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第24話 誤認されたオデール工事現場

ドミナリア連邦内のクーデターに敗れたガスパール州の総督は、もはや中央政府に従う意思を完全に失っていた。


彼が選んだのは、新政権を内側から崩すための、極めて悪質な手段だった。


アルテリウム王国への小規模侵入と襲撃――ただし、掲げる旗はガスパール州のものではなく、「連邦の正規国旗」である。


正面から大軍で侵攻すれば、ヴァルデン辺境伯の軍に瞬殺されるのは目に見えていた。


だからこそ彼は、数十人規模の工作部隊を自ら率いて王国領内に忍び込み、村や街道を荒らしては即座に姿を消す。痕跡だけを残し、すべての責任を新政権に押し付ける。


それはもはや戦争ではない。新政権を王国の怒りに晒すための“自暴自棄な嫌がらせ”だった。


最初は、国境付近のヴァルデン辺境伯領の村を襲った。

辺境伯軍が駆けつける前に連邦の旗をわざと残して撤収し、目論見通り、両国間には一触即発の緊張感が漂い始めていた。


そんな時、潜伏中の諜報員から、ガスパール州総督のもとへ一本の連絡が入る。


「――王国の正規軍らしき部隊が、南のオデール領へ入り込んでいます。

野営地の建設はすでに完了し、現在はΩカーブの首の部分に大規模な要塞を建築しようとしている模様。


王国軍の工兵隊約百五十名の他に、黄色いヘルメットを被った地元のものと思われる者たちが三百名近く加わり、総勢四百五十名を超える規模で作業を進めており、大量の工作資材も搬入済み。さらに、離れた高台では、別働隊が『巨大な長方形の梯子の様なもの』と『石と木のパネル』(橋桁と床版)』を異常なペースで大量生産しております!」


その報告に、州総督は地図を開き、目を細めた。


「……工兵が百五十、民夫が三百。しかも大量の資材まで運び込まれているだと?それに梯子と、石と木のパネル…か」


「はい」


「ふん。王国軍が防衛拠点でも築いているのだろう。ん…待てよ」


州総督の唇がゆっくりと歪んだ。


「好都合だ。ただの村を焼くより、王国が威信をかけて建造している『要塞』を破壊した方が、アルテリウムの怒りはより大きく燃え上がる!」


彼は腰の剣の柄を叩き、暗闇に潜む部下たちへ低い声で命じた。


「全工作部隊に伝達せよ。オデール領近辺に集合させろ。

これまで散らばっていた数十人規模の部隊をすべてまとめ、総勢百名で一気に叩く。目標は建設中の要塞と資材だ。もちろん……焼け跡のど真ん中に、『連邦の旗』を立ててな」



***


一方その頃、自分たちがテロリストの標的に設定されたことなど露知らず。オデール領のΩ(オメガ)カーブには、夜明けとともに小気味よい槌音と、男たちの怒号が響き渡った。


「よし、測量は終わったぞ! ここからあっちの杭まで一直線だ! 左右五メルずつ、まずは表土を剥がせ!」


カイトの指示を受けたコンラッド中尉が、工兵隊とマルコたち南部衆に命令を下す。軍の精鋭と地元のガチムチ衆、さらに泥靴村の古参兵が混ざり合った、異例の混成部隊による「河道短絡工事」の始まりだった。


カイトは黄色いヘルメットを被り直し、図面を片手に現場を歩き回る。


(ふぉふぉふぉ。工事の基本は『段取り』と『地縄張り』じゃ。まずは新しい川が通るルートをはっきりさせんと、仕事にならんからな)


工兵や南部衆が縄に沿ってスコップを振るい、新水路となるラインの草木を根こそぎ取り除いていく。


カイトは、手元の図面をコンラッド中尉とウォルターとマルコに見えるように広げた。


「おじちゃんたち、『だんだん』に掘るんだけど、いっぺんに深く掘ると、横が崩れてあぶないからね!かべは、ななめにしてね」


カイトが指示した工程は、昨日、打ち合わせた「ベンチカット工法(段丘掘削)」である。


そして、掘り返した大量の土砂は、将来的に旧河道を閉鎖するための「堤防」の資材として、決まった場所に積み上げられていく。


(まずは上から一段ずつじゃ、階段を作るように掘り下げていく。これなら足場も安定するし、一度に大勢が作業できる。何より、万が一の雨でも水が溜まりにくいからのう……。さて、総勢四百五十人のマンパワー、どう振り分けるかのう)


カイトは幼児らしい舌足らずな声で、しかし的確に人員を割り振っていく。


「こっちの兵隊さんは、スコップでガリガリ! 南部の力持ちさんは、モッコで土をぽいぽい運んで! ガンタとサジおじちゃんは、掘ったところが くずれないか見ててね!」


「了解! 皆、いいか! 一段目のベンチ、日没までに形にするぞ!」


コンラッド中尉が力強く敬礼し、現場の熱気はさらに高まった。

大規模な土木工事の音が、平和なオデールの空に響き渡る。


一方、カイトから指示を受けた裏のヤードでは、奇妙な作業が始まっていた。ガンタたちが巨大な鉄鍋でオデールの竹をグツグツと煮込み、油を抜いていく。


「竹が煮えたら、次はこの黒いドロドロを塗ってねー!」


カイトが持ち出したのは、以前『アポーツ』の魔法で取り寄せた、強烈な匂いを放つ真っ黒なタールだった。


「あ、この匂い!粗朶道で罠を作った時、丸太を固定した時に使った油っすか」


「うん、水の中で長持ちするからね」


職人たちは驚きつつも、引き締まった竹の表面にそのドロドロのタールを塗りつけ、細かい砂をまぶしてザラザラにしていく。


「おい、タールが乾いたぞ! 木枠の中に並べろ!」


「よし、セメント流し込むぞ! 気泡が残らないようにしっかり叩け!」


王都から持ち込んだカイト配合のセメントが、竹を配置した型枠の中に次々と流し込まれていく。


軍の兵士たちから見れば「ただの泥遊びと謎のブロック作り」にしか見えないその作業だが、親方の指示とあらば、泥靴村で鍛えられた南部衆たちは一切の妥協なく極上の品質で仕上げていくのだった。


しかし、それら音は、着実に近づきつつある「ガスパール州工作部隊」の足音をかき消してしまっていた。


工事現場から南へ五百メル離れた森の境界付近。

ガスパール州総督率いる工作部隊の先行組が、木々の合間から現場を凝視していた。


「……要塞だと言ったが、あれは何だ? 溝を掘っているようだが……」


「多分、要塞の外堀にするのではないでしょうか?また土塁の様なものも作っています」


「なるほど、だとしたら相当な規模の要塞を建設するつもりか?しかし派手な兜を被りおって、なんだあれは……王国軍の新装備か?」

本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「なんかきな臭い!」「いよいよ工事が始まるぞ!」と思っていただけましたら、

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