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第12話 完全陸上施工という選択

彼らの視線は、カイトの無邪気な笑顔から、その足元にある小さな『ジオラマ』へと吸い寄せられるように固定される。


「な……っ」


「川を通す前に、陸地に、橋を架ける……!?」


コンラッド中尉の震える声が漏れた。


激流との格闘、アウトカーブの洗掘リスク、極めて困難な水中基礎工事――軍の工兵エリートたちが何時間も頭を抱えていたすべての難題が、カイトの『先に橋を作って、後から下を川にすれば良いよね(完全陸上施工)』というコロンブスの卵によって、跡形もなく消滅した。


「ね、かんたんでしょ? それにね……」


カイトは足元のジオラマから顔を上げ、後ろで控えていた黄色いヘルメットのマルコやウォルターたちに向かって、ニッと笑いかけた。


「こうやって『まっすぐな川』にしたら、もうお水があふれて、みんなのお家が流されなくなるよ!」


その言葉を聞いた瞬間、ウォルターとマルコは弾かれたように顔を見合わせた。


「川を、真っ直ぐに……? いや、しかしそんな途方もない地形改変など……」

「いや待ってくれ。そんなに簡単なはずは…」


ルドルフやコンラッドは思わず唸ったが、ウォルターはそこで先ほどのカイトからの質問を思い出し、ハッと息を呑んだ。


(……だから先ほど、下流の状況を聞いてきたのか。流速が上がった際のリスクを確認するために。フェルメールの若様は本気で、この黒竜川の形そのものを変えようとしている……!)


そして、内政官である彼の頭脳は、カイトの描いた『真っ直ぐな線』がもたらすもう一つの絶対的な効果に思い至る。


大きく蛇行する川は、増水時にカーブで水が滞留し、行き場を失った水が堤防を越えて氾濫を起こす。だが、あの首の部分をぶち抜いて真っ直ぐな水路を作れば、水は一気に下流へと吐き出される。


「もし、この工法が実現したなら……」


ウォルターの持つバインダーを持つ手が、微かに震え始めた。


「我々が長年苦しみ抜いてきた黒竜川の氾濫という、治水問題が……根本から解決する……!」


「……あっ」


マルコも手から粗朶の束を取り落とし、呆然とカイトを見つめた。


「親方は……軍の橋を架けるだけじゃなく……俺たちの町を水害から守るために、この計画を……?」


南部衆たちは言葉を失った。目の前の小さな親方を、畏敬の眼差しで見つめるしかなかった。


「……大佐。どうやら我々は、とんでもない存在をこの地に連れてきてしまったようですね」

コンラッド中尉が、静まり返る南部衆たちを見つめながら呟いた。


「ああ。軍の架橋すらも『ついで』に過ぎないように見えてくるな……」


ルドルフ大佐は、カイトが足元に作った泥のジオラマを見つめ、必死に軍人としての常識と理性を総動員した。

(いかんな。ここで私情を挟む訳にはいかん。この工法は本当に穴がないのか?)


そして、すぐに一つの「絶対的な不可能」に行き当たり、声を張り上げた。


「……いや、待て! 理論は完璧だが、物理的に不可能だ!」

大佐はカイトがスコップでえぐった『Ωの首』の部分――実際には、こんもりとした緑の小山になっている陸地を指差した。


「あの首の部分は硬い地盤だ! 水がない状態で橋を架けられたとしても、その後に下を掘って『新しい川』を作るなど……軍の工兵隊が総出でツルハシを振るっても何年かかるか分からん。工期も労働力も、到底足りない!」


それは、土木魔法が存在しない世界での、極めて現実的で全うな反論だった。


大佐は「どうだ」と言わんばかりにカイトを見下ろした。


「『ほる』?」


カイトは、心の底から不思議そうな顔でキョトンと首を傾げた。

「だれがツルハシで土をほるの?」


「……え?」

「大佐のおじちゃん、さっきの質問、わすれちゃった?」


カイトは無邪気に笑いながら、首から下げた竹笛をくるりと回した。

「ぐんたいの魔法使いさんって、すっごく『ドカーン!』ってできる魔法、つかえるんでしょ?」


大佐とコンラッド中尉の呼吸が同時に止まった。


――まさか。


ルドルフ大佐とコンラッド中尉が互いに顔を見合わせ、大佐は震える指でカイトを指差した。


「カイト殿……。まさか貴殿は、軍の最高機密である広域攻撃魔法『エクスプロージョン』を……あの陸地の首を吹き飛ばす『穴掘り』に使おうというのか……!?」


軍事魔法は軍事利用するもの。という常識を根底から覆す、前代未聞の『魔法の土木利用ダイナマイト』。


大佐の戦慄の声に、カイトは満面の笑みでコクンと頷いた。


「うん! いっぱい『ドカーン』ってして、お山の土を飛ばしてお水の道をつくるんだよ!土が飛んでいく魔法があるなら、使わないなんてもったいないよ?」


「バ、バカな! 戦術魔法で地形を変えるなど、いくらなんでも……!」


カイトは大人たちの常識の崩壊など気にも留めず、楽しそうに竹笛をいじりながら首を傾げた。


「だって、ちゃんと山に穴が開けられるってわかったら、ぜったいにお水があふれない『まっすぐな川』と、ぜったいに落ちない『ぐんたいの橋』ができるんだよ? 『ドカーン』ってするだけで」


『橋をどう架けるか』で悩んでいたのに、カイトは『川のほうを動かせばいい』と言い出したのだ。


大佐の脳内から『不可能』という文字が、『ドカーン!』という言葉とともに吹き飛んだ。

ルドルフ大佐は、ゴクリと生唾を飲み込んだ。


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「続きの工事が気になる!」「大佐の脳、大丈夫か?」と思っていただけましたら、

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