名を残す街
「ほら。見えてきたぞ」
遠い山。低い森から川が流れ、その手前に畑が見える。開かれた土地はまだ家も少なく、道さえもはっきりしない。
崩れた城の周りに、いくつもの小屋が見えてきた。
働く人々。わずかだが露店も出ている。
タケシは、黒馬車をゆっくりと、崩れた城壁の中に入れた。
馬車を見て飛び出してきたのはリシェルだ。
「タケシさーん。おかえりなさい」と飛びついた。
「ただいま」
「タケシ様。おかえりなさいませ」ローデリックがうやうやしく礼をする。
「国より通達が参りました。お待ちしておりました」
「お、おう」タケシが見回すと、すでに大勢の人があつまっていた。
「あ。リシェル。これ、俺の嫁はん。カツミや」
「リシェルちゃん。カツミです、よろしくね」
「カツミさん、服とか食べ物とか、とても助かりました。ありがとうございます」ペコリとお辞儀するリシェルにカツミが目を細めた。
「タケシ。しっかりしたええ子やん」
「そやろ。んでこっちはヒューイ。ウチで預かってる子や。リシェルよりちょっとだけ兄ちゃんや」
「ヒューイ。よろしくね」
「は、はい」ちょっとヒューイが赤くなった。
「タケシ様。街の者を集めますので、お言葉を頂ければと」
「ローデリック、そのクソ丁寧なん辞めよ。俺落ち着かん」
「そう申されましても」
「ええから。な」
「承知致しました」
タケシがリシェルの前にしゃがんで目を合わす。
「リシェル。うちの子になるか」
「はい。わたくし、とても嬉しいです。あの.......お父さまとお呼びしてもよろしいですか?」
「あー。俺は.......お父さま?いやいや」
「では、パパ?」
「もっとあかんやろ」
カツミがため息をつく。
「タケシ。諦め」
「うぐぐ.......」
タケシは頭に乗った帽子をぐしゃぐしゃっとすると、観念したかのように笑った。
「......好きに呼んで」
「はい。お父さまお母さま。よろしくお願いします」
「コンドウ子爵閣下。この度はおめでとうございます」
「おい、ケイン。その閣下は辞めて。第一お前王族やから、俺より上やろ」
「いえ、今は軍人ですので」と言いながら笑っているケイン。
「絶対面白がっとる.......」
「師匠。おかえりなさい」
「あー。レオン。お前落ち着くわー」
「この度、タケシ=コンドウ殿が、国王陛下より子爵の位を賜り、ここサラディアの領主となられた」
ローデリックの声が響く。
拍手と歓声が沸き起こる。
「タケシ殿、お言葉を」
「んっんー。えーっと」
タケシはぐるりと見回す。街の者の熱い目がタケシに集まる。
ふぅー。っと息をついてーー
「まあ子爵ちゅうてもな、今までと一緒や。でもな、ここは俺の領になった。俺がここを守る。そやから、これからーーもっとええ街作っていこ。みんな、力貸してや」
「オォー!」
「バンザーイ」
歓喜が広がっていった。
「ここは、コンドウ領やけど、街の名はサラディアにするな」
「サラディアの名を残して頂けるのですか」
「当然や。リシェルの親が大事にした街やからな。んで城趾は公園に整備しよ。街のもんが集えるようにな」
「タケシ、城と城壁の処理だがどこまでやろう」
「そやなぁ。土台は遺してやって。上はやっぱり崩れたら危ないから全部取ろ。ただ石は置いといて、使うから」
「わかった。あと食料だが、そろそろ供給は止めるぞ」
「ローデリック、大丈夫かなぁ」
「はい。もう8割方行けておりますし、備蓄できるものは残しておりますので」
「そっか。じゃあこっちで回すわ」
「ローデリック、俺はずっとこっちにはおられん。だから代理置くな」
「はい。どなたを」
「実務はローデリックが見てほしい。城に残ってたもんも、元の職考慮して配置して」
「分かりました」
「で、俺の代理は......レオン。お前や」
「私...ですか」
「あぁ。適任や。リシェルかてそう思うやろ?」
「はい。勇者ですから」
「な。決まり。俺の留守、守ってくれ」
うつむくレオンの手を、リシェルがギュッと握った。
覚悟を決めるように、レオンが前を向く。
「分かりました。勇者レオン。師匠の代理の任、お引き受けいたします」
レオンの手がリシェルの小さな手を包んだ。
大人達が街の整備について相談している横で、リシェルとヒューイがオセロに興じている。
負けるたびに悔しがるリシェルに、カツミが時々アドバイスして何とか1勝を上げた。
「よっーっし。もう1回よ、ヒューイ」
「はいはい。かかってきなさーい」
「楽しそうやな」
「子供はやっぱり遊ばさなあかん」
「そうやな。そういうのも考えなあかんな」
「それで、役所というのは....」
「うん。とりあえず住民台帳作ろ。人がこれから増えていくやろから」
「タケシ、アキラ連れてきたら?」
「そうやなぁ。アイツ得意やな。防災都市構想も、ここなら出来るし」
「ボウサイトシコウソウ?」
「あー。川とか堀使って水の循環作るんや。そんで災害や火事に備えるねん。今ならどこでも掘り放題やしな」
「ほぉー」
「カツミ。一旦帰ってアキラ連れて来よ」
「うん。そのほうがええな」
「ほな、ざっとの区分けだけ考えよか」
「区分けですか」
「住宅地、農業、商業、工業。エリア作って街にするんや」
地図を広げて丸く囲い、線で道を描く。
「まあこんな感じ。ボチボチやろ。ボチボチな」
数日かけ領内を見回り、地図の線を増やして、タケシ達は一旦ミナセに帰ることになった。
「後のこと頼むな」
「はい。進めておきますので」
「レオン、任せたぞ」
「はい。師匠」
「お父さまお気をつけて。お母さまもヒューイも、またいらしてください」
「リシェル、次来た時は一緒にお料理しよな」
「はい。楽しみにしております」
「よっしゃ、行くで」
人の声と、槌の音が混ざり合う。
サラディアは、まだ未完成のまま——確かに動き始めていた。




