第26話 黄色い悪魔とカルト集団
森の奥に潜んでいた斥候部隊は、かつてない恐怖に打ち震えていた。
「……見ろ。あの黄色い兜の集団……魔法が終わった後、笑ってハイタッチしてやがる。人を魔法で吹き飛ばしておきながら……なんとも思ってないんだ。狂ってるよ。オレだって人と戦う時、何度も頭の中を過るのによぉ。どんな化け物だ、王国軍の工兵というのは……!」
「いや、あの黄色い方は、どう見ても王国軍の工兵じゃないだろ。なぁ、アイツら、変な宗教か、カルト集団なんじゃないか?」
「そ、そうかもしれないな。あっ、おい、見てみろ。あんな小さな子供が大人たちに指示を出してる。しかもアイツら子供の言うことに全く逆らってないぞ。しかも敬礼してやがる。もしかしたら、あれが教祖なんじゃないか?」
工事現場は、爆破後の瓦礫整理に入っていた。
カイトは黄色いヘルメットを被り直し、満足げに周りを見回す。
(ふぉふぉふぉ、二段目のベンチカットも順調じゃ。硬い岩盤をハッパでパカッと割って、風で一気に飛ばす……これぞ魔導土木の醍醐味よ。よし、次は新兵器登場だな)
「よし、新兵器、エア・バズーカの出番だよー!」
カイトが無邪気に手を挙げると、工兵隊の後方から二十名の兵士が整然と並んだ。
彼らが抱えているのは、カイトが王都で考案した「エア・バズーカ」——風の魔石を内蔵した大型ブロワーだ。太い金属筒の後部にストックが付き、腰に構えやすい形状になっている。
筒の側面に開いた四つの大きな吸気穴から空気を大量に取り込み、通常の三倍の風量を一気に噴射する。
この筒を構えた時、カイトが『バズーカみたい』と言った事からこの名前がついてしまった。
「し、新兵器、おい、魔道兵が何か持ってるぞ!」
「なんだ、あのヤバそうな武器はっ!」
「コンラッドおにいちゃん! あっちに、『ゴミ』がいっぱいあるよー! ぜーんぶ、吹き飛ばしちゃって!」
カイトは森の境界線を小さな指で指差した。爆破で飛び散った岩片や土砂が、ちょうど工作部隊が潜む茂みの手前に散乱している。
「ははは、了解しましたカイト様! 確かにあそこには、先ほどの爆破で飛んだ余計な『残骸』が散らばっているようです。……よし、工兵隊、排土の最終調整だ! エア・バズーカを最大出力で、あの森の境界線に向けてぶちかませ!」
「「「イエッサー!!」」」
工兵たちが肩にかけてあったエア・バズーカを次々に手に持ち替え、腰に筒を構えた。
「……おい、聞いたか? あの教祖の子供が今、俺たちのことを『ゴミ』と呼びやがったぞ……!」
「『全部、吹き飛ばしちゃって!』だと!? まさか、俺たちがここに潜伏しているのを完全に把握した上で、遊び感覚で殲滅しようとしているのか!?」
「俺たち、ただの的扱いかよ!うわ、こっちに照準を合わせやがった!!」
斥候たちは、ガタガタと歯の根が合わないほど震えていた。彼らの目には、カイトがただエアーブロワーガンで「瓦礫の清掃」を指示しているだけだとは到底信じられなかった。
そこに、遅れて州総督の率いる本隊も到着し、総督が苛立たしげに茂みを掻き分けて姿を現した。
「ええい、何をモタモタしている! 早く要塞に火を……お前ら、どうしたんだ。顔が真っ青だぞ!」
「総督閣下! 逃げましょう! 王国軍の工兵……いや、あの『黄色い兜の狂信者』どもは、人間を人間と思ってません。狂ってます!さっきも笑いながら人を魔法の餌食にしてました!」
「そうです。俺たちを人間として見ていません! 単なる『処理すべき廃棄物』として、魔法の実験台にしようとしています!狂信者ですよ!」
「ま、待て……まだだ。まだ王国軍が俺たちを『敵』として認識して……」
その時、工事現場から凄まじい風の唸り声が聞こえてきた。
(ふぉふぉふぉ、溜まった瓦礫を一気に「掃き出し」てやるわい。安全第一、整理整頓。これこそが現場の鉄則じゃからな!)
「いくよー! おそうじエア・バズーカ、しゅっぱーつ!!」
ズォォォォォォォォォン!!
魔法が使える工兵二十名が一列に並び、腰に構えて放った風の塊が、土砂や小石を巻き込みながら、工作部隊が隠れている森の入り口へと一直線に飛んでいく。
「ありゃ楽しそうだぞ、しかもスゲェ威力でゴミがすっ飛んでいくぞ!」
「くそーっ、いいなぁ、一気にブッ飛ばすのは男のロマンだぜ!オレもゴミ吹き飛ばしたいぜ!」
「ぐあああああッ!? 魔法攻撃だぁぁぁ!!」
「やっぱり狙われてる! あのガキ、笑いながら俺たちを掃除しようとしてやがる!!」
森の木々がバキバキとへし折れ、飛んできた小石が散弾のように工作員たちの周囲を削り取る。
「閣下! 撤退です! これ以上は自殺行為だ! あの『要塞』を守っているのは、慈悲の欠片もない殺人狂の魔法集団です!!」
「……わ、分かった。全軍、撤退だ! 王国軍は……王国軍は、正体不明の『黄色い悪魔』と契約を結んでいるぞ!!」
ガスパール州総督は、もはや国旗を立てる誇りなど微塵もなく、泥まみれになりながら森の奥へと逃げ出した。
一方その頃、工事現場では。
「わーい! きれいさっぱりになったねー!」
カイトは黄色いヘルメットをクイっと上げると、満面の笑みで手を叩いていた。
「みんな、えらいえらい! これで現場がすっきりしたよー!」
コンラッド中尉が爽やかな笑顔で報告する。
「残骸は完全に排除しました。次は三段目の掘削に移行します!」
「よし! 次はマルコおじちゃんたちの出番だよ! 壁が崩れないように、竹の網(沈床)を張ってね!安全第一で、きれいにやろうね!」
マルコはニッと笑うと、背後の南部衆たちに向かって拳を突き上げた。
「泥靴村で親方から叩き込まれた技術を見せつけるチャンスだ! ここの竹はしなりが良くて最高だってところを見せるためにも、ビシッと編み込んでいくぞ!」
「「「おうっ!!」」」
平和な土木作業の声が、オデールの空に明るく響き渡っていた。
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調子に乗って更新すればするほど誤字が増えている気がします……(汗)
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