復興の槌の音
隊員達がテントの設営をしている。
その一角で、タケシ達は作戦会議を開いていた。
「まず、食料支援は王都から一日おきに配送します。自給の目処が立つまで継続予定です。ですが同時に、農地の回復を急いでいただきたい」
「瓦礫撤去は、軍に任せて頂いて結構です」
「軍はどこまでやってくれるんや」
「瓦礫撤去と整地までです。建屋については……できれば住民の方々で」
「建材ぐらいは支援できんのか」
「可能です。王都から手配しましょう。ただし、簡易な小屋に限らせていただきます」
「仮設住宅か……まあ急ぐならしゃあないな」
一拍、空気が重くなる。
「それから……申し上げにくいのですが」
「なんや」
「この地は、国領となります」
「なんでや。リシェルがおるやん」
「……未成年です。現状では、サラディア領を継ぐことはできません」
「それではリシェル様は」ローデリックの声が強張る。
「この地に住むことは可能です。ただ、ご両親を亡くされている以上……ご親戚などに身を寄せる選択も」
「わたくし、ここにいたいです」
リシェルの声が通った。
「ここで、街を作りたいです」
スゥと風が、テントを揺らす。
タケシが、ふぅーっと息を吐く。
「つまり……軍は土台まで。街そのものは、俺らで作れっちゅうことやな」
「はい」
「……リシェルは継げんのか」
「方法がないわけではありません。例えば、どなたかの養女となり、その者が拝領を願い出れば――間接的にですが」
タケシはしばらく黙り込み、やがて頭をかいた。
「その話は、あとや」
リシェルに笑いかける。
「今は、生き残った連中の飯と寝床や。なあ、リシェル」
小さくうなずくリシェルの目には、迷いなどなかった。
その肩に、レオンがそっと手を置いた。
「ほな、こっちはこっちで作戦会議や」
テント設営が終わり、隊員達は瓦礫撤去に向かった。
街の者、城の生き残り、ミナセの応援部隊があつまる。
「わたくしは、ここで皆と、もう一度街を作りたいのです」
毅然と皆の前に立つリシェルに、誰もが少し不安げだ。
「なぁ聞いてくれ。こんな小さい子が覚悟決めてるんや。大人がビビってどないする。みんなで力合わせて、街、取り戻そうやないか」
「私達は、姫に従いますぞ」ローデリックが街の者達に向き直る。
「国は土地だけや。上はみんなで作る。ちいそうても、街が出来たら、出ていった奴らも戻ってくる。ここはみんなの街やからな」
「うん。そうや、俺らの街や」
「サラディア様には良くしてもろたんや。恩返しせなあかん」
男達が次々に立ち上がる。
「姫様はワシらの姫じゃ」
「なあ、がんばろ」
やがてーーその声が、雄たけびのようにこだましていった。
タケシは分担を再編した。
農地回復係は、まず農具の発掘から。焼け跡から道具類を探し出す。
建築係はミナセの大工と共に小屋の建築。
食料係は森で木の実や野草を探す。冒険者は狩りに出る。
支援係が食事の用意と怪我人の手当など.....
子供にもみんな小さな仕事を持たせた。
「んでな、リシェルは、みんなの声を聞く係」
「え?聞くだけですか?」
「いいや。報告でも文句でも、聞いたらそれをどないするか。誰に何を伝えるか。よう考えて自分で動くんやで」
リシェルがレオンの顔を見た。
「お手伝いします」レオンがニコッと笑った。
ミナセ便が届いた。山のように古着が詰まっていた。
支援係が全員に分けていく。
「これは助かります」
「さすがコンドウ商会ですね」とケインが言うと
「まぁな、国が気が利かんからな」とタケシが笑う。
着替えたリシェルが出てきた。
男の子の服を着ている。
「ん?スカートあったやろ?」
「こっちの方が動きやすいんです」
タケシがポケットを探って、リシェルの髪を高く結わえる。
「うん。可愛いで」
「えへっ♪」リシェルが跳びはねるようにして駆け出した。
ミナセ便にはボイルも乗ってきていた。
ボイルは早速、簡易鍛冶場を作り出した。
「焼け跡の鉄、打ち直しますから。積んどいてください」
「あぁ。道具足らんで困ってたんや。お前らほんまに気が付くな」
「もうね、ミナセ総動員で知恵絞ってますから。連絡ないし」
「そやなぁ。ポンプ隊は一旦返そかな。もうたいがいつけてるし」
ーーもう救援やなくなったな。次の段階や......
カーンカーンカーン
ボイルの鍛冶の音が響く。
「おーい、そっち、もっと上げてー」
整地の済んだところから、ペータ達が小屋を建て始めた。
瓦礫撤去も着々と進んでいる。
「ご飯出来たよー。順番に来てー」
リシェルが大声を張り上げたが、声がひっくり返って笑いが起きる。
「お腹すいたー」
木の実取りの子供たちが帰ってきた。
軍の到着から半月。
作業は進んでいるが、まだまだ焼け野原が広がっている。城も手つかずだ。
「リシェル、俺、いっぺんミナセに戻るわ」
「え?」
「街はな、家建てただけやアカンねん。そこに暮らし作るんや」
「暮らし?」
「あぁ。ここの撤去が済んだら、国からの援助もおいおいなくなる。その後のことも考えんとな」
「その後.......」
「準備したら直ぐ戻ってくるから。レオン置いていくからな」
リシェルがレオンの服を掴んだ。
「戻ってきてくれますね」
「ああ。どこにも逃げんから。レオン。出来るな」
「はい。師匠」
「分からんことは、みんなに相談してな」
「分かりました」
レオンがリシェルの手を握った。
カーンカーンカーン.......
「おつかれさま、で、どうなの?」
ミナセのコンドウ家。座敷に集まったいつもの面々。
「軍が来て、だいぶ楽になってるで、ルークの兄ちゃん来てな」
「えぇー。ケイン行ってるんだ」
「お前ら、そっくりやな」
「どこが。顔全然似てないでしょが」
「いや。軽いとこ」
がっくりうなだれるルーク。
「ともかくーーこのままでも何とか住めるようにはなるやろ。でもそれだけじゃアカンねん。復興はな」
「復興」
全員の顔が少し厳しくなる。
「そやな。住んで食いつなぐだけじゃ、復興とは言えん」カツミがタケシの顔を見る。
ーーそやな。カツミも知ってるな。あの景色。
「コンドウ商会は、次の出店を、サラディアにする」
「えっ」
みんなの顔が固まる。
「産業を持ち込むで。ちょうど次の出店先探してたんや。準備も出来とる。更地に一個づつ増やしていく」
「タケシ、いいのかい?商売にはなんないかもよ」
「結果は3年先、5年先でもええ。俺等ならやれる」
「タケシ。最初に行くんはクレスやな」カツミが後押しする。
「あぁ。農地回復からや。種いっぱい持っていったれ」
「馬車工房も行きます。荷車や台車も、直ぐに必要になります」
「ポンプは小物職人出せるよ」アキラが手を挙げた。
「でも......失敗したら大赤字ですよ」
「そやから今や。今のうちにあそこ取る」
「誰も来んうちに。ですな」
「いっぺんにはまだ無理や。小さい隊作って。商会は取りまとめと連絡係や。ええか、やるで」
「よっしゃー」
「ホント君たちって。こういうの好きだね」
「はぁ?国がなんもせんからやろ。カイルに言うとけ」
「国領になるみたいだけど」
「まぁ商売には関係ないけどな」
「確かに。許可も要らないしね」
「そやろ。好きにするわ」




