第17話 極秘の金庫と「開発者」の再会
重複部分削除しました。
王城・北門の面会受付。
カイトが背伸びをして受付の番兵に「ルドルフ大佐か、コンラッドお兄ちゃんをよんで!」とお願いすると、しばらくして慌てた様子のコンラッドが小走りでやってきた。
「カイト君! どうしたんだい、急に。それにそちらの……」
「この人は、バッカスおじちゃん! カイトの村の、すごい職人さんだよ! あのね、コンラッドお兄ちゃん。きのうのキラキラの石、バッカスおじちゃんに みせてあげて!」
カイトは無邪気な笑顔で、コンラッドと共に工兵部の執務室へと入り、例の金庫を指差した。
(このバッカスに魔石の刻印を見せれば、すぐに発破用に書き換えてくれるはずじゃ!)
しかし――コンラッドはカイトとスッと目を合わせると、片膝をついて真剣な瞳で諭すように言った。
「カイト君。この魔石は、一応、魔導部から借りる事は出来たけど……軍の人以外は『極秘』なんだよ」
「……えっ?」
「君は特別に許可が出ているけれど、知らない人に見せてはいけないものなんだ。いくら君の村の職人さんでも、見せるわけにはいかない。ごめんね」
規則に忠実なコンラッドの正論。
さすがのカイトも、軍の機密管理の壁までは突破できず、ショックで言葉を詰まらせた。
「えっ……ダメなの?」
せっかくインテリメガネの天才を村から呼び寄せたのに、実物を見せられないのでは解析も魔改造もできない。完全に手詰まりだ。
カイトが絶望しかけた、その時だった。
後ろで腕を組んで話を聞いていたバッカスが、フンと鼻を鳴らして前に出た。
「なんだ坊主。俺に見せたい極秘の魔石って、三つセットの『エクスプロージョン』のことか?」
「えっ? あ、ああ、そうだけど……なんで知っているんだい?」
コンラッドが目を丸くする。
バッカスは中指でクイッとインテリ眼鏡を押し上げると、コンラッドに向かってニヤリと不敵に笑った。
「なんだ、見られないのかと焦ったが……それなら現物なんて見る必要もねぇよ。俺もその基本術式の開発者の一人だったんだからな」
「…………は?」
コンラッド中尉の口から、間抜けな声が漏れた。
軍の最高機密であるエクスプロージョン。その開発者が、目の前にいるホコリまみれで不機嫌そうな職人だというのだ。すぐには信じられるはずもない。
「か、開発者の一人……? あなたが、ですか?」
「ああ。昔、軍に頼まれて、魔導部の奴らと一緒にこの刻印の開発をやってたんだよ。守秘義務があるから、今までわざわざ自分から話さなかっただけだぜ」
バッカスはフッと息を吐き、呆然とする工兵部のコンラッドを見下ろして言葉を続けた。
「いや、最初の仕様の『エクスプロージョン』ってのは、術者の魔力を一瞬で空っぽにしかねない無茶苦茶な魔法だったんだよ。今は一般的な魔導師なら問題なく撃てる程度になってるが、当時俺は、その制御の難しさに頭を抱えていた術者たちを見ていてな。……自分の研究として、術者の命を守るための魔力の予備タンクとして『蓄魔の腕輪』も作ってたんだよ」
「えっ、そういう理由でこれ作ってたの!?」
カイトが自らの腕にはめられた腕輪を指差し、目を丸くする。お披露目の儀式でこの腕輪を下賜された当時は、まだバッカスとは深い付き合いがなく、彼が製作者だとは知らなかったのだ。
「ああ、俺の最高傑作の一つだ。……だがな、その試作段階で、うっかり『触れた者の魔力を限界まで吸い出して、ただ大気中に捨て続ける』っていうタチの悪い失敗作ができちまってな。俺はすぐに叩き割るつもりだったんだが……当時の軍の上層部が妙にそれを気に入って、その失敗作を回収していきやがった。今じゃ軍の暗部でどう使われてるか知らねぇがな」
バッカスは忌々しそうに顔をしかめると、再びコンラッドに向き直った。
「信じられないんだったら、魔導部に問い合わせてもらってもいいぜ。アルベリウスに俺の名前を言えばいい。その失敗作を回収して行ったのがアルベリウスだからよ!」
「ま、魔導部副部長のアルベリウス大佐と……!? そ、そういう事でしたら……!」
機密の出所である『魔導部』のナンバーツーの名前、そして「守秘義務を律儀に守っていた」という事実を出され、コンラッドは完全に圧倒された。
