糸を引く発明
コンドウ家座敷の定例会議。
レオンがお茶を配っている。やっぱり背中にはスラセン。
が、みんな構わず業務報告中。
「で他は.....あ、サーシャ。どないや」
「スライムパウダーでやってます。まぁまだやり始めたばかりですけど、行けそうですよ」
「?」
「あー。新しい接着剤のヒント出たからな。出来たらまた色々な」
「またですか」
「またや。しゃあないやん。見つけてもたから」
「やっと落ち着いたらまた出るか」
「そゆこと。うちの宿命や。ハッハ」
「では僕から報告です」ルークが真面目に言う。
「来週、国王カイル陛下が視察に参られます。ショーボーシャのアルネシア、アルナへの配備について。ミナセの設置状況と消火活動等を確認したい。ということです」
「そっか。来たか」
「ま、表向きは」
「裏は」
「孫の顔見たいだけでしょ」
「だわな」
……みんな頷いた。
カツミがお盆に何やら乗せてきた。
「試食タイムでーす」
「何じゃ?これ」
タケシが器を持って匂いを嗅いだ。
「カツミ、これ、納豆?」
「えっマジっすか」すかさずアキラが反応した。
アキラが箸で混ぜ始める。
「カツミさん、飯あります?」
「あるよー。炊いといた」
「やったー」
「ナットーってなに?」
「変な匂いですな」
「いや、糸引いとる。腐っとる」
「カツミ、どないして作ったん」
「ウカミーに藁もらったんよ。お豆は、きな粉作ったやつ」
レオンが茶碗にご飯を盛って持ってきた。
アキラがご飯に納豆をかけ、箸でグルグル糸を切る。
「えぇー」「ヤバいんちゃうん」
タケシもご飯にかけた。
掻き込むアキラ。
「うっまー。カツミさん、これ本格藁苞納豆ですよ」
「あ、旨いな。タレどないした」
「醤油ないから塩ベースやけど、お豆の味がええやろ」
「ねえカツミさん。僕も食べてみる」とルーク。
「うっそ。ワシこれちょっと勇気いる」
「カツミさんのって、ほんま度胸試し」
「これ腐ってるんと違うねんで」とカツミ。
「藁に納豆菌てのがいるんす。それで発酵させるんすよね」
「うん。温度管理がちょい難しかったけど」
ルークが恐る恐る口に入れる。
モニュモニュ......
見つめる面々。
「ネバネバだー。匂いもちょっと変な感じ。でも柔らかくて味はすごくいい」
恐る恐るみんな手を伸ばす。
「食べる時ね、箸でこう」アキラが口の前で箸をクルクル。
「ん?」「ほー」「??」
「悪くないですな」「食べると案外匂い気にならないな」「豆が旨い」
「もうちょいタレをアレンジして、こっち風にしよっかな」
「俺、納豆スパとかオムレツも好きっす」
「アキラー。温度管理大変なのよ。なんか作ってー」
「お任せ下さい。僕責任を持ってさせて貰います」
「アキラ、食べたいだけでしょ」と、サーシャ。
「バレた?でもこれ、出来たらめっちゃいいんよ。納豆タネにして納豆作れるからエンドレス。ね、カツミさん」
「そうやねん。だから発酵装置さえあれば、それこそグレイス領でも作れる」
「そうなんや。俺知らんかったわ」とタケシ。
「それ、やろ。ほんで広めよ。アキラ、サーシャはボンドやってるから、他の研究員でやってくれ」
「じゃぁ、うちの使ってください」
「オッケーっす。ついでにパッケージも考えよっかな」
「またですな」
「そのようで」
「ライン空けますか」
「ボチボチな」
「はい。ボチボチ」
レオンは台所で茶碗を持って固まっていた。
臭い。でもタケシ師匠がうまそうに食べてた......
これ食べる勇気。さすがや.....
レオンはふぅーっと息を吐くと、一気にかき込んだ。
モニュモニュモニュモニュ
「うまっ」モニュモニュ
翌週。
国王カイルがミナセに視察に来た。さすがに振り切れなかったようで、貴族3人と文官を連れていた。
ミナセの門で出迎え、ルーク、タケシ、アキラが案内役についた。
ミナセには似合わない豪華な馬車のキラキラ貴族は、説明など上の空。道の端に避けて頭を下げている領民に、一瞥もしないが、カイルだけは小さく手を振って応えていた。
その後ルークの家へ。
ルークは、貴族達を小さな迎賓館に通して渋々もてなし、翌朝お帰り頂いた。
カイルは、孫と遊びたいと言い張って文官と残ったようだ。
「あー。やっとゆっくりできるよー」
タケシ宅の座敷でゴロンと体を伸ばすカイル。
「陛下」と、文官にたしなめられるも全く気にしない。
「いいよいいよ。疲れたんだろ」とタケシ。
「ホント、ついてくるだけ。あれで点数稼ぎできてると思ってるんだよ。減点だよ」
「陛下言い過ぎです」
「お前は厳しいよなー」
そう言うと、カイルはヒョイっと起き上がった。
「じゃぁ本題に入ろうか」
まず、アルネシアは形だけ。魔道士もいるので、それよりもアルナを優先したい。
路地の多いアルナは立て込んだところも多く、火事になると、類焼は免れない。
「あのカメスラボール、いいよね」
「はい、陛下。直ぐにでも配布したいところです」
「うん。タケシ、どう?」
「まあ、使わなければ補給もないから....一度に全部は無理やけど、露天街に配る程度は送れると思う」
「そうか、で、ショーボーシャの方だが」
「どう配置するか......ですな」
「とりあえず作り始めるよ」
「そうだな、それよりタンクシャだ。あれはアルネシアで作れないかな」
「カメスラコートがなー」
「スライムコートじゃぁ無理か」
「実は、ポンプの弁がゴムに変わってからも、スライムコート革は、製造を続けておりまして。特殊な素材ですので、何かに使えないかと思いましてね」
「そっか。水だからいけるかも。ちょっと研究室に聞いてみるけど。おーい、レオン」
タケシはレオンにメモを渡した。
「サーシャに見せて返事もらってこい。ダッシュや」
「はい!」スタタター
「今の何?なんか背負ってたけけど」
「気にせんといて。もしいけるなら、そっちでやってもらえたら助かるな」
「樽作って内張りして.....」
「あっ。ちょい待て、接着剤な、今開発中や」
「また何かやってるのか?」
「あぁ、まあサーシャの返事待ちで」
「ところで、朝ごはんのあれは何?」
「納豆か」
「美味しかったけど、貴族達はギョッとしてたよ」
「食ったか?」
「そりゃ僕が食べてんだから、食べなきゃしょうがないよね」
頷く文官。
「今、量産に向けて開発中」
「色々やるよねー」
「旨いやろ。あれ他所でも作れるんや」
「そうなんだ。僕は美味しかったけど」
「申し訳ありません。私はちょっと......」と、文官。
「あぁ。まあ確かに苦手な人もおるんよ。ちょい変わってるもんな。でも体にもええし、そのまま食べられるし、慣れると重宝するよ」
「てことは、城でも作れる?」
「そやな。機械開発中やけど」
やっぱりタケシ師匠はすごい。国王陛下とまるで友達のように話していた。
背中のスラセンが羽のようだ。
えっとーーサーシャさんってどこだっけ。




