第33話 川底の転圧と竹筋ブロック
「よーし! 第三ベンチ、最後のお掃除いくよー!」
ドッゴォォォン……!!
地響きと共に、ついに一番下の階層――黒竜川の新たな水路となる『川底』が完全に貫通した。
三段のベンチカット工法により、巨大な岩山は見事に切り拓かれ、広大で真っ直ぐな谷間が姿を現している。
(ふぉふぉふぉ! 見事な貫通じゃ! だが、ハッパで吹き飛ばしたままの川底じゃと、岩がゴツゴツして乱流が起きるからな! ここからが仕上げじゃ!)
黄色いヘルメットを被ったカイトが、コンラッドの肩車の上からビシッと扇子(代わりの木の枝)を突きつける。
「まずは細かいチリを飛ばすよ! 第一小隊、かまえー!」
「「「おうッ!」」」
カイトの可愛らしい号令で、工兵たちが一斉に『エアバズーカ(魔導ブロワーガン)』を小脇に構えた。
ズゴォォォォォッ!!
収縮効果による圧倒的な風圧が、ハッパで出た岩くずや粉塵を綺麗に吹き飛ばしていく。
現れたのは、黒光りする磁鉄鉱の硬い川底だ。
「よし! 次は床均しだよ! 先行組はツルハシで大きい出っ張りを削って! 散水組はお水撒いてー!」
カイトの指示で、乾いた磁鉄鉱の岩肌にサァーッと水が撒かれ、削りカスがペースト状に変わっていく。乾燥による摩擦と鉄板の摩耗を防ぐための、土木の基本「水締め」だ。
「さあ 『魔導アイロン』の出番だよ!バッカスおじちゃん、準備お願い!」
「任せな! 」
「ああ!」
バッカスとゼノスが、エリート工兵と一緒に 『魔道アイロン』を川底に設置する。先ほどエアバズーカで岩クズを引き飛ばしていた工兵たちがそれを片付けて、川底に鎮座する巨大なソリ型振動機に手をかざす。
「起動!!」
厚さ十セル、八百キロを超える鉄のソリ。
その内部には、バッカスとゼノスが跳躍の大きな魔石を埋め込んだ振動回路が組み込まれている。
工兵たちが魔力を流し込んだ瞬間、螺旋を伝う魔力のわずかな時間差が、百の魔石を高速かつ連続で起爆させた。
キィィィィィィンッ!!
現場の空気がビリビリと震え、鼓膜を劈くような高周波の金属音が鳴り響いた。
粘土と外郭シリンダーによって上や横への衝撃の逃げ場を塞がれた振動は、指向性を持って一番下の『十cm厚の鉄板』へと極集中する。
「うおおおっ、すげぇ震えだ!!」
「跳ねるな! 重さで抑え込め!」
凄まじい死荷重と、波のような高周波振動。
圧倒的な質量の連続打撃を受けた硬い磁鉄鉱の岩肌が、ペースト状の岩粉と共に擦れ、削れ、悲鳴を上げて沈み込んでいく。
「いけェ! ソリを引けェェェッ!!」
「「「そーれッ! 一、二! 一、二!!」」」
百人の工兵たちが太いロープを握り、掛け声と共にソリを一気に引っ張る。
キィィィィンという高音の地響きを立てながら、重厚なソリが川底をゆっくりと滑っていく。
ソリが通り過ぎた後には、先ほどまでのゴツゴツとした岩肌が嘘のように、磁鉄鉱が黒光りする真っ平らな川底が出来上がっていた。
「す、すごい……! 魔法の破壊力ではなく、連続する高周波振動と質量で、あの硬い磁鉄鉱の岩盤をねじ伏せ、完全に『馴染ませて』しまったのか……!」
コンラッド中尉が、その圧倒的な工法と出来栄えに戦慄する。
「大成功! これだけ平らなら、お水を通しても変な渦が起きないし、何より橋の土台をピタッと置けるよ!」
「よーし野郎ども! 若様と工兵隊が作ってくれた最高の舞台だ!世界一精密な橋を架けてみせろォ!」
カイトの声に反応したマルコが南部のガチムチ衆にハッパをかける。
「「「おうッ!!!」」」
カイトの歓声と職人たちの怒号が、青空に響き渡る。
ここから先は、彼ら職人たちの独壇場だった。
乾いた新水路の底には、職人たちが組み上げた巨大な三脚式の起重機がそびえ立つ。
そして川岸の作業場から、丸太のコロに乗せられた裏のヤードで作っておいた『竹筋コンクリート』の基礎ブロックや、あらかじめ組み立てられていた橋桁が次々と運び込まれてきた。
現場で一から作るのではなく、安全な地上で規格通りに作っておいた部材である。
「そーれ! 滑車、巻き上げッ!」
「ロープ張力よし! ゆっくり下ろせ!」
この工程では魔法に頼らない。
太い丸太のコロと無数の滑車だけを使い、数トンはある橋の部材が少しずつ定位置へと運ばれていく。
ガァンッ!
最初の橋脚となる巨大な基礎石が、ソリ型振動機で真っ平らに均された川底へ据え付けられた。
職人が慎重に水準器を当てる。
「……東側が少し高い! 縄を緩めろ!」
「了解!」
ギギギッ……
滑車がわずかに動き、基礎石の位置が修正される。
再び水準器を確認した職人が、今度は満面の笑みで叫んだ。
「よし! 水平だ!」
「決まったァ! 次の橋脚持ってくるぞ! コロを並べろ!」
ミリ単位のズレも許されない橋の接合において、土台が完璧な水平であることは絶対条件だった。
計算された継ぎ手が、寸分の狂いもなく噛み合っていく。
「信じられない……陸上施工とはいえ、こんな速度で橋脚が出来ていくなんて……」
「これが、規格化と、完璧な基礎工事の恐ろしさか。一つ一つのパーツを先に作っておくことで、一番危険な現場での組み立て作業の時間が劇的に短縮されている……!」
コンラッド中尉が戦慄する横で、カイトは「ヨシ! 安全帯のフックよし!」と指差呼称を徹底させながら、最高の笑顔で現場を指揮し続けていた。
本日もお読みいただき、ありがとうございました!
近所で○○ハイムさんが家を建てているのを見ていたのですが、基礎や部材を先に作っておくと、
現場では本当にあっという間に家が組み上がっていくんですよね。
そんな様子を見ながら「プレキャストの橋も似たような感じなんだろうか」と思って書いていました。
また、誤字報告をしてくださった皆様、ありがとうございます!
調子に乗って更新すればするほど誤字が増えている気がします……。いつも助かっております!
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