとらんし!)


前世の現場監督としての血が騒いだカイトが合図すると、マルコたち南部のガチムチ衆が大量の予備の『黄色いヘルメット』を抱えてやってきた。


「おう、お前らも今日から親方の現場シマの人間か! 安全第一だぞ!」


マルコがマクシムの頭にポスッと強引にヘルメットを被せる。他の取り巻きの神官たちにも、ガチムチ衆が次々と物理的な力技で被せていった。


「なっ!? き、貴様! 神聖なる法衣に、この忌まわしき黄色の鉢巻(聖冠)を……ッ! 洗礼のつもりか!」


「アゴ紐もちゃんと締めてね! じゃあ、端っこ歩かないように、真ん中を白線に沿って進んでくださーい!」


屈辱に顔を真っ赤にしたマクシムが、怒りに任せてヘルメットを外そうとする。


その瞬間、カイトの愛らしい顔から表情がスッと消え、本物の『現場監督』としての凄みを見せた。


「……それは頭を守る帽子(保護具)だよ。被れないなら、この現場から出ていって」


六歳児から出ているとは思えない絶対的なオーラ。その異様な迫力に、マクシムが思わず気圧されて息を呑んだ。


それを見兼ねた視察団の兵士の一人が慌てて進み出ると、自分の鉄兜をマクシムに差し出し、黄色いヘルメットと素早く交換した。


「ま、マクシム査察官殿……! ここはひとまず、軍用の兜でご勘弁を……!」

「ぐ、ぬぅぅ……ッ!」


こうして、完全武装の異端査察団は、六歳の幼児による『安全指導』を突きつけられ、完全にペースを握られたまま現場へと足を踏み入れることになった。


「おじちゃんたち、これからこの工事の一番の『山場』をやるからね! 飛び石が当たったら危ないから、そこの安全柵バリケードの影に隠れててね。あと、すっごく大きな音が鳴るから、両手でしっかり耳を塞いで、お口を少しポカンと開けて見てるんだよ!」


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「続きの工事が気になる!」「マクシム、次はアンタが餌食だな!」と

思っていただけましたら、ページ下部より評価とブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!



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