第98話 自動化プラントの衝撃
式典の興奮冷めやらぬ真新しい関所の前。カイトは職人たちに目配せをした後、振り返って来賓の大人たちを見上げた。
「ハルバードのおじちゃん! ベルノーのおじいちゃんも、ウォルターおじちゃん、コンラッドのおにいちゃんも! 」
突然の指名に、貴族や軍人、役人たちが一斉にカイトへ視線を向けた。
「これからボクたち、バルザス山脈に大きな壁をつくる場所を探しに行くでしょ? その前に、みんなに『とっておきのナイショ』を見せてあげる! ついてきて!」
カイトが満面の笑みで手招きし、待機していた馬車にひょいっと乗り込んだ。
ハルバード伯爵やベルノー子爵、コンラッドやエドたちは顔を見合わせ、面白そうにそれぞれの馬車へ乗り込み、その後を追う。
一行を乗せた馬車列が向かったのは、泥靴村の城壁の内側だった。
そこからさらに北の外れにある、小川が流れる村の採石場に向かった。
ここはかつて温泉旅館の庭に敷き詰める『白い玉砂利』をダンの若い衆が拾いに行った場所だ。
「なんだここ……? 倉庫の前に妙な鉄の塊に布が被せてあるけど……」
馬車から降り立ったコンラッドが目を丸くする。
採石場の中央には、見たこともない巨大な鉄の機械がいくつも鎮座し、その横ではバッカスやゴドー、バルカス、ダン、ゼノスら泥靴村の技術首脳陣が、腕を組んでニヤニヤと笑っていた。
そして、彼らのすぐ傍を流れる小川には、複数の「小型の水車」と、それぞれに直結された箱(小型発魔機)が設置されており、そこから太い『送魔線』が各機械へと伸びている。
「ここが、ボクたちの『ひみつのテストヤード』だよ!」
カイトは一番手前の、ひときわ巨大な機械の布をバサァッ!と引き剥がした。
「お山を崩す時はね、岩盤に穴を掘って、使い捨ての発破魔法で岩を吹き飛ばすんだけど……そしたら、すっごく大きな岩がいっぱいゴロゴロ出てくるでしょ?」
カイトが機械の中に最初から入れられていた大岩を指差す。
「そのままじゃ大きすぎて次の機械に入らないから、まずはコレで叩き割るの!
『魔導ハンマークラッシャー』!」
バッカスが送魔線のスイッチを入れた瞬間、機械の内部で極太の鉄の軸が猛烈な勢いで回転し始めた。軸に取り付けられたいくつもの『鉄のハンマー』が、唸りを上げて大岩を叩く。
ガンッ! ガッ!ガガガガガガッ!!
轟音と共に、高速回転する鉄のハンマーが岩を滅多打ちにし、あっという間に人間の頭ほどのサイズに砕いて下から吐き出した。
「なっ……!? あの巨大な岩を、一瞬で……!」
コンラッド中尉が、戦慄に顔を引きつらせて一歩後ずさった。
「まだまだいくよ! 中くらいのサイズになった岩は、今度はこっちの『お口』に入れるの!
