2人の勇者
山間の街道を黒馬車が進んでいる。
カースケが馬の尻からヒュンっと馬車の幌に移った。
「タケシ師匠。後ろから、4,いや5騎です。私、後ろに行きます」
レオンが荷台に移った。
タケシはゆっくり馬車を止め、カメスラボールの箱を寄せた。
蹄の音が近づいて来た。
止まった。レオンが飛び出した。
パンパーンパーンパンパーン!。ドサドサッ。
タケシはカメスラボールを振りかぶって、投げた!
速攻2人は御者台に飛び乗り、タケシが手綱を振った。
横から後ろを覗くレオン。
「タケシ師匠?あれって激辛ですか?」
「ようわかったな」
「はい。馬、気が狂ったように逃げていきました」
「大変やな。こんなとこで馬なし」
「そうですね」
山道に、遠ざかる悲鳴が木霊していた。
「ぎゃああああっ! 目ぇ! 目ぇぇぇっ!」 「馬止めろ! 止まれぇぇ!」 「痛いーくさいーうぇぇぇぇー」
黒馬車はガタゴトと揺れながら、何事もなかったように進んでいく。
御者台のタケシが鼻をほじる。 「追い剥ぎにしては装備よかったな」
「山賊というより、傭兵崩れですね」
「まぁ、どっちでもええわ」
レオンはもう一度後ろを見た。 煙みたいに赤い粉が舞っている。
「さすがカメスラボール、すごい威力ですね」
「カツミ特製やからな。辛味三倍」
「私、こっち側でよかったです」
「いやハリセンの動き、なかなかのもんやった」
レオンはカメセンを丁寧に畳んで鞘に収めた。
「いえ。まだまだです」
「剣なくても勝てるやろ」
「すごいです。コンドウ流イアイジュツ奥義。ドラゴンも倒せます」
「いや。ドラゴンはやめとこ」
グレイス領。城を取り巻く小さな町に、数台の屋台が出ている。
串焼き屋、パン屋、ラーメン屋やスライムゼリー........
野菜やハーブ。魔獣皮まで売っている。
行商人の馬車も、荷を広げているようだ。
「ずいぶん賑やかになりましたね。人も増えて.....」
「近隣に、冒険者たちと噂広げましたからね。もっと増えますよ」
パサパサっ。カースケがビアントの肩に止まった。足の紙を解く。
「タケシさん、明日の午前だろう。ということです」
「その子は?」
「タケシさんの眷属です。カースケご苦労さん。いいよ」
「カ」カースケが飛び立った。
工房の扉はまだ閉まっているが、その前にも人がいる。
「おい、あれ、準国営の証や」
「噂、ほんまやったな」
「タケシ=コンドウ来るって?」
「どんな奴やろ.....」
「そらやっぱり偉そうな奴ちゃうん」
扉の内側で、聞き耳を立てていた職人が、プッと吹き出した。
「普通のおっさんやのにー」
「コラ。はよ支度してまお。もうすぐ来るで」
「はーい」
ガラガラガラガラ。タケシの黒馬車が入ってきた。
サッと人が割れる。
商会の前で馬車を降りたタケシは、いつもの黒い作業服にハンチング。
出迎えたセルディオと、がっちりと握手を交わした。
「タケシさん、遠いところありがとうございます」
「セルディー、よう頑張ったな」と、肩をポンと叩いた。
ザワザワザワ。
ーーあれがタケシ=コンドウ?
普通の職人ちゃうん。
でもセルディーって。友達やって噂もほんまやったんや。
「ビアント、中、見るな」
「はい。タケシさん」
扉を細く開け、工房内に入っていく。
黒馬車にはレオンが残っていた。
「おい、あれ勇者レオンと違うか」冒険者の声だ。
「噂じゃ、そこらのおっさんに負けて引退したとか」
「いやー、似てるけど、大剣が違うなー」
「へへっ。ちょっとつついてみよか」
ぶらぶらと冒険者が黒馬車に近寄って来た。
黒馬車に手を掛けた瞬間ーー
パンパンパーン。カメセン炸裂。
冒険者は横っ飛びに飛ばされた。
逃げていくのを確認し、カメセンを折り畳んで鞘にしまっていると、タケシが出てきた。
「ん?レオン、どないした」
「いえ。何も」
「あっそ」
胡椒玉をくわえたカースケがピューンと飛んで、逃げて行く冒険者にポンと落とした。
ガラガラガラ......
