視察と援軍
翌日。
空が白くなってきた。
男達がゆっくりと動きはじめている。
タケシは、白馬車で眠っているリシェルに声をかけた。
「おはよう」
「おはようございます」
ほんの少し眠そうに、リシェルは顔を出した。
白馬車にはリシェルとメイドが二人。
「ええか?」
「はい」と幌を開ける。
「さぁリシェル。今日から働くで」
「え?」
「朝めし作るから手伝って」
メイドが顔を見合わした。
「その前にそのドレスな、切ろ」
裾が汚れたドレスを、メイドにハサミを渡して膝丈に切った。
「な、動きやすいやろ」
「はい」
「ほな行こか」
メイド達が湯を沸かし、ノマドを煮る。それを見ているリシェル。
タケシが椀によそい、リシェルに渡した。
「これ、青い馬車に怪我人おるから、持って行ったって」
ソロソロと歩いていくリシェル。
レオンが椀を器用に3つ持ってついて行った。
戻ってきたリシェル「あと3つです」
椀を持たすとまたソロソロと運ぶ。
レオンがまたついて行った。
「ほな、みんなに取りに来るように言うたって」
「タケシ様、リシェル様に仕事させるなど.....」
「ローデリック、姫が自ら動いたら、他のもんもぼーっとできんやろ。あんたもできること探して動いてな」
「は はい。あ.......そうですね。私も、城にまだ使えるものがないか、探してまいります」
「うん。崩れそうなとこには入ったらアカンよ。とりあえず食おか」
食事が済むと、タケシは全員を集めた。
男達は教会に向かうものと瓦礫撤去に分かれて作業。子供や女も、元気なものは廃材運びだ。一斉に動き出した。
リシェルも、レオンと一緒に廃材運び。
日が高くなる頃、数台の馬車が来た。
「タケシさーん」
「お、ペータか。速かったな」
見ると職人と冒険者が5人ずつ。
「みんなありがとう。このとおりや。手伝ってくれ」
「よっしゃー」と男達が瓦礫撤去に向かう。
「タケシさん、材木は明日になると思います」と、ペータ。
「悪いな」
「食料、降ろします?」
「1台にまとめとこ。残りの馬車は子供ら寝かすのに使お」
「次の便で調理人と食料が来ますから」
その日は何とか2件分くらい。
「ええよ。材木来たらここに下ろそ。みんな休んで。まだまだ長いから」
翌日も一斉にみんなで作業。
タケシは、城に残っていた貴族馬車を解体して、廃材運び用の荷車にしてしまった。
「ま、見た目より実用やねんで、リシェル」
「はい。もうあんな馬車いりませんものね」
しばらくすると、遠くから見慣れない馬車。
「ん?うちのんと違うな.....」
降りてきたのは数人の男達。だがどう見ても瓦礫撤去に来ているようには見えない、綺麗な服装。
「ここが、サラディア領かね」
ローデリックが前に出た。
「はい。そうですが、そちら様は」
「国王陛下より視察を命じられた」
「さようですか。ドラゴンの襲来にあいまして、このようなことに」
「サラディア公は?」
「それが......」
「父も母も亡くなりました」
リシェルが前に出た。
「そう....ですか。それはお悔やみ申し上げます」
男が周りを見回した。
瓦礫撤去の男達。幌付きの馬車。それから目つきのキツイ帽子の男。
「これは.......どういうことでしょう」
「は?」
「いえ、どなたがここを.....あなた....ですか?」チラリとタケシを見る。
「あぁこちらはコンドウ商会のタケシ=コンドウ様で、救援に来てくださったのです」
慌ててローデリックが説明したが、男はジロリとタケシを見た。
「ふん。何を勝手なことを」
それまで黙っていたタケシだが、そのひと言にキレた。
「おい、あんたら。食いもん位は持ってきとるんやろな」
「いや......」
「ほな何しに来たんや。見るだけやったらさっさと帰れ、邪魔になる」
「な、何だとー」
「カイルに言うとけ。役立たずよこしやがって」
「貴様、国王陛下の名を呼び捨てにするなど.......」
「うるさい」
「準国営であろうと、許せることではないわ」
「こっちは忙しいんじゃ、見てみい。みんな真っ黒になってやっとるやろ。手伝えんやつはさっさと帰ってくれ」
「フンッ。そのまま国王陛下に報告させてもらう」
「あぁ、どーぞ」
そのまま男達は馬車に乗り帰って行った。
「あの、タケシさん、大丈夫ですか?」心配顔のローデリック。
「ん?平気平気。カイルはそんな奴ちゃうし」
「でも.....」
「はいはい。みんなー作業続けてー」
その日のうちに材木が届き、翌日には食料と調理人が来た。
タケシが着いて5日後、やっと小屋の建築に取り掛かった。
毎日続く作業に、少し疲れが見え始めた。
子供や女は休ませ、男達も長い休憩を取るようになっていた。
口数が減って、冗談で笑う声もない。
「しゃあない。みんなしんどい。明日は全員休もか」
食料はあるが、十分に食べられるわけではない。寝るのも、そこら辺に寝転がるだけ。
「そうですな。休めばまた元気になるでしょう」
「リシェル、ええな」
「はい。そうしましょう」
そんな時、また向こうから馬車が。
「ん?5台?ウチのやない」
「国防軍第3中隊。サラディア領復興の為、赴任致しました」
リシェルの前で、敬礼する男。
後ろには30人程の制服。編み上げ靴がピチリと揃っている。
男はリシェルに歩み寄った。
「リシェル様。良くぞご無事で」ひざまずき、礼をする。
「あ、ありがとうございます」
男が立ち上がりタケシの方に向いた。
「ケイン=アウレリウスです。タケシ=コンドウさんですね」
「え?ケインって.......ルークの兄ちゃん?」
「はい。ルークがお世話になっております。父から、今回のこと、大変申し訳なかったと」
「はぁ?」
「コンドウさんがへそを曲げないよう、機嫌を取ってこいと言われました」ケインがニッと笑った。
「あのアホ」
「ともかく、野営用のテントを持ってきましたので設置させますが、よろしいですか」
「あー。助かる。ちょっとみんなへばってるんや。あっちにな。頼むわ」
「では」クルリと振り向く。
「設営始め!」制服が一斉に動きだした。
「.......やっと来たか」タケシが小さくつぶやいた。
「君が.....もしかして勇者レオン?」
「はい。そうです」
リシェルの後ろに立っていたレオンが顔を上げると、ケインがまたニッと笑った。
「そうかー。嬉しいなぁ、会いたかったんだよ」
リシェルがレオンの服の裾を握った。
「お噂はかねがね。不思議な武器だね」
「いえ」
「一度手合わせをお願いしたいな」
レオンがタケシの顔を見る。
「他流試合は禁じられております」
タケシがプッと吹く。
「残念。じゃあ後で模範剣技だけ見せて」
「はい。分かりました」
リシェルが心配そうにレオンを見上げた。