『魔導ジョー・クラッシャー』!」
次の布が剥がされると、二枚の凸凹した分厚い鉄の板が、斜めに向かい合った機械が現れた。モーターの偏心運動によって、片方の鉄板がガコン、ガコンと力強く噛み合わさる。
先ほど砕かれた岩を放り込むと、メリメリッと音を立てて噛み砕かれ、下から『砂利』となってパラパラと零れ落ちた。
「バカな……!?」
ハルバード伯爵が、貴族の矜持も忘れて大声を上げた。
「何十人もの石工がツルハシと槌を振るって一日がかりで砕く石の量を、たった数分で……しかも、人が魔力を流してすらいないのだぞ!?」
「でねでね!」
大人たちの驚愕を置き去りにし、カイトは次の機械を指差す。
「細かくなった石は、この『木の板がいっぱい繋がった動く道』に乗って、あっちの大きな筒に入るの! その筒の中で、お水と『セメント』をまぜまぜすると……」
ガランガラン!と音を立てて、ジョー・クラッシャーから吐き出された砂利が、コンベアによって自動で斜め上へと運ばれていく。
行き着く先は、ワイン樽を横置きした機械だった。
『魔導連続パグミルミキサー』(コンクリート練り機)
コンベアから砂利が流れ込む。
その横でゴドーがセメントを投入し、バルカスがバケツで水を注ぎ込んだ。
ゼノスがスイッチを入れると、スクリューが内部で回転し、砂利と水、そしてセメントを強制的に練り上げ、反対側の出口から「コンクリート」がドロドロと押し出されてきた。
それをダンがネコ車に載せて、木枠で出来た型の中に流し込んだ。
「「「………………」」」
その光景を前に、もはや誰も声を発することができなかった。
山を爆破し、岩を砕き、運び、練り上げる。
これまで何百人という人足が血の滲むような思いでこなしてきた土木作業が、ただ小川の水力と機械の連動によって『無人』で行われている。
それは、魔法という概念を超えた『工業化』の幕開けだった。
「あと、木を切るための丸ノコと、揚水ポンプもあと少ししたらできると思うよ〜。今はまだ揚水ポンプ無いから砂利が洗えなくてコンクリートにするとこまではいってないんだけどね……」
「揚水……ポンプ?」
エドが怪訝そうに眉をひそめる。
その時、オデール家のウォルターが、小屋に入ってる異様な鉄の塊に目を留めた。
「カイト殿。あちらの巨大な鉄の筒は何に使うのですか?」
「あー、あれ? まだ作ってる途中だから秘密ー!」
「ちょ、ちょっと待ってください、カイト殿!」
エプロンコンベアからパグミルミキサーへ流れる完璧な自動化プラントを呆然と眺めていた内務局のエドが、ハッと我に返り、カイトに詰め寄った。
「その機械にも、軍事機密に指定された『モーター』が使われているんですよね!? 陛下からは『発魔機やモーターをフェルメール家から他家へ直接売買してはならぬ』と直々に厳命が下っているはずじゃないんですか?!」
エドの必死の制止に、ハルバード伯爵たちがチッと不機嫌そうに舌を打つ。だが、カイトは黄色いヘルメットをちょこんと傾け、これ以上ないほどあざとい笑みを浮かべた。
「あー、エドのお兄ちゃん、ちがうよ? ボク、王様のお約束はちゃんとまもるもん。発魔機やモーターは『国』から買ってね!」
「……え?」
「あのね、ハルバードのおじちゃんたちは、まず国から『発魔機』と『モーター』を買うよね。それで、そのモーターを泥靴村のこの鉄の機械に『ポンッ』って取り付けるの! 泥靴村が売るのは、モーターが入ってない『鉄の機械』だよ。これなら、王様のお仕事の邪魔にならないでしょ?」
「「「「………………!!」」」」
「なるほど……!」
ハルバード伯爵が目を見開き、豪快に笑った。
「つまり我らは、まず国から発魔機とモーターを購入し、それをこの重機へ取り付ければよいのだな! フェルメール領から買うのは、モーターを積んでいない『重機本体』だけ。発魔機やモーターは内務局が支給する。ならば王命にも一切反せん!」
伯爵はニヤリと笑う。
「よろしい。ならば内務局へ決裁書を山ほど送りつけ、発魔機とモーターを確保してやろうではないか!」
「我がオデール伯爵家も負けてはおれません。発魔機とモーターの申請書を持たせた者を内務局へ送り込みます!」
ウォルターも満面の笑みで応じる。
「えええぇぇっ!?」
エドは青ざめた顔で頭を抱えた。
カイトはピカピカの黄色いヘルメットの鍔をクイッと押し上げ、ニカッと笑う。
「毎度あり~。ご注文、ありがとうございまーす!」
「ハッハッハッ! 見たか! 我が孫は機械を作るだけではない! 売り方まで考えておるわ!」
「勘弁してください! その全部の決裁が私の机に積まれるんですから!!」
エドの悲鳴が、採石場にむなしくこだましたのだった。
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