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馬車の下からのぞく足

コンドウ家座敷。

タケシが納豆ご飯を豪快にかき込んでいる。

「うまっ」

横でレオンも無言で頷きながら、猛烈な勢いで食べていた。

「……モニョモニョ」

「何言うてるかわからんわ」

カツミがお茶を置く。

「レオン、食べるときぐらいハリセン置いたらええのに」

背中にはカメセン。

腰には鞘入りカメセン。

完全武装で納豆飯を食っている。

「ええんやて」

横ではカースケが、クチバシに絡んだ納豆の糸と死闘を繰り広げていた。

「クェッ……クェェ……!」

「お前も食うの下手やなぁ」

タケシが笑う。

しばらくして、茶碗を置いたタケシがふと思いついたように言った。

「カツミ、納豆ライン作ろか?」

「いやー。やめとこ。これ外に出すわ」

「ほう?」

「豆屋さんで試食販売頼んでん。パンに挟む用に味変えたら、店の娘さんがハマっちゃって」

「ほー」

「自分で売ってみたいです!ってノリノリやから、アレンジレシピも教えてん。ゆくゆくは納豆カフェ?」

「ええやん」

「だから、うちは機械レンタルと容器、あとタレだけにする」

「タレ変わってたな」

「うん。ふりかけタイプ」

「ほー」

「ノマドの焼き塩のパッケージ、そのまま使えるんよ。液体より管理楽やし」

「確かになぁ」

タケシがお茶をすすった。

「液状よりええかもな」

「ドライ材料混ぜて粉末にするだけやから簡単やし、腐りにくいし」

「ちょっとおらん間に進むなー」

「その豆屋で聞いてん。グレイスの豆がええって」

「あー。それでか。これもそう?」

「いや、グレイス産はめったにないねんて。収穫量少ないんやろね」

「セルディオ、増産する言うとったで」

「うん、ええと思う」

カツミがニヤリと笑う。

「“グレイスビーンズ”とか名前つけて、ブランド化しちゃえ」

「あ、それええな」

タケシの口角が上がった。

「言うたもん勝ちや」

「だよねー」

二人が同じ顔で笑った。

横でレオンが納豆ご飯を飲み込み、真顔で頷く。

「グレイスビーンズ……強そうです」

「強いってなんやねん」

その時。ベチャ。

カースケのクチバシから、ついに納豆の糸が畳へ落ちた。

全員の視線が集まる。

「…………」

カースケが「カー」と雄たけびを上げた。


「タケシ、帰ってたんだ」

「おぉ」

タケシの横に、ルークがストンと腰を下ろした。

レオンは相変わらず、ハリセン完全装備のまま納豆ご飯を食べている。

「君の留守中ねー。僕はちょっと大変だったよー」

「どないしたん」

「君と面会したいって、使いがさー」

ルークが湯呑みを持ちながら肩をすくめる。

「グレイス周辺の貴族領。それに、ちょっと離れたとこからもねー。コンドウ工房と繋ぎを作りたいって」

「あー……」

タケシが嫌そうな顔をした。

「ミナセ近くの領主は、とっくに僕のとこ挨拶来てるし、事情も話してあるから、いきなり突撃とかはしてこないんだけどねー」

「事情って?」

「タケシがへそ曲げると怖いよーって」

「なんでやねん」

「だって事実じゃん」

「違うわ」

横でレオンが真顔で頷く。

「事実です」

「お前どっちの味方や」

「タケシ師匠です」

ルークがケラケラ笑った。

「まあ、今は留守だからわかんないよーって追い返してたんだけどさ」

「グレイス周辺は行かへんで」

「そうだよねー。離れた小さい領の方がいいんだよね」

「あぁ。近くはグレイスに行けばええ」

「でもねー。しつこいのもいるんだー」

「えー……」

タケシの顔が露骨に曇る。

「来るかも。自ら」

「マジか」

「うん。あそこお金あるから」

「あー……なるほどなぁ……」

工房。馬車。ポンプ。

カレーもノマドも、そら本物欲しいわな。

しかもグレイス領が目に見えて変わった。

鼻の利く貴族なら、そりゃ嗅ぎつける。

「わかった。来たら来たで考える」

「んじゃー頑張ってねー」

ルークはそう言って、レオンの納豆茶碗を見た。

「レオン君、それ何杯目?」

「五杯目です」

「育ち盛りだねー」

「勇者なので」

「燃費悪っ……」

その横で、カースケが畳に落ちた納豆を、こっそり回収しようとしていた。

「お前まだ諦めてへんかったんか」




そして数日後。見慣れない馬車がコンドウ家の前で止まった。

いかにも豪華で.....お呼びでない感じ......

中から男が降りてきて、薪割りをしているレオンに声をかけている。

フッとレオンが納屋を見た。

納屋ではタケシが馬車の下に潜って整備中で、足だけが見えている。

それを見た男が納屋に向かって行った。

「あのー。コンドウ様は、ご在宅でしょうか?」

「いやー。どっか行きましたよー」

タケシは潜ったまま答えた。

「いつ頃お帰りになられます?」

「わからんなー。今日は帰ってこんかもしれん」

「そうですかー。ちょっと待たせて頂いても.....」

「あー。玄関先は困るで、通りの邪魔になるし」

「わかりました」

そう言うと、男は馬車に乗り込んだ。しばらくすると馬車は向きを変え、何処かに......

タケシはモゾモゾと這い出した。

レオンが寄ってくる。

「アホ。こっち見るな」

「すみません。つい」

「とりあえずほっとこ」

また馬車に潜った。


しばらくしてーー

「タケシー。居留守使ったでしょ」とルークの声。

「もー。僕のとこに来たじゃん」

「追い返してくれ」

「無理だよ。いるって言っちゃった」

「えー。めんどくさ」

と言って這い出すタケシ。

「人が機嫌よう馬車触っとるのに」

と、あからさまに不機嫌になった。

「んでどんな奴や」

「んー。あそこは商業都市だね。綺麗に整備して魔導水も完備してあって」

「はぁ?」

「でもーちょっと離れるとぜーんぜんだめ。農地が荒れてる。農民が減ってるんだ」

「つまり自分の周りだけってやつや」

「そういうことー。さすが飲み込み早い」

「んで物動かして金儲けな」

「あるあるでしょ」

「ほんまな。わかった。戻ってるって言うて」

「うん。頼むねー」


「タケシ師匠、会うんですか」

「しゃあないやん。ルークがバラしよった」

「帰ったと思ったのに」

「お前がこっち見るからや」

「すみません」

「もぉええ。薪片付け。俺ここもうちょいやから....」

タケシはまた馬車に潜った。







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