集客の仕掛け
「あぁ、なんとか間に合いそうだ....」
グレイス領、領主セルディオ=グレイスは、額の汗を拭った。
遠くの山並み。広がる畑。点在する家。
その中心の小さな城を囲むように、小さな町が形成されているが、お世辞にも活気があるとは言えなかった。
その町の一角に、セルディオは
数棟の建物を建てた。住民総出での事業だ。指定された作物も、頂いたタネを蒔き、スクスクと育っている。
「セルディオさまー」子供が駆けてきた。
「もうすぐ来るの?馬車」
「そうだよ。明日には着くと思うよ」
「ねえ、またノマド食べられるの?」
「そうだね。もっとおいしいのも食べられるようになるよ」
「わーい♪」
この子らの笑顔を。何としても守るのだ。
ガラガラガラガラ.......
4台の馬車が、遠くに見えてきた。
「セルディオさま、あれ」指差す子。
「来たね。みんなに知らせておいで」
「うん♪」駆け出した。
「コンドウ商会グレイス支店長のビアントです」
「工房リーダーのベルディです」
「ありがとうございます。セルディオ=グレイスです。よろしくご指導をお願いします」
握手を交わすと、ベルディは荷下ろしに向かった。
「セルディオ様、職人は?」
「はい。あちらに」
10人程の若者が緊張の面持ちで固まっている。
「では、荷下ろしを手伝わせてください。なんせ大荷物だったので」とビアントが笑いかける。
直ぐに若者が馬車を取り巻いて、手伝い始めた。
「ビアントさん。俺ら、行ってくるわ」と護衛の冒険者。
「馬使ってくれ。頼むな」
「おう」
「.....あの、どこへ行かれたのですか?」
「あぁ、魔獣を狩ってきて貰って、明日カレー作りますね」
「えっ!」
「町の皆さんと食べましょう」
翌日、小さな町はお祭り騒ぎになった。
大鍋で煮込まれたカレーの香りが漂い、器を持った住民達が列をなした。
「子供はこっちだよー。甘口だよー」
わーい♪と、先を争って子供が並ぶ。
「ビアントさん。私、本当にうれしいです」
セルディオの顔が綻ぶ。
「セルディオ様。これからですよ」
ビアントは、言葉を繋いだ。
「馬車工房とポンプ工房は、まず職人の養成です。クレスはスライム養殖とノマドの製造に掛かります。カツミさんが、ここの作物で出来るレシピを考えてくれました。出来上がれば、クレスの旅スープ〈ノマド〉として販売する許可を貰っています」
「はい。畑の拡張も進んでいます」
「それから、あの冒険者達はここで当分狩りをしますが、冒険者ギルドを作って頂きたいのです」
「え?ギルド....ですか」
「あなたの直轄で作って下さい。人が集まる仕組みが必要ですから」
「2ヶ月程.....ここの準備が整ったら、私は近くの領に営業に参ります。セルディオ様の馬車も整備しておきますので、そこら辺の領主に自慢してきてください」
「自慢....ですか」
「コンドウ商会の支店が出来たと言いふらせば、ここに人が集まってきます。タケシと友達だとでも言ってくれたらいい。とタケシさんが言ってましたよ」
「いいんですか?」
「はい。あなたの仕事は、農地の管理、冒険者ギルド、それと営業です。商業ギルドは当分コンドウ商会が代行しますから。お願いしますね」
「わかりました」
「本格稼働の時には、タケシさんもこちらに来ると思います。それまでに頑張って進めましょう」
「はい。頑張ります」
「ねぇねぇセルディオさまー。カレーすっごくおいしいね。お肉いっぱい入ってるんだー」
「昨日冒険者のお兄さんが獲ってきてくれたんだよ」
「すごーい。ぼくも冒険者になるー」
「あぁ。いっぱい食べて、大きくなったらな」
「カツミさん。どうだった?」
「いいねー。アキラ試食する?」
「するする」
「じゃぁこのタレ試してね」
「了解!」
「これが保冷箱」
「大きいねー」
「スポンジの層とスライム層。2重にしたから、でかくなったけど、このスライム層のエサやりさえちゃんとできたら、ヒンヤリが維持できる」
「やるねーアキラ」
「んで、こっちがパッケージ」
「おー」
「紙にカメスラコートだよん」
「いいねー、舟形」
「藁苞のイメージにしたんだ。蓋して両端紐でくくると。ね」
「素晴らしい!」
「ま、愛する納豆のためですからー」
工房食堂。お昼休みで賑わう中、カツミが大声を張り上げた。
「みんな聞いてー。テーブルに置いてるのは、試食品だよ。みんなの意見聞かせてね。アレンジしたのもあるから、ちょっとづつ食べてみてー」
「何これ?」
「ナットーっていうんやて」
「何やネバネバやけど」
「うちの職長、旨いって言ってたで」
「食べてみよか.......」
モニュモニュ
「なぁ、俺ら実験台?」
モニュモニュ
「しゃあない。ここにおる性や」
モニュモニュ
「タケシさん、今度のグレイス行き、1人で行くってほんまですか」
「あぁ。ちょっと遠いしな」
「危なくないっすか」
「いや、アイツ護衛に連れていく」
「え?でもアイツ剣捨てたんでしょ」
「へっへ。んでこれや」
「カメセンやん」
「コンドウ流居合術教えて来る」
棒に服。頭にカメスラボール。
「レオン。見ておれ。コンドウ流居合術を伝授する」
カメセンは、大きな鞘に収められている。
腰に添え、タケシが柄を握った。
レオンの目がキラキラ光っている。
「はっ!」鞘から抜いたハリセンがそのまま真っすぐカメスラボールへ。
パーン! 弾け飛んだ。
タケシがカメセンと鞘をレオンに渡すと、レオンは恭しく受け取った。
「ありがとうございます。精進いたします」
「うむ。がんばれよ」
「大丈夫なんすか?」
「あれでも勇者やで、剣やなくても俺より上手いわ。相手弾き飛ぶと思うで。背中に背負ってさえいれば」
「そうかなぁ」
「胡椒玉もパチンコもあるし、十分やろ」
「せめてショートソードくらい」
「もう殺傷武器は持たさん。アイツ、そんなん持たんでも十分強いんや」
それから1週間後、タケシはレオンを連れて、グレイス領に発った。