工房の扉が大きく開かれた。
色違いの揃いの制服がズラリと並ぶ。
「お待たせしました。コンドウ商会グレイス支店。開店いたします」
タケシが礼をすると、歓声とともに人が動き始めた。
「クレスカレー工房、本日はカツミスペシャルですー」
「馬車整備はこちらで予約してくださいー」
「ヒグチポンプ工房では、ショーボーシャを展示しておりますー」
「お。カツミスペシャル旨いやん」
「ここの調理人に作らせたんですよ」
タケシとビアントが工房の裏でしゃがんでカレーを食べている。
「職人志望が多くて」
「まぁそうなるわな。でもゆっくりやで」
「わかってます。しっかり1人づつ育てます」
「うん。おもちゃ持ってきたから、あれ、町の職人に作らせたって。ほんでそこに職人予備軍入れて練習させたったらええ」
「あ、キックボードもありますか」
「うん。ええ練習になるしな」
「基礎出来てたら早いですし。そうします」
「あと、ナットーの機械持ってきた」
「ナットーって?」
「カツミがな。お前ら行ってから出来てん。作り方とかレシピとかあるから」
「もうー。知らん間に進むんやから」
「しゃあないやん。まあうちでもまだ市販してないけど、持って行けってさ」
「出来たてですか」
「うん。そゆこと。なんかここ、豆がええんやて?ほんで豆カレーのレシピも作ったってさ。豆を売りもんにせえって言うとった」
その夜はセルディオの城で泊まることになった。
「悪いなぁ、俺まで厄介になって。職人もみんな面倒見てもろとんのに」
「いえ、無駄に部屋数あるんで」と笑うセルディー。
「ビアント、落ち着いたら宿舎作れよ」
「わかってますって」
「あぁセルディー、冒険者ギルドできてるか」
「はい。建屋はあります」
「ミナセから来た奴らな、スサノー様から送られたんよ。腕も立つし人間性もええやつ。安心して任せてええからな」
「はい。いい方ばかりで、助かってます」
「うん。冒険者ってのも、噂回すの早いから。ええ町作ったって」
「はい」
「真面目やなー。ええことやけど。ボチボチやりや」
「ボチボチですか」
「うん。ボチボチ」
「タケシさんのボチボチ程当てにならんもんないくせに」
「でもこれからきっと色々あるで」
「嫌がらせとか来るでしょうね」
「そうなんですか」
「うん。冒険者はうまいこと味方につけや」
「わかりました」
「スライムボールとパチンコと胡椒玉。配備してな」
「胡椒玉はカメスラやなくても...」
「うん。元々ちっこい布袋やってん。投げるタイプ」
「じゃぁこっちでも作れますね」
「出来るやろ。ボチボチやって」
「ところで、タケシさんの護衛の人って」
「あれはー。カエル勇者」
「??」
翌朝、タケシはグレイスを発った。
町人が見送り、子供達が馬車を追う。
その後ろで、セルディオはずっと頭を下げていた。
「セルディオ様、タケシさんって面白い人でしょ」
「いやー。もうすごいとしか....」
「でも本人は、ただの馬車屋のおっさんやって思ってるんです」
「そうなんですか?」
「多分護衛1人で来るって言うのも、反対押し切ったんやと思います」
「あ、でもあの護衛の人。ホントに有名な勇者らしいですよ」
「え?カエル勇者?」
「〈白銀の翼〉のレオンに間違いないって。さっきギルドで噂してました。何か、不思議な武器で瞬殺やったそうで、逃げても魔法かけられたとか」
「マジ?」
「うん。マジ」




