第22話 「ハッパ」完成!ドン引きの破壊力
「じゃあ、みんないくよー! せーの……はっぱーー!!」
カイトが元気よく叫び、手元のミスリルクリップをぎゅっと握りしめた。
五等魔石に刻まれた待機回路が数秒の静寂を生み出し、空気を極限まで圧縮していく。
そして――。
ドガァァァァァァァァァン!!
という轟音とともに、大岩が木っ端微塵に吹き飛んだ。
百メル先の岩陰に隠れていた面々は、揃って凍りついた。
ケッセルベルク軍務局長閣下、魔導部部長のルシウス伯爵、ルドルフ大佐、アルベリウス大佐……全員が、顎が外れたように口を大きく開けて驚愕に固まっていた。
そんな中、バッカスとゼノスだけは爆破された場所に戻ると爆発の規模や方向などのデータを採っていく。
銀貨一枚の魔石を二つ使い捨てるコストが掛かる魔法であるとはいえ、それは彼らが知る『エクスプロージョン』を遥かに凌ぐ爆発力だった。
もうもうと立ち込める土煙が風に流されていく中、コンラッド中尉がコルクの耳栓を外しながら、落ち着いた声で説明を始めた。
「ご覧いただいた通り、これが新魔法『ハッパ』です。
短時間で硬い岩盤も木っ端微塵に割ることができるため、山を切り開くような大規模な地形改変や、川の流れを変える工事に非常に適した魔法だと考えております」
コンラッドは、手元の図面を広げながら続けた。
「具体的には、オデールのΩの首の部分に直線の溝を事前に『ハッパ』で掘り、その上に橋を完全に『陸上施工』します。橋の完成後、両側の堤防部分を『ハッパ』で爆破すれば、一気に水を新水路に通すことができます。
これにより、これまで危険を伴っていた水中基礎工事や仮設工事のほとんどを省略し、工期とリスクを大幅に削減することが可能です」
ルシウス伯爵は、震える指先で粉砕された岩の跡を指さし、何度も口を開けては閉じた。
「こ、これほどの……いや、あんな五等級のゴミのような、ただの『石』に……!?しかもそれを、あんな薄汚い銅線で、遠くから操るなど……魔導の冒涜だぞ!」
ようやく絞り出した声は、プライドまで爆破された悲鳴に近い声だった。
「おやおや、冒涜かね?」
ケッセルベルク軍務局長閣下が、愉悦を隠しきれない様子でルシウスの肩を叩いた。
「私はむしろ奇跡に見えるがね。君たちの誇る魔導部隊を一人も動かさず、銀貨二枚でこれだけの障害を排除できるのだ。軍務局として、これほど安上がりで効率的な『魔法』はあるまい」
ルシウス伯爵は顔を激しく歪めた。
「魔法……ですと?局長、これは魔法などではありません!魔石を使い捨て紛い物の銅線を使った、粗雑な工事の道具に過ぎません!それを『魔法』などと呼ぶなど……断じて認められません!」
公爵は小さく笑いながら、ゆっくりと首を振った。
「ほう? ではルシウス卿、君の言う『本物の魔法』で、同じことができるかね?山を消し、川の形を変えるほどの破壊力を、即座に発揮できるか?」
ルシウス伯爵は言葉に詰まった。
エクスプロージョンを遥かに上回る爆発力。しかも銀貨二枚で。
それを「魔法ではない」と言い張ることは、もはや自分の専門分野を自分で否定することに他ならない。
「……ぐ……ぐぬぬ……」
ルシウスは唇を震わせ、顔を真っ赤にしたり青くしたりを繰り返した。
立つ瀬が完全に無くなっていた。
その横で、カイトは黄色いヘルメットを直し、無邪気な声を上げた。
「ルシウスおじちゃん、お口に 虫さん 入るよ? びっくりしちゃった?」
「ぐ、ぐぬぬ……フェルメールの小僧……貴様……!」
(ふぉふぉふぉ、ええ顔じゃ。齢七十程度の小僧が粋がりおって。プライドを飯の種にしとるインテリが、一番見たくないもんを見せつけられた顔じゃな。魔石を『使い捨て』にする贅沢さに、専門家としての嫉妬が混ざっとるのも透けて見えるわい)
