回す歯車
ふぅー。レオンが大きく息をはく。
腰を落としてーー
ビシュッ。カンカンカンパンパーン。クルッスポン。
「うぉー」
組んであった薪がはじけ散った。
「なんかわからんけど、すごいー」
「勇者やー」
ギャラリーの感嘆の声。
「ふむ。勝てる気がせん」
「剣筋見えませんでした」
国軍さえも圧倒した。
「やっぱレオン君すごいわ」
ケインが両手を挙げた。
「何なのさ、ほんとその武器。意味わかんないし」
「コンドウ流です」
「もー。タケシさんて何者?」
「師匠は......真の勇者です」
リシェルが眩しげにレオンを見る。
「何で背負ってるの」
「これは師匠の魂」
「マジ?」
「.......」
カラン。と薪が転がった。
タケシがミナセに戻って半月。数棟の小屋が立ち、怪我人や子供のいる者たちから、小屋に移り始めた。
リシェルは、まだ馬車暮らし。ローデリックがいくら勧めても、自分は後だと言い張った。
「皆が小屋に移ったら、この園庭に小屋を建ててもらいます」
崩れた城を見上げる。まだ城は手つかずだ。
レオンの手がリシェルに伸びて、ガジガジと頭を撫でた。
タケシの黒馬車を先頭に、商隊が入ってきた。
「おかえりなさーい」飛びつくリシェル。
「ん。ただいま。がんばってたか」
後ろでレオンが頷く。
「リシェル。ここにコンドウ商会置くから」
「?」
「あー。難しいな。うん。これからここに仕事作る。人が暮らすには仕事いるやろ。飯も金も回してやっと、人が残るんやで」
「あの、商会と言いますと...」ローデリックだ。
「工房持ってきた。職人も連れてきたから。人と物が動くようにな」
「タケシさん。帰ったんですね」ケインだ。
「ここで開業するんですか」
「ハッハ。まぁ土台作ってからな」
「........」
「ん?軍関係無いよな」
「はい。確かにありませんが」
「ここのもんがここで何しようがええやろ。俺らは商会としてサポートする」
「そうですね。父には報告しておきます」
「当面は馬車ベースにしよ。作業場は幌とテントで確保して」
「はーい」
職人達が積荷をとき、一斉に作業に入っていった。
クレスが農業指導、スライム養殖を始め、工房では農機具や荷馬車を作る。
「必要な物あったら言うて。作るから」
「いいのか」
「あ。軍は手間賃貰うわ」
「えっ」
「請求書出すな」
「しっかりしてるな」
「当然やろ。貰えるとこからは貰う」
少しずつ動き始め、商会はサラディアを起点に、周囲の領にも足を伸ばす。いわゆる行商である。商品のほとんどはミナセから入ってきているが、一旦サラディアに置き、そこから出す。コンドウ商会がサラディアに拠点を作ったとなれば、確実に人が動き出すはずだ。
瓦礫処理が終わり、城の解体に取り掛かる。
畑にも、わずかずつ実りが見え始めた頃。
1台の貴族馬車。
「おぉ、リシェル。元気だったかい」
「はい。おじさま。お久しゅうございます」
「ふーん。随分街も綺麗になったようだね」
ジロジロと辺りを見回す。
立ち並ぶ小屋の端。工房に目を止めた。
ーーローデリック、あれ誰や。タケシが囁く。
「はい。サラディア家の奥方の父方のいとこ?」
「意味わからんけど。何しにきた?」
「さぁ?」
ーー嫌な目つきやなぁ......
