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カエル勇者の剣

グレイス領への馬車が出ていった。

護衛を含めて15名。

タケシの初期メンバーを、トップに据えた精鋭部隊。基本1年前後で交代させる。そうしないと工房の進化スピードに置いていかれる。

グレイス領には何度か使いを送り、準備を進めてある。

「自信を持って、やってこい」

「はい。行ってきます」


よっしゃ。一段落や。

今日は休みやしー。ちょっとカツミと散歩して.......

と、家に戻ってくるとーー

走ってきた男が突然目の前で平伏した。

肩に......大剣。

「何やねん」タケシがポケットに手を突っ込む。

そのまま無視して通り過ぎると、又回り込んで、目の前で平伏。

「うざ」

タケシはまた無視して、家に入った。


「カツミ、あれ何や」

「いやーなんかな、弟子にして欲しいとかなんとか」

「マジか」

「うん。無理だと思いますよーって、言うといたんやけど」

「しばらくほっとこか」

「うん」


「ねえタケシー。玄関前にカエルみたいな奴いたけど、あれってもしや」ルークがやって来た。

「勇者」

「うっそー。大剣かけてたからさー。んで何で?」

「知るか」

「ふーん。ちょっと面白そうだね」

「俺、裏から出て散歩してくる」

「うん。いってらっしゃい。ふーん。勇者ねー」

「面倒やから弄るなよ」

「分かってるって。いってらー」


散歩からかえっても、そのままのカエル。

夕方、仕事が終わる頃、やっと姿が消え、ホッとしていたが。

朝、玄関を出るとまた正面にカエル。

構わずタケシは工房に向かった。


「いやたまらんわ。おちおち家にも帰れん」

「何か時々いなくなるみたいですよ」

「そっか。近くで見張ってるんかな」

「カツミさん、こっそりおにぎりやってました」

「餌付けすんなっちゅうに」

「で、タケシさん見つけたらカエル」プッとアキラが吹き出した。

「今日で4日目ですか?粘りますねー」

「いやだって俺、なーんも喋ってないで」

「そりゃ師匠から声かけてもらうの、待ってるんですよ」

「俺、師匠やないわ」

「恐れ多いのと違いますか。あんだけコテンパンやったし」アキラが思い出して、また笑いだした。

「もー。とにかく帰らそ。邪魔や。今日なんか踏むとこやった」


家に戻ると、やっぱり飛び出して来て平伏。

タケシはその前に立って見下ろした。

「ええ加減にしてくれ。邪魔や」

勇者がタケシの靴先を見つめる。

「私を.....弟子にしてください。勇者タケシ殿」

「あんな、俺は勇者やのうて、馬車屋。馬車屋の弟子にはその背中のもんはいらん。さっさと帰れ」

そう言うと、タケシは家に入った。


「ねー。カエルいないよー」ルークがやって来た。

「あぁやっと帰ったか」

「なーんだ、いなくなっちゃったんだ。つまんない」

「もう勘弁してくれ」


だが.......勘弁してはくれなかった。

翌朝外に出ると、見知らぬ若者が、馬の世話をしている。

「??」

よく見ると......勇者だ。剣も持たず、服も普通のシャツ。ペコンとお辞儀した。

「んー」タケシは無視を決め込んだ。

次見た時は掃除。

また次は畑の草むしり。

さすがに周りの職人達も、気になるようだ。

そんな日が3日も続くと、職人達もほおっておけないのか、何やら話している姿も見られるようになった。

「タケシさん、カエル勇者って、薪割りめっちゃ下手でした」とペータ。

「お前ら、あれのことカエル勇者って呼んでるんか」

「まぁ本人にはカエルですけど」

「マジか」

「いい兄ちゃんですよ。薪割り出来んけど」

「あんな大剣振れるのにな」

「大振りし過ぎて端っこペロって」

「あー。使えんなー」

翌日、タケシとルークがこっそり薪割りの様子を見ていると、キックボードのナターシャが現れ、鉈をとるなりパカンと薪を割って去って行った。

腹を抱えて笑うルーク。

「お前、仕込んだやろ」

「タケシ、どこまでやる気?」

「知るか」


「タケシは知らないだろうけど、〈白銀の翼〉って他所じゃぁすっごく人気のパーティーでね、そこのリーダー、勇者レオンって言うだけで、みんなひれ伏しちゃうぐらい」

「へー」

「レオンの持つ大剣は、魔鉱石で作られていて、それは由緒正しい技物だそうだ」

「.......」

「どこにやっちゃったんだろね、大剣」

「.......」

「手放すの、辛かっただろうね」

「んー。もう。わかったわ」


薪割りするレオンの前に、タケシが仁王立ち。

ハッと顔を上げるレオン。

「お前、剣どないした」

「川に......捨てました」

ふぅっと息をつくタケシ。

「俺は、お前みたいなん、弟子にはとれん。見てみぃ、ペータは12でうちに来た。もう一人前や。お前、年なんぼや」

「22です」

「22にもなって、薪も割れんようなやつは、弟子には出来ん」

肩を落とすレオン。

「せやけど、下働きならさせたる」

レオンが顔を上げる。

「まず薪割りできるようになれ。それからや」

そう言うとタケシはクルリと背を向けた。

「あ....ありがとうございます」

レオンはペコリと頭を下げると、また薪割りを始めた。


「カツミ、また居候や」

「はいはい」

「お前が餌付けするからや」

「お腹すいた子、ほっとかれへんもん」

「しゃあないか」

「うん。しゃあない」




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