カイトは内心でケラケラと笑いながらも、にこにこ笑顔で追い打ちをかけた。
「こんどね、山もドカーンってするの。ルシウスおじちゃんも、いっしょに 見にいく? たのしいよ!」
「誰が……誰がそんな泥遊びを見に行くものか!」
ルシウス伯爵は吐き捨てるように言ったが、その視線は足元に転がっている「使い古されたミスリル導線」に釘付けになっていた。
ケッセルベルク軍務局長閣下は満足げに頷いた。
「コンラッド中尉。魔道兵二十名を今日から工兵隊に配属させる。その『ハッパ』とやら、オデール領での実戦投入、速やかに手配せよ」
ルシウス伯爵は最後にもう一度だけ口をパクパクとさせたが、もはや声すら出ないようだった。
***
王都での「ハッパ」実証実験の大成功から数日後。
この大工事を成功させる為に、魔導アイロンやエア・バズーカと呼ばれる新たな魔導重機を作っていた。
その他にも、魔法を使わずに、てこの原理を応用した装置も作り出した。
カイトは軍務局が用意した宿舎でバッカスやゼノスと別れ、コンラッド中尉の馬車で王都の別邸へと帰還していた。
「ただいまー! 母様!」
玄関の扉を開け、無邪気な声で叫ぶカイト。その後ろからコンラッド中尉が一歩遅れて入ってきた。
エレナはすぐに姿を現したが、今日はいつもと少し違っていた。
彼女の斜め後ろに、見慣れないメイドが一人、静かに控えていた。
「カイト、ちょっと来て」
エレナは息子を手招きすると、重いため息をついた。
「あなたが子供とはいえ、国の大事な仕事を任されていることは分かっています。でも……やはり母親としては心配で仕方ないの。だから、実家に無理を言って、私が一番信頼できる者を呼んでもらいました」
エレナが視線を向けると、そのメイドがキビキビとした動きで一歩前に出た。
「初めまして、若様。クララと申します。これからどうぞよろしくお願いいたします」
クララはエレナより明らかに年上で、白髪の混じった髪をきっちりまとめ、背筋がピンと伸びていた。
立ち振る舞いからして、メイド長と言っても遜色ないベテランだ。
母が結婚する前にベルノー家でエレナの専属メイドをしていた人物で、リーザのかつての上司に当たるらしい。
(ふぉふぉふぉ……こりゃあ、隙のない玄人が来たもんじゃな)
カイトは内心で小さく笑った。
(お母様は軍の仕事を断れないと分かっとるからこそ、実家のジイ様を頼って「最高戦力」を寄越したわけか。リーザの元上司っちゅうことは、いわば『メイドの親方』みたいなもんじゃ。所作の端々から現場を仕切り慣れとる匂いがプンプンするわい)
コンラッド中尉が居住まいを正して一礼した。
「エレナ奥様、クララ殿。カイト殿の身の回りのこと、どうかよろしくお願いいたします」
「承知いたしました。中尉殿」
クララは表情一つ崩さず、キリッと答えた。
その完璧な受け答えに、カイトは内心で少し背筋が伸びるのを感じた。
(こりゃあ……うかつに宿屋のベッドでお菓子とか食い散らかせんぞ……)
エレナはまだ心配そうな瞳を隠せずにいたが、それでも小さく頷いた。
「クララがいれば、私も少し安心できるわ。……カイト、来週からまたオデール領ね。体だけは気をつけて」
「うん! わかったよ、母様」
こうして、エレナの親心とベルノー家が送り込んだ強力なサポートを得て、カイトはいよいよオデール領・黒竜川のカットオフ工事へと出立することになった。
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