第34話 留守番組の暴走! 爆誕フェルメール城
一方その頃、本拠地であるフェルメール領では、カイトの留守を預かる者たちの手によって、とんでもない建造物が完成を迎えつつあった。
場所は、泥靴村の粗朶道の入り口。旧広場に設置された、フェルメールの『西の玄関口』に当たる関所である。
カイトが遠征前に残していった図面に沿って作られたその建造物は、日に日に異様な大きさを増していった。
領主であるアルベルトは、日に日に巨大化していくその現場を見上げるたびに胃を痛め、本当に図面通りなのかと何度も職人たちに問い詰めていた。
「ゴドー! バルカス、ダン!これは……本当に関所なのか!?」
「い、いやぁ、旦那様。俺たちも坊ちゃんの描いた設計図に沿って寸分違わず作ってますからね。でも、坊ちゃんが関所だっていうなら、これは関所なんでしょう、ハハハ…!」
「そうです。ちゃんと予算の中でやってますよ。アハハ…!」
大工のゴドーや鍛冶屋のバルカスは黄色いヘルメットを叩きながら豪快に笑うが、アルベルトの目は誤魔化せない。
その『関所』は、門が異様に大きく、城門風の立派な大屋根がそびえ立っていた。
壁は白い漆喰で塗られ、屋根にはわざわざ王都から取り寄せた瓦が整然と並んでいる。
瓦の色こそこの世界らしい鮮やかなオレンジ色だが、もしここに地球の日本人が居合わせたら、誰もが声を揃えて「……お城?」と呟くであろう、三階建ての見事な和風城郭(天守閣)のデザインだった。
もちろん、機能性もカイトの図面通り(?)に無駄なく詰め込まれている。
関所の内部には、工兵隊の番所も併設されていた。
以前の工兵隊詰所が手狭になり、集会所を間借りして業務を進めていた。今回、詰所をこの関所の中に丸ごと格納した形だ。
中を覗いたアルベルトは、番所だけじゃなく倉庫や待機場まで詰め込まれているのを見て固まった。
「……ゴドー、番所の反対側にある、この倉庫とは別の広大なスペースは何だ?」
「ああ、そこですか? どうやら宿泊施設(宿場)らしいですよ。坊ちゃんの図面には『どらいぶいん』とか書かれてやしたが、旅人が飯を食って泊まれるようにしておくんだとか。さすが坊ちゃん、先見の明が違いやすぜ!」
「どらいぶいん……だと……?」
アルベルトは目眩を覚えた。
ただの通行税を取るための関所のはずが、カイトの趣味(和風城郭)と職人たちの過剰な熱量が合体した結果、フェルメール領の西に「難攻不落の城塞都市型の道の駅」が誕生してしまったのだ。
そこに作業が終わったロバートたちが工兵隊員と共に村に帰ってきた。
メリダやウド、ジョージにザックたちも一緒である。
「……フッ。ただいま戻りました、旦那様、ハルバード街道の工事も順調に進んでいますので、今日は工兵隊詰所の引越しをやってしまおうと思ってます」
「いや、ほんと壮観ですよね。百人は余裕で入れる詰所で、雨が降っても室内で朝礼出来ちゃいますから」
ジョージがいうとザックも続く。
「仮眠室もあるもんなぁ。図面にこっそり足しといて正解だっ――あっ」
「女子の待機部屋もあるっすよ! 誰も書き足してくれないからアタシが自分で図面に線引っ張っ――あ」
ザックとメリダが勢いで口を滑らせ、同時に自分の口を手で押さえた。
周囲の工兵たちが一斉に「お前ら何言ってるんだ」という顔でサッと血の気を引かせる。
アルベルトの額に青筋が浮かんだ。
「……おい待て。なんだ、その『こっそり足した』とか『自分で線を引っ張った』というのは。ゴドー、お前さっき寸分違わず作ってると言わなかったか?」
「い、いやぁ! 旦那様! 違うんです、これはその、若様の設計図をより完璧にするための、職人としてのちょっとしたスパイスと言いますか……!」
ゴドーが冷や汗を流しながらヘルメットを弄る。
事の発端は、カイトが「せっかく作るなら実用的な関所にしよう」と、すでに自重を忘れた豪華な図面を置いていったこと。
そしてさらに不味いことに、その図面を見たゴドーや工兵たちが、留守の間に、夜な夜なこっそり線とアイデアを書き足していったことだった。