「ほぉ。コンドウ商会が来ているという噂は本当だったんだね」
「はい。復興のお手伝いしていただいています」
「うむ。リシェル。そなた私のところに養女として来ないかね。さすればこの領もまた、我が領として統治できるぞ」
「え?」
「まだ幼いそなたには荷が重かろう?私が面倒を見てやろう」
話が飲み込ないリシェルが、レオンを見上げた。
ゆっくりと首を横に振るレオン。
「ん?君は何だ。冒険者ならここには関係ないから、向こうへ行きたまえ」
タケシが男に歩み寄った。
「あんた、リシェルの親戚か?」
「そうだが。君は?」
「俺か。コンドウちゅうんやけどな」
「ほう、君がコンドウか。いやぁー大変世話になっとるようで」
「あんたさぁ、今頃何しに来たんや」
「私は、リシェルが1人残されたと言うから.....」
「ほな何でもっと早うに来ん。綺麗になっとるの見て欲しなったんか」
「いや。だが国領になるよりは私がここを」
「何もせんといて、ええとこどりか?リシェルがどんだけこのちっこい手ぇ汚して頑張ったんか。あんた何も知らんやろ」
「タケシさん。わたくし養女にはなりません」
リシェルが男を見上げた。
「おじさま。わたくしはここが国領になったとしても、ここで皆と暮らしたいのです。お父さまの作ったサラディアは、私が守ります」
「バカなことを。この男にそそのかされたのか?リシェル。私はお前のためを思って」
「いいえ。これは私の意思です。お帰りください」
ローデリックが前に出た「どうぞお帰りを」
「フンッ。後で泣きついてもワシは知らんからな」
「よかったのかい、タケシ」
「ん?何で?」
「あの男。しつこいよ」
「そうなんか?」
「まぁ、これも報告はしとくけど」
「んー。まぁなるようになる。うん。」
呆れ顔のケイン。
「なんか、ルークの苦労がわかるよ」
「俺、別に苦労かけてへんで」
「そうかもだけど。大変だわ、きっと」
「??」
「ローデリック、あんなー」
園庭に、リシェルの家を計画中。従者と共に暮らせるようにと少し大きく、部屋数も増やす。それは街の者の総意だった。
「ちょっとゆっくり作って」
「何故でしょう」
「今のうちにな、国から材木せしめよ」
「はぁ」
「どっちみちまだまだ家いるで。人帰ってき始めたやろ」
「そうですな」
「城の解体済んだら多分撤収や。それまでに、できるだけ家作ってまうんや」
「確かにそうですな。承知いたしました」
「リシェルの家も、なかなかできんって引き伸ばしといて」
「タケシさん。結構あくどいですな」
「何をおっしゃる。国領ここまで開発してるんや。それくらい当然やわ」
小さな小屋が立ち並び、少しづつ街になっていく。
だが、なかなか金は動かない。焼き尽くされ、皆無一文なのだから当然だ。
タケシ達の工房で働くものもいるが、全てを養えるわけもない。
どうするか......タケシが悩んでいると、リシェルとローデリックがやって来た。
「タケシさん。これ、使ってください」
ローデリックの差し出した箱。
開けてみると装飾品や宝石の山。
「奥さまの部屋から見つけたものです」
「これを売って領民に分配します」
「ちょい待て。それは良くないんちゃうか」
「でも....」
「バラマキはあかん。労働の対価として渡すならええけど」
「対価?」
「仕事したら金払う。今までみんな無償やったからな」
「では.......どうすれば......」
「これ売って金にするやろ」
「はい」
「ほんで、その金で仕事作るんや」
「仕事……」
「働いたやつに払う。ほな金が回る。家建てる。道作る。まだまだここは、やることようけある」
「……皆に、働く場を与えるのですね」
「仕事したら金になる。んで金持ったら使いたくなる」
「え?」
「自分で働いてもろた金はうれしいもんや。何買おかって考えるんが楽しいんや」
「そういうものですか?」
「あぁ。使えるとこもいるな。ローデリック、なんか店出して」
「私?」
「居酒屋とか服屋とか?何でもええ」
「んー。酒場なら....そうですな。やってみますか」
「で、金使わせる」
「使わせちゃうの?」
「使わせた金が、店員の給料になる。商会も露天出そ。ほんで人雇う」
「ほっほー。回りますな」
「野菜できだしたやろ。あれも売らせたらええ。冒険者の肉かて買い取る。んで肉屋作ったらええ」
「タケシさん。すごいです」
「でもな、リシェル。その宝石、全部換金したらあかんよ。お母ちゃんが残してくれたんやから。大事に上手く使わせて貰お」
「私も商売に励みましょう」
「あぁ。そうやって回りだしたら、外からも動き始める。まずは最初の勢いやから」
「勢い?」
「あぁ。止まらんようにブンブン回したろ」