目の前の男は「部外者」どころか、この魔石の「生みの親」であり、魔導部副部長の元同僚(開発メンバー)なのだ。
「当たり前だ。基礎術式なら俺の頭の中に完璧に入ってるからな」
バッカスはインテリ眼鏡を中指で押し上げると、カイトを見下ろしてニヤリと笑った。
「で、坊主の事だから、その魔法を元に別の事を考えてるんだろう?」
「うん! だから、この石になんて かいてあるか しりたいの!」
カイトの無邪気な、しかし明確な要求。
バッカスは一瞬だけコンラッドの方へ視線を向け、「こいつに喋っちまってもいいのか?」と無言で目配せをした。いくら自分が開発者とはいえ、軍の施設内で機密を漏らすには筋を通す必要がある。
コンラッドは一つ深呼吸をすると、カイトの目の前で片膝をつき、真剣な目で見つめた。
「カイト君、これは秘密なんだ。誰にも話さないと約束できるかい?」
「だいじょうぶ! 『せいやく』するんでしょ?」
「えっ……? あ、ああ、そうだね。誓約書を書いてもらうよ」
六歳の子供から飛び出した『誓約』というお堅い単語にコンラッドは一瞬面食らったが、コクリと頷きを返した。
(ふぉふぉふぉ! ゼネコン勤めじゃったワシに、守秘義務契約書(NDA)の結び方を説こうとは百年早いわい。サインならいくらでもしてやるぞ)
カイトが余裕の笑みを浮かべていると、バッカスが周囲を気にするように首を振った。
「じゃ、どこか部屋を貸してくれ。ここで立ち話はまずいだろう」
***
コンラッドの案内で、三人は工兵部の奥にある応接室へと移動した。
カイトは工兵部から数枚の紙とペンをもらい、それをバッカスの前に広げた。
「あのね、バッカスおじちゃん! ここに、石の中身を書いておしえて!」
「おう、任せな」
バッカスはペンを受け取ると、流れるような手つきで三つの魔石の構成図(回路)を紙に書き出し、解説を始めた。
「いいか坊主。最初の火の魔石は起爆だ。こいつには超発熱の命令が刻んである。超高熱を生み出すんだ」
「ふむふむ」
「次の火の魔石、こいつの命令は、最初の魔石の熱をさらに増幅するための補助だな。一つの石で極大の熱を作ると石が自壊しちまうから、火の石を二つ使って負荷を分散させながら増幅させてるんだよ」
カイトは紙に描かれた二つの火の回路を見つめ、真剣な顔で頷く。
「そして最後、風の魔石の命令は大気の急膨張だ。超高熱と炎を一気に『解放』して、周囲の空気を猛烈な勢いで膨張させる。これで強烈な衝撃波を発生させるんだ。……これがエクスプロージョンの魔石の役割だな」
「ふーーん……」
カイトは紙を見つめたまま、子供らしく首を傾げるポーズをとりながら、その頭の中では昭和の土木親方として猛烈な計算を回していた。
(……なるほど、軍用としては完璧な設計じゃ。だが、ワシがやりたい『発破』には、炎なんて全くの無駄じゃ。岩を砕くのに熱で焼き尽くす必要はないわい)
必要なのは、衝撃波だけ。
(風魔法の急膨張を誘発するための、「火花」だけを起こせればいい。なら、二つ目の火の魔石は完全に不要じゃな!)
カイトはパッと顔を上げ、バッカスに向かってニカッと笑った。
「バッカスおじちゃん! カイト、やりたいこと わかったよ!」
「ほう。言ってみな」
「あのね、二こめの『火の石』は、いらない! 炎は ちっちゃな『火花』だけでいいから、石を一つ減らして、あまったパワーを、ぜんぶ『風』に集めたいの!」
カイトは小さな両手をギュッと握りしめ、極限まで力を込めるようなジェスチャーをした。
「それでね、空気を むぎゅーって、ちっちゃく、ちっちゃく、いーーーっぱいつぶして……ドカーン! って するの!」
(魔石を一つ減らして浮いた魔力を全て風に回す。空気を極限まで圧縮し、密閉した穴の中で一気に解放するんじゃ!)
「ふむ、魔石二つで良いんだな?」
「うん! 岩に穴をあけて、その中に入れるの! それで泥でフタをしてから、中で『ドカーン』だよ!」
カイトの提案を聞いた瞬間。
バッカスはペンをピタリと止め、インテリ眼鏡の奥の瞳を大きく見開いた。
「坊主、それどうやって起動させるつもりだ?」
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