踏み越える線
サラディアの街が少しづつ動き始めた。
タケシは月に数日は必ずミナセに帰る。サラディア向けの製品や材料の手配を済ませると、後はヒューイの相手をして、少し羽を伸ばす。
座敷でゴロリと寝転ぶと、ついうとうとと眠ってしまった。
夕方、ムックリ起き上がると、ルークが来ていた。
「タケシ。疲れてる?」
「んー。それ程やないけど。寝てもた」
「ちょっと遠いよね」
「でもまぁ。しゃあないしな」
「タケシはサラディアをどうしたいの?」
「そやなぁ、昔のミナセみたいな感じ?」
「僕が来る前、国領だったね、ミナセも。でもタケシ、ミナセは特殊なんだよ」
「なにが?」
「国領ってね、一部の、例えば鉱山だとか、街が大きくなったら国から管理官が入る。でも普通の小さい町はほったらかしだから、治安も良くないんだ」
「ふーん」
「ミナセは、テラ様が時間をかけて大きくした。で、今も神が守ってる。サラディアはどうだろうね」
「リシェルがおるやん」
「領主でもない貴族の娘に、いつまでも人はついて行かないよ。それに貴族ってさ、領民の税で食べるの。リシェルちゃん、どうすんのさ。このままじゃ平民と同じだよ」
「んー」
「タケシが商売でバックアップすることはいいと思うけど、それはあくまで商売でしょ。線引きはすべきだと思うよ」
「線引き.....か」
「ごめんね。厳しいことを言ってる。でも大事なことなんだ。リシェルちゃんにとっても。でさ、ここが君の家なんだよ」
「あぁ。わかってる。けどほっとかれへんねん」
「そこがタケシのいいところだけど。でね、父が来いって」
「はぁ?」
「なんかさー。親戚?きたの?」
「うん」
「そいつゴネてる」
「マジかー」
「だから行ってね。早めに」
「わかった」
と言うと、タケシはまたゴロンと寝転び、うーんと背伸びした。
サラディアに戻る前に、王都に寄ることにした。
城に行くと、いつものカイルの私室に通された。
「やぁタケシ。どうだい?最近は」
「何言うてんねん。全部報告受けてるくせに」
「ハハハ。まあそうだけど」
「タケシー。来たかー」リゥトスが入ってきた。
「お前も色々大変だな」
「何が?」
「なぁタケシ。サラディアを欲しがってる奴がいるんだ」
「あのリシェルの親戚か」
「そう。親戚て言っても遠いんだけどね。リシェルを養女にするからサラディアを自領にしてくれって直訴してきた」
「どうするんや」
「あれはさ、正直何一つ国の役に立つこともしてないから、領土を増やしてやる義理もないんだ。僕はああ言う奴には増領しない」
「そっか。リシェルも嫌がってたしなぁ」
「でも多分、今後も他からも、そういう話は来るだろうね。みんな取る手を探してるさ。何とか手に入れたいんだ。コンドウ商会があるから」
「ウチ狙い........」
「そうだよ。小さな街でも、コンドウ商会がいるなら税がガッポリだから」
「その為にリシェルが......」
「あぁ。災害で親を亡くして、その上これからも政治の波に巻き込まれるだろう」
「俺等じゃ.....守れんのか......」
「そこでだねぇ」
カイルがタケシの目を覗き込む。
「君を貴族に格上げする」
「は?」
「リシェルを養女に迎えなさい」
「俺が貴族?いやー。無いやろそんなん」
「君には十分すぎる功績がある。本当はもっと早くしたかったんだが、リゥトスに止められてね」
リゥトスが頷く。
「まぁ、絶対タケシは嫌がるだろうしな」
「でも今回は、これが一番いいんだ。君があそこを統治しなさい」
「俺はミナセが......」
「別に、領主がずっと領地にいなくてもいいんだ。現に、僕の周りでウロウロして、領地ほったらかしてる貴族がいっぱいいるだろう」
「えぇー」タケシが頭を掻きむしる。
「タケシ、諦めろ。もう逃げれん」
「君に名を与える。力はもう持っているだろう?そういうことだから。後で謁見の間で」
タケシがテーブルに突っ伏しているのを見ながら、カイルは部屋を出ていく。
「なぁリゥトス。貴族って何すんの?」
「タケシは.......まあ今まで通りじゃないか?たまに王都に呼ばれるだろうが.......あ。領主として、国への納税があるよ」
「げっ」
謁見の間。居並ぶ貴族達。
国王カイルの声が響く。
「タケシ=コンドウに、子爵の位を与え、サラディアの正式領主にする」
ざわつく貴族達。
ーー平民を一気に子爵などと....
男爵を飛ばして.......平民の分際で.....
いくら陛下のお気に入りだと言え......
カイルがゆっくりと段を降りる。
「タケシ=コンドウは、これまで数々の発明で、国家の軍事並びに国民生活に多大の恩恵をもたらした。また先には、ディオラム領の農地改良、グレイス領の発展にも寄与し、今回のサラディア領ドラゴン災害に於いては、私財をもって復旧に尽力した。血統よりも、その働きぞ。余は、その功績を高く評価し、今回の爵位に十分な働きだと認める」
カイルがぐるりと貴族を見回すと、皆黙ってうつむいた。
だが......うつむいたまま、唇をかむ男......
「タケシ=コンドウ。これからも国の為、しっかりと働いてくれ」
カイルは、タケシの首に、ジャラリと重い宝石が飾られた首飾りをかけ、服の襟に、王家の紋章が入ったピンを刺した。
「はい。ありがたく拝爵いたします」
うっ。重た。
城を出るとリゥトスが駆け寄ってきた。
「驚いたわ。男爵かと思ってたのに子爵だって」
「どう違うん?」
「タケシ。君はもう国の中に入ることになる」
「えー」
「馬車屋のおっさんじゃいられないよ」
「もー。めんどくさー」
「そうだ、そろそろ服は何とかしろ」
タケシの服......いつもの黒い作業服の上に、ジャラリと首飾り。違和感しかない。
「城へ参内する時は、着替えて来いよ」
「うぅー。わかった」
王都から、そのままサラディアに行くつもりだったが、一旦ミナセに戻ることにした。
「んで。こんなんもろた」
箱に入ったジャラジャラ首飾り。
カツミに見せていると、みんなが母屋に集まってきた。
「タケシさんどうしたんですか、サラディアに行ったんじゃ.......」
「何かあったんですか?」
「それは......何じゃ?」
「実はなぁ.......」
「えぇーーー!!」
「ワシら、タケシさん何て呼べばええんや」
「コンドウ....子爵?」
「子爵閣下?」
「もー。今までどおりでええんや。俺は俺。タケシ」
ルークもやって来た。
「タケシー。おめでとうー」
「お前知ってたやろ」
「フフ。でもー、似合わないねー宝石」
「これ売ったらなんぼくらい?」
「売っちゃダメだよぉ」
「わかっとるわい」
「すぐに国からサラディアに通達が行くよ。向こうに行っておいで」
「そ、そうやな。明日発つわ」
「あ、カツミさんも一緒にね」
「え?ウチも?」
「そりゃそうさ。領主夫妻だもん。ちゃんと自分達の領地を見ておいで」
「そっか。わかった」
「カツミも行くんやったら......ヒューイ、連れてったろか」
「あ。いいんですか?」
「うん。こっちはアキラ、任せるな」
「了解っす。閣下!」
「お前......」アキラの頭にタケシのゲンコツが炸裂した。