「見張り台をもっと豪華にしよう」「旅人?のために、一日の疲れを癒す大浴場(お風呂場)もつけちまおう」「休憩場所ももっと広く」――そうやって、みんなの熱意という名の欲望が少しずつこっそり上乗せされた結果、図面は雪だるま式に膨れ上がり、この巨大関所へと至ったのだ。
アルベルトがジロリと工兵隊を睨みつけると、一同はピシッと直立不動になる。
「……はぁ。もう建ち始めてしまっているものは仕方ないが、後で全員、執務室に来るように。予算の出処をじっくり聞かせてもらおう。そもそも、この村の財布の紐は、クラーク殿がガッチリと握っているはずだ! あの厳格な彼が、こんな暴挙の予算をポンポンと通すわけが……」
アルベルトが吠えるが、ゴドーをはじめとする職人や工兵たちは、非常に気まずそうにスッと目を逸らした。
「……おい。なぜ目を逸らす」
「い、いやぁ。それがですね……クラーク様には、この関所の三階の一番見晴らしの良い場所に、『丘にある領主屋敷よりも現場に近くて、現場が一望できる専用のコッソリ執務室』をご用意するという条件でして……」
「なっ!?」
「……あの方、毎日領主屋敷からここまで降りてくるのがしんどいとこぼしておられまして。ええ、そりゃあもう、ノリノリで俺たちの要望も『現場の士気向上のための福利厚生費』としてハンコを押してくだすって……」
「あのクソ真面目な内政官まで買収しただとぉっ!?」
アルベルトの絶叫が虚しく響き渡る。
どんよりと肩を落とすアルベルトと工兵たちの中、ウドだけがなぜか「コクコクコクッ」と深く頷いていた。
「ウドッち、なんで女子部屋の話のところからずっと頷いてたの?」
ジョージの冷ややかな声に、ウドがハッと我に返って思いっきり首を横に振る。
「(ビクゥッ!ブルブルブルブル!)」
「コホン。と、ところで旦那様。若様のオデールの現場は上手く行ってそうなんですか?」
ロバートが強引に話題を変えると、アルベルトは苦笑混じりに深くため息をついた。
「ああ、クララからは定時連絡の手紙が来てるが、ハッパ魔法で山を崩す作業が始まった様だ……」
「え、なんスかその面白そうな魔法!それ、アタシもやって見たいっス!」
「「「「絶対やめろっ!」」」」
***
オデール領工事現場。
「……っくしゅん!」
黒竜川大橋の現場で橋脚の強度をチェックしていたカイトは、小さく可愛らしいくしゃみをして、短い腕で鼻をこすった。
「おや、カイト君。風邪かい?」
コンラッドが心配そうに覗き込んでくるが、カイトは首を横に振る。
(……いや、風邪ではないのう。なんだか、本拠地の仕事として残してきた関所建設にとんでもない魔改造をされとるような嫌な予感がしたんじゃが……)
カイトは小さく頭を振って、前世のベテラン現場監督としての理性を呼び覚ました。
(まあ、あやつらに渡したのは木造の門と、番所の図面じゃ。ああそういや、後に必要になるじゃろうとドライブインも追加して二階建てにしたんじゃったか。いくらなんでも、ただの詰所の引っ越しでそこまで変にはなってないじゃろう。和風っぽいデザインだし改造するのは難しい……うん、気のせいじゃな!)
内心の爺さん言葉とは裏腹に、カイトは幼児の愛らしい笑顔をコンラッドに向けた。
「なんでもないよー! ちょびっとお鼻がムズムズしただけ! 工事、どんどん進めようねー!」
本日もお読みいただき、ありがとうございました!
この回はSSにしようかと悩んだのですが、本編に入れてしまいました。
カイトに毒された職人たちの暴走です。SSも二本書きましたので、第一章終了後に投稿します。
もし「面白い!」「続きの工事が気になる!」「粗朶道が王都に直結した時にカイトが言ってた関所ってこれか!」と思っていただけましたら、ページ下部より評価とブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!




