第11話 即席ジオラマと「魔法」の意外な使い道
完璧な『現場監督(親方)』のフル装備を取り戻し、内心で深く頷くカイト。
軍の高官が名乗りを上げて視察を始めようとした矢先に、何よりも最優先で六歳児の『戴冠式』が執り行われるというカルト的な光景を前に、ルドルフ大佐は再び完全に言葉を失ってしまった。
「……こ、こほん。では大佐殿、中尉殿。こちらへ」
いたたまれなくなったウォルターが咳払いをして、大佐たちを街の入り口である橋へと案内する。
そこには、黒竜川を渡るための木造の小さな橋が架かっていた。
「大佐殿。現在はあの小さな橋が架かっておりますが、一昨年の秋の嵐で街の一部と橋が流されてしまい、急ぎ架け直したものでして……今はなんとか馬車が一台通れる程度です」
ウォルターが指差す先を、コンラッド中尉が地形図と見比べながら厳しい顔で評価する。
「……このままでは駄目ですね。平時ならともかく、本格的な兵站ルートとして大軍や特装馬車を往来させるには狭すぎる。このままではボトルネックになり、大渋滞は必至でしょうね」
「ああ。これほどの前線基地として運用するなら、もっと『大きな橋』を作る必要がある。……だが」
ルドルフ大佐は、大きくうねる黒竜川を見下ろして険しい顔をした。
「この見事な大蛇行が、架橋においては『最悪の障害』となるな。一体、この地形のどこに橋を架けるのが正解なんだ……?」
コンラッド中尉も深く頷いた。
「はい。川が大きく曲がっているということは、水流の遠心力によって『アウトカーブ(外岸)』が常に激しく削られるということです。このΩ型の地形では、どこに橋を架けようとしても水流の直撃を受けます。秋の嵐による増水時、その洗掘リスクは計り知れません。これほどの要害でありながら、肝心の『絶対に落ちない橋』を架ける場所がない……!」
軍の工兵エリート二人が図面を前に本気で頭を悩ませる中、カイトの視線は少し離れた川岸に向けられていた。
そこでは、黄色いヘルメットを被ったマルコたち南部衆が、泥まみれになりながら必死に粗朶を編み、堤防の補強作業を続けている。
(……ふぅむ。軍のエリートさんたちは「橋を架けること」しか頭にないようじゃが、これを見てしまった以上、ワシにとっちゃあ、もう軍の橋なんてのはぶっちゃけ二の次じゃ)
カイトの胸にあるのは、自分を「親方」と慕い、故郷を守るために汗を流す不器用な男たちへの、職人としての親心だった。
(あいつらは粗朶で堤防を守っとるが、この極端なΩじゃ秋の大嵐が来りゃカーブで水が詰まって氾濫する。あいつらの故郷を根本的に救うには、アレをやるしかないじゃろ)
カイトはΩの入り口と出口、最も陸地が狭くなっている『首』の部分を見つめた。
(問題は二つ。一つは下流への負担……もう一つは、あそこを吹き飛ばせるかじゃな)
昭和の土木親方は頭の中でリスクを天秤にかけ、まずは一つ目の問題の裏取りを始めた。
カイトは無邪気な仮面を被りウォルターの服の裾を引いた。
「ねぇねぇ、ウォルターおじちゃん!」
「は、はいっ! 何でございましょうか、若様!」
「もしね、ここからお水がもっと『ザーッ!』っていきおいよく下流に流れるようになったら、下の方に住んでる人たち、お水があふれて困っちゃう?」
六歳児の無邪気な質問に、ウォルターは首を横に振った。
「いえ、黒竜川のさらに南の下流地域は、昔の大洪水で村や街が流されて以来、人々は川から離れた場所に街を移してますね。今は用水路で水を引いて生活しているので、仮に勢いよく水が流れても溢れるほど困るような事は起きないでしょう」
(……よし、いいぞ。これで一つ目の懸念は消えた)
下流への被害が出ないという確証を得たカイトは、ニヤリとほくそ笑み、今度は足元で頭を抱えている大佐たちを見上げた。
「じゃあね、大佐のおじちゃん!」
「ん? どうした、カイト殿」
「ぐんたいの魔法使いさんって、すっごく『ドカーン!』ってできる魔法、つかえるの?」
「ドカーン、だと? ……爆発魔法のことか…?」
(よし!やはりあるのか。しかし威力が分からんから、まずは実験をしてみんとなんともじゃな……。まぁ、ある事が分かったし、二つ目の問題もいけるじゃろう)
「あのね、もし『すっごいドカーン』ができるなら、橋をかける場所、わかるかも!」
「……本当か!?」
「見てて!」
カイトはそう言うと、しゃがみ込んで足元の土に木の枝で大きく『Ω』の図を描き始めた。
「川がこんな風に流れてるよね。ここが今いる所で、ここの中が街ね。それで、ここをこうするの!」
カイトは、Ωの内側に家の絵を描くと、その枝をポイっと投げ捨てる。今度は近くに置いてあったスコップを拾い、街の先にあるΩの首の部分を真っ直ぐ横切るように溝を掘った。
「こうやって、ここにまっすぐな新しい川をつくれば良いんだよ!」
そして、メモ代わりにポケットに入れていた木の板を取ると、その溝の上にぽいっと置いた。
「で、お水が、来ない内に、先に橋を作るの! そのあとで、橋の下にお水を通すんだよ! そしたら、お水の中に入らなくていいでしょ?」
「は……?」
ルドルフ大佐とコンラッド中尉の思考が、完全に停止した。
